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西の魔女とロリッ子戦士7

 フレイヤの前には二匹の化け猫が控え、見た目だけなら強そうな勇者もいる。

 しかし、ナナシの嗅覚は、赤いドレスで着飾った美しい女性こそが最強であると嗅ぎ分けた。

ナナシの持つ狂気が、フレイヤに向かって吹き荒れる。

「オーデ、エイン。十秒足止めなさい」

 ナナシの狂気に当てられるよりも前に、フレイヤはオーデとエインに命令を下す。

「ニャ」

 オーデとエインがナナシに向かって行く中フレイヤは、ナナシに対応する為、キビシスの袋から、涙のような形をしたガラス玉と、赤い剣を取り出した。

ガラス玉は月の雫と呼ばれる逸品であり、数多ある宝石の中でも最上級に位置する。現状はただの透明な宝石で、輝きはルビーやダイヤモンドは勿論、ガラスにさえ劣る。月の雫が宝石として最上の輝きを見せるのは、名の通り月明りに照らした時と、砕け散るその瞬間だけだった。

宝石として壊れる瞬間が最も美しい。だからこそフレイヤは、月の雫を使用する宝として選んだともいえる。

一方、月の雫と一緒に取り出した、赤い剣レヴァーティンは理由が異なる。

レヴァーティンは種類としては剣に分類されるものの、斬る為の形状はしておらず、枝のように歪に別れた三つ又の刀身は剣というよりも、芸術作品に近い。柄は所有者自身を傷付ける両刃であり、すべてが紅色をしている事から、敵味方関係なく焼き尽くす炎のようにも見える。武器としての形は成していないものの、見た目は文句なしに美しい。しかしフレイヤはこの剣を愛でた事は一度もなかった。

レヴァーティンはフレイヤが欲して手に入れた物ではなく、腹いせに盗んだだけの代物である為、文類としては最上の神具であっても、必要はなかった。

この場で取り出したのは、ナナシの持つ力量から、神話級の剣でも折られる可能性を危惧したからであり、フレイヤにとって折られても困らない武器が、レヴァーティン以外にないからであった。

 無論、折られても困らないといっても、実際に折られてしまう程、レヴァーティンは弱い神具ではない。寧ろ強過ぎる神具であるといってもいいだろう。

「ニャオアッ」

「シッ・・・」

オーデとエインを6秒で斬り捨てた隻眼隻腕の戦士ナナシが、一瞬でフレイヤとの間合いを詰め、無刀をフレイヤに向かって振り下ろした。

空間すら斬り割く無駄のない一線は、レヴァーティンによって食い止められたが、刃物同士の鍔迫り合いが起こる事はなかった。ナナシが一線を止められた瞬間に刃を返し、レヴァーティンを持つフレイヤの手首を斬り落としに掛かったからである。

「・・・」

その動きはあまりに一瞬であった為、フレイヤの目でも捉える事の出来ないものだった。が、フレイヤに刃先が届く範囲にナナシが踏み込んだ時点で、動きがどれ程早くとも、フレイヤには関係がなかった。

ここで敢えて一つの勝負があったとするなら、ナナシがフレイヤの腕を斬るまでの速度と、フレイヤの領域に入った瞬間に発動した魔法が、ナナシに直撃するまでの速度。という事になるのだが、軍配はどちらにも上がる事はなかった。

レヴァーティンを構えるフレイヤの手首からは、ポタポタと赤い血が流れ落ち、フレイヤの領域に入ったナナシは、無数の光によって動きを拘束され、体は赤く燃えていた。

ナナシが燃えたのは一瞬とはいえ、レヴァーティンの神聖に中てられたからだった。

「わたくしに血を流させる者が人の中にいるとは、想像していませんでしたわ」

フレイヤは血の流れる手首をそっと舌で舐める。

フレイヤの舌が撫でた傷はそれだけで癒え、僅かな跡さえ残る事はなかった。


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