西の魔女とロリッ子戦士3
ワタルは鉄の剣を振り下ろし、出現したモンスターに止めを刺した。
片手で数えられる位の幼少時代ならいざ知れず、それなりに成長したワタルにとって、モンスターを斬るといった行為はかなり抵抗があった。
獣型であれば、まるで動物を虐殺しているような感覚に囚われる。
「今回は見事に首を撥ね飛ばしましたわね。オッタル」
「ようやく剣に慣れてきたのかニャー」
「単純に、レベルアップの効果じゃないかニャ」
「どっちもかな」
モンスターを斬り倒したワタルは剣を鞘に納めた。
とはいえ、慣れというのは恐ろしいもので、動物を虐殺しているような感覚も経験と共に薄らぎ、現在では、モンスターを斬る事に殆ど抵抗も無くなっていた。
動物虐待者や連続殺人犯は、こういう風に感覚がマヒしていくのかもしれない。
「また一匹、捉えたわよワタル」
「とりゃ、おりゃ、そりゃ」
再び鞘から剣を抜いたワタルは、 レーフェスが捉え、レーフェスによって動きが封じられているモンスターを四度斬り、倒した。
ワタルにとってモンスターは今や、ただの経験値と化してしまっていた。
「オッタルの経験値もそれなりに獲得しましたし、今日の稼ぎはこれくらいで十分ですわね。あまりやり過ぎると、成長以前にオッタルの人間性が壊れてしまいそうですし」
「無抵抗なモノを嬲る趣味に目覚めたら、フレのせいね」
「だから止めましたのよ」
フレイヤはパチリと指を鳴らし、音が響いたと同時にワタルが倒したモンスターの死骸は、炎に包まれ灰となった。
武器防具を装備したとはいえ、まだまだ弱いワタルの経験値稼ぎに採用されたのは、ずっと俺のターンとばかりに無抵抗なモンスターを斬りまくる、惨たらしいサンドバック作戦だった。
この作戦の発案者はフレイアであり、この作戦によってワタルの心が荒んだのも事実だった。今もモンスターを斬り倒した事で息を荒くし、目も血走っていた。
こんな状態で元いた世界を歩いていたら、完全にヤバイ奴である。
「正しい判断ね」
「わたくしが正しくない事などあり得ませんわ」
「フレイヤ様はいつも正しいのニャ」
「・・・ふぅ」
ワタルは息を吐き、再び剣を鞘に納めた。
疲れや興奮はレーフェスの魔法によって沈静化され、ワタルは冷静さを取り戻していた。
魔法の効果とはいえ、モンスターを虐殺した後、すぐに冷静になっている自分というのも、中々ヤバイ奴だなと、ワタルは自身の状態を見て思った。
いずれにせよ、このサンドバック作戦によって、ワタルは二十のモンスターを倒し、レベルも1から10まで上がった。ミーミルの書に記載されているステータスこそ、低いままではあるものの、度重なるレベルアップによって、ワタルは自身が強くなっている事を実感していた。
「コイツ、何だか恰好を付けて、イキってる感じがするのニャー」
「あら、とてもいい傾向ではありませんか。実際、レベルも上がっていますしね」
「鼻くそが目くそになった程度の事ニャン」
「整ったのニャー。レベル1と10のオッタルとかけて、上のいない軍隊と解くニャー」
「その心ニャン?」
「どちらも大差(大佐)ないニャー」
「お上手ですわね。ですがそれはわたくし達の目線で見た場合の話。オッタル目線であれば大差ありますわよ。殆どのステータスが、レベル1の頃に比べると四倍近くまで上昇していますもの。ねぇ、オッタル」
「うん」
フレイヤに聞かれ、ワタルは頷いた。
ワタルはイケメンになり、強くもなった。
これはワタルの中では、大き過ぎる変化だった。




