西の魔女とロリッ子戦士2
西の祠に住む魔女オリビアは、永遠を廻る歯車世界の中、変化の役割を持たない数少ない人物だった。発展も衰退もなく、成長も老朽もないオリビアを人物と表現する事自体、もしかしたら違うのかもしれないが、オリビア・ゲイは確かに人の形をしていた。
歯車世界が誕生したその時から、ラクイアに設置された人の形を模した歯車。人の形をし、人の言葉を話すが、オリビアは世界を廻す為に必要な換えの利かない歯車であり、彼女の存在はまさに、スペシャルな逸品と表現してもよかった。
ただし、如何にスペシャルな逸品とはいえ、そんな彼女をフレイヤが欲しがるかと問われると疑問符が付く。なぜならオリビアはフレイヤの持つ多くの宝石や宝具と違って、美しくはないからだ。
童話に出てくる魔女のように痩せこけ、全身に皺が刻まれた老婆オリビアは、傍に置いておくには些か不気味であり、宝物とするにはあまりに気味が悪かった。
何よりオリビアは世界が用意した換えの利かない歯車であり、手に入れるとなると、些か面倒な存在だった。戦闘となれば所謂負けイベントに該当するような、通常にはない強さの設定も施されているからだった。
オリビアには宝としての輝かしい魅力はなく、手に入れる為の手段も相まって、労力と釣合いの取れない宝であると言えた。
「わしの名前はオリビア・ゲイ。西の魔女と呼ばれる存在さ。わしに一体何の用だい?」
「最強であるならば、手合わせ願いたい」
そして、そんなオリビアと今、強者と戦う事に対して、一切の労力を惜しまない流浪の戦士、ナナシが対面を果たしていた。
ナナシがオリビアを見付けたのは、ナナシの持つ役割ではなく、強者を嗅ぎ分ける嗅覚に従って動いたからだった。ナナシの体は、歯車世界にある役割の強制を受け付けてはいなかった。
「ほっほほほ。西の魔女に戦いを挑むか。命知らずの旅人も居たものじゃ」
オリビアは高笑いをし、決められた台詞を口にする。
ナナシの役割は勇者ワタルの仲間である為、これはオリビアが、ナナシの役割を見抜いての台詞だった。
「いざ尋常に」
ナナシは隻腕に無刀を構えた。
歯車世界においてオリビアは、敗北の二文字のない最強のシステムであり、ナナシは歯車世界の理にない最強。二人は世界にとって矛盾を抱えた存在であり、オリビアが歯車を護る盾とするなら、ナナシは歯車を壊す矛だった。
「勝負」
オリビアは絶対勝利のシステムとして、隻眼隻腕の戦士ナナシに向かって魔法を放った。
世界のシステムと最強の戦士との戦いが開始された。