西の魔女とロリッ子戦士8
「・・・」
光の矢によって動きを封じられ、炎に焼かれながらもナナシはフレイヤを見据え、ニヤリと見を浮かべる。
ナナシは窮地を愉しんでいるようだった。
いや、実際、ナナシは窮地を愉しんでいた。
動きを封じられ、体は炎に燃やされている。
しかし、ナナシの肉体は数多いた最強との戦闘によって、あらゆる耐性を取得していた。
最強と戦い続ける為の進化ともいうべきか、ナナシの肉体はナナシを生かす為に、毒や菌を殺し、炎や氷を殺した。魔法すら既に例外ではなくなっていた。
ナナシの肉体は、炎で燃えても焼かれる事はない。
ナナシの肉体は、魔法で止められても封じられる事はない。
必然、ナナシは間もなくして動く事が可能だった。
ナナシが停止していたのは時間にして2秒程。
しかし、ナナシがフレイヤにこれ以上斬りかかる事はなかった。2秒という致命的な時間、動く事の出来なかったナナシに、月の雫が使用されたからだった。
砕かれた月の雫が、七色に輝きながら辺りを包む。
「宝を壊すという背徳間と、壊れた瞬間が最も美しいという事実が、何とも欲情を駆り立てますわね」
「フレが宝を求める理由が少し分かった気がする」
「あら、少しだけですの?」
「凄く分かっちゃったら、それはそれでフレにはよろしくないでしょ」
「それもそうですわね。・・・ところで、気分はどうです?」
レーフェスとの会話を終え、フレイヤはナナシに質問した。
月の雫には生命活動さえ鎮静させてしまう程、強力な鎮静効果がある。ナナシが鎮静効果で死ぬとは考えられなかったが、ナナシの狂いに対しては十分な効果を期待する事が出来た。例えナナシの肉体があらゆる耐性に護られていたとしても、月の雫の神聖さは毒とは真逆に位置する。護りに入るには穢れがなく、実際、ナナシの肉体が護りに入る事はなかった。
「かっか。最強よの」
ただし、ナナシの狂いが鎮静化されたからといって、それだけで大人しくなるのかと問われると、些か疑問ではある。
その答えとばかりに無刀の刃先が、フレイヤの喉元には突き付けられていた。
「あら、先程のように問答無用で斬りに来ないという事は、月の雫の効力が少しはあったという事かしら?」
「人形を斬った所で、益にはならんからの」
「よく利く鼻ですわね」
「鼻が利かねば、最強を見つけられまい?」
「御尤もですわね。ですがわたくし、貴方とこれ以上遊ぶつもりはありませんから、消えて下さいまし」
月の雫使用後、レーフェスによって魔法人形と存在がシフトしていたフレイヤは、魔法人形を通してナナシに告げた。
如何に強力な宝具や神具を所持していようとも、魔法を得意とするフレイヤと、剣技を得意とするナナシとでは相性が悪かった。
何より、ナナシはフレイヤの趣味ではなかった。
フレイヤはレヴァーティンを、神具として開放した。
祠の中にいるフレイヤは、レーフェスが創り出した魔法人形であり、勇者ワタル一行は全員が既に西の祠から脱出していた。
現在西の祠にあるのは、ナナシとナナシに斬り捨てられた魔女オリビア。魔法人形のフレイヤと本物の神具であるレヴァーティンだけだった。
レヴァーティンから放出された大炎が、祠のすべてを呑み込んでいく。
「・・・ぬぅっ」
レヴァーティンが発する木漏れ火程度では、ナナシは焼けなかったが、レヴァーティンの最大出力は世界すら火の海に変える。ナナシがいかに炎への耐性を所持していようが、レヴァーティンの神炎は人の器で耐えられるような、安い炎ではなかった。
レヴァーティンから這い出た炎は、うねりをあげながら祠のすべてを飲む込み、炎の龍となって空に昇っていく。
空には龍が昇り、龍の側には歯車世界が出来て始めて、ラクイアを照らす太陽が昇っていた。レヴァーティンの神炎に焼かれ、オリビアという歯車が完全に燃え尽き消失したからだった。




