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歯車世界11

 

 ラクイアの町は、祭りでも開かれているのかと錯覚する位、活気のある町だった。外を歩けば、ギルド登録を勧めるモヒカン男のように、食事や宿、娯楽を勧めてくる人物が多く存在し、至る所で近代的なネオンが輝いていた。

 RPGによくある、ファンタジー要素の強い町というよりは、近くに電車やバスが走っていてもおかしくないような、現実的な作りをしていた。魔法やモンスターの世界ではなく、科学と人の世界。

 ラクイアの町は、ワタルが居た世界と少し似ていた。

「レーフェは、この町に来た経験はありまして?」

「あの森から殆ど出ない引き籠りだったから、町に来た事自体が初めての経験よ」

「好奇心が高そうですのに、意外ですわね」

「突然訳も分からない世界に引き摺り込まれたら、他に気が向かなかった。と言いたい所だけど、言われてみると少し変かもね」

レーフェスはフレイヤが言う以上に高い好奇心を持っている。それは一人の魔法科学者として培ってきたものであり、祖父から受け継いだものでもあった。ここが目指した目的地でなく、セト達とも連絡が取れなくなった事もあって、レーフェスは戻る方法を模索して引き籠っていたが、出来る事は既に頭打ちになってもいた。

にも関わらず、外に目を向けなかったのは、魔法科学者レーフェス・ラミア・マルクスとしておかしな事ではあった。

役割を果たす為に、同じ事を繰り返していたという事だろうか。

「ちなみに、レーフェはこの世界に来て、どれ位の時間が経っていますの?」

「一ヵ月くらいかな」

「わたくしやオッタルよりも、遥かに先人ですわね」

「・・・」

 フレイヤに頭を触れられた為、ワタルは静かに頷いた。 

 フレイヤが歯車世界に来たのは、今から四日前の事であり、ワタルが落とされたのは三日前の事だった。フレイヤもワタルもこの世界に来て殆ど時間が経っていなかった。

「私達が集まったのは、何かの意思が働いての事みたいだけど、同時でなかったのは歪みや相似性の違いかしら・・・」

 時空の歪みというものは、一秒を何処までも引き伸ばす事もあれば、圧縮する事もある。しかし、同じ意思の元で働いたとなると、歪みというよりは相似性によるズレの方が、確率としては高そうだとレーフェスは考えた。簡単に言ってしまえば、レーフェスの居た世界がワタルやフレイヤの居た世界に比べ、歯車世界との間に多くの共通点を持っていたという事である。近しい世界線にあったとでもいえば適切だろうか。

「その答えは、宝を得た後に解き明かせば良い事ですわ。冒険を続けていけば、わたくし達を呼び込んだ当人にも、会う事が出来ますでしょうし」

「仮説を立てたくなるのは、科学者の性よ。それにしても、客引きを無視して歩いてきたら、周り何も無くなっちゃったわね」

「こういう少し離れた所に、隠れ家的な酒場や料理屋があったりしますのよ。あそこなんて、まさにその隠れ家的要素がありそうですわ」

 派手な装飾もなく木造建築の建物をフレイヤは指差した。

逆引きが多くいた繁華街とは違い、ファンタジー要素の残された、どこかホッとする建物だった。隠れ家というよりも、冒険者達が気兼ねなく、派手に馬鹿騒ぎをしていそうな雰囲気があった。

「隠れ家だと、情報収集という第一の目的からズレてる気がしなくもないけど」

「そんな事、気にしたら負けですわよ」

 フレイヤは言い、そのまま酒場の中に入って行った。

 実際にそのまま酒場に入ったのは、フレイヤを乗せているワタルなのだが、イノシシ状態のワタルはフレイヤの使い魔であり、ワタルの行動にはフレイヤの意思が多分に含まれていた。

「はい、らっしゃ・・・イノシヒでのご来店は流石に勘弁願いたい。一応ここは、料理も提供してるんでね」

「あら?別に暴れたりはしませんわよ。少なくとも、貴方よりは綺麗でもありますし」

「確かにツヤツヤだが、そういう問題じゃないよお客さん」

 イノシシ入店お断り。といった張り紙は何処にもなく、イノシシに関する注意書きも書かれてはいなかったが、酒場のマスターは明らかに気分を害しているようだった。

「客は俺達しか居ねぇんだ。イノシシが入って来たからと言って気を使う必要ねぇぜマスター。」

「へっへっへっ」

「ひっひっひ」

「と、あちらの親切な方々が言ってくれていますわよ」

「お客さんがそれでいいなら止めやしないが、客同士のトラブルには、一切責任は持たない事は一応言っておくよ」

「トラブルなど、起きませんわよ」

 マスターによる遠回しの忠告を気にする事なく、酒場の中に入ったフレイヤは、荒くれ者達がいる場所とは反対の席に移動し、そのまま席に腰掛けた。

 フレイヤが椅子に座った為、ワタルはお座りのポーズでその場に待機する。

「なんだよつれねぇな、こっちに来て一緒に飲も・・・」

「・・・」

「・・・」

 こちらに向かって来た荒くれ者達だったが、ヘビに睨まれた蛙のように突然その場で動きを止め、体も服も全てが灰色に染まっていった。

 その後荒くれ達は二度と動く事はなく、色を取り戻す事も無かった。

「マスター、取り敢えず全ての料理と酒を持って来て下さる?」

「あっ、あぁ・・・」

「情報収集は?」

「レーフェは、あれ等と会話がしたかったのかしら?」

「会話が成り立つ程、知能があったようには見えなかったわね」

「つまりどちらにせよ、情報は得られなかったという事ですわ」

「お客さん達は何か情報が欲しくて、ここに来たのかい?」

 ビールにワイン、シャンパンにウイスキーなど、多くの酒をテーブルの上に並べつつ、酒場のマスターは質問してきた。荒くれ者が石になった所を目撃しているにも関わらず、中々豪胆なマスターである。

 それとも、情報を与える役割をこのマスターは担っているという事だろうか。

「魔王についての情報を、集めていますわ」

「その情報を持っている奴は、恐らくこの町にはいないな。だが西の魔女なら或いは、知っているかもしれない」

「西の魔女。面白いワードですわね。詳しく話を聞かせて頂いてもよろしいです?」

 フレイヤがマスターに質問すると、マスターは「料理が出来るまでの与太話程度で聞いてくれ」と言って、西の魔女に付いて語り始めた。




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