歯車世界12
ラクイアの町から更に西に進むと、名も無い古びた祠が存在する。
祠には西の魔女と呼ばれ、恐れられる老婆が住みついている。
曰く、無限の魔力を持つ。曰く、時を操る。曰く、未来を視る。
西の魔女オリビア・ゲイは、凡そ人の領域にない存在であり、ラクイアの人々は彼女に対して、畏敬の念を抱いていた。
ラクイアはオリビアの魔を象徴する町であり、ラクイアが太陽の沈む町と呼ばれているのは、オリビアによって常にその状態が保たれているからだった。ラクイアの町はいつ、誰が訪れたとしても、太陽が沈む瞬間があり続け、それ以上沈む事も昇る事もない、永遠に夕日があり続けた。
これは、遥か昔から伝わる伝説であり、現実だった。
「簡単に話すと、こんな所かね」
マスター簡単に西の魔女についての説明をした後、グラスの中にワインを注いだ。
「中々、興味深い話でしたわ」
フレイヤはグラスに入れられたワインを一口飲み「ふぅ」っと息を吐いた。
ラクイアの町に入る前、太陽は今まさに沈もうとしている瞬間だった。しかし、ラクイアの町以外では、太陽が昇り降りしている所をフレイヤは見ていた。
つまり実際の太陽をオリビアが停止させているわけではなく、そういった幻覚をこの町に見せているというのが、フレイヤの考えだった。しかし単純な事であれ、それを永遠近くやり続けるとなると、拷問に等しい労力を必要とする。
こういった場合、意思を持たない道具というシステムに頼る事が一般的だった。
そして、そういった役割やシステムを持った道具の多くが、特別な逸品である事をフレイヤは多くの経験から理解していた。