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歯車世界9

歯車世界で与えられる役割の中には、勇者や魔王がそうであるように、行動や思想に強制力を持った役割も多く存在している。しかし、強制的な力が働いていたとしても、役割に疑問を抱く者は、歯車世界には一人も居なかった。役割を全うするという事は、呼吸をするように自然で、意識するものではなかった。そして呼吸と同じように、この行動を意識的に放棄したなら、死が訪れる事を、歯車世界の住人は本能的に理解していた。

歯車世界の歯車は噛み合った状態で回り続ける。

フレイヤが自身よりも遥かに弱く、宝も何も持たないワタルの仲間になったのも、この強制力が働いたからであり、役割を果たしながらフレイヤは、強制は強力な宝の成す魔術であると認識していた。

異世界の女神フレイヤにさえ、役割を強いる事が可能な魔力を持つ宝。それだけで神話級のスペシャルな逸品である事が想像できる。そんなスペシャルワンに侵されているにも関わらず、住人が役割に疑問を持つ事など、起こるはずがなかった。

「私が協力を要請したのも、フレがそれを飲んだのも、そういった強制力が働いたからって事?」

「勇者やその仲間であれば、役割による強制力はより強くなると予想できますし、可能性はかなり高いと思いますわよ。強制というよりは誘導かもしれませんが」

「上手く流されてしまったというわけね」

「レーフェには、あまり重要な事ではないかしら?」

「えぇ、今はまだ重要ではないかな。寧ろフレに引き合わせてくれた事を感謝したいくらい」

 レーフェスにとってフレイヤは、リアルユグドラシルにより近い存在であり、この世界のシステムよりもフレイヤ個人に強い興味があった。

「わたくしに興味を持つとは、命知らずもいい所ですわね」

「勝手に興味を持って、勝手に色々とするだけだから、フレに迷惑はかけないわよ」

「それで良質な宝を創り出せるというのであれば、構いませんわ」

「フレにとっての宝になるかどうかは分からないけれど、善処するわ。ところで、次の目的地や他の仲間の居場所は分かっているの?」

夕日の沈む方角に進みながら、魔法使いらしく箒に跨り移動しているレーフェスは、イノシシ勇者に乗って移動しているフレイヤに質問した。

「残念ながら、それは全く分かってはいませんわね。こういうのは本来、村人などから情報を得て進めていくものですもの」

「私の情報も村人から得たって事?」

「レーフェとの出会いは、この子達が宝を見付けた事による、偶然のイレギュラーですわね。本来であれば先程わたくしが言った通り、村人などから情報を得た先にレーフェという仲間が居たのでしょうが・・・レーフェのヒントを出す役割を持った村人達は、何処かで泣いているかもしれませんわね」

 フレイヤは、ワタルの頭上に座っているオーデとエインの頭を撫でながら答えた。

「フレが、役割を色々と無視しているという事だけは分かったわ」

「意図的ではありませんし、意図せずに起きたという事は、世界のシステムにとっても許容範囲内の事。問題視すべき事柄ではないという事ですわ」

「役割を強制する世界の割に緩いのね」

「各々が役割を果たしたなら、到達する結果は決まった物になりますから、結果を導く過程には大した意味はないのかもしれませんわね」

「その理論でいくなら、今から魔王を倒して、私達の役割を終わらせても構わないという事になるわね」

「居場所と行き方が分かれば、それも可能だと思いますわよ。もっとも、この居場所と行き方を探す事こそが、冒険の醍醐味ですけれど」

「フレ、もしかして楽しんでる?」

「宝というのは得た時も素晴らしいですが、探している時も心躍るものですもの。宝を得たという結果も宝を得るという過程も、どちらも大切という事ですわね」

「その気持ちは何となく分かる」

「宝はあげませんわよレーフェ」

「私が欲しいのはフレの協力で、フレの宝じゃないわ」

「そうでしたわね」

 フレイヤは楽しそうに笑みを浮かべた。歯車世界における仲間という役割がそうさせているのか、単純にお互いの性質によるものなのか、レーフェ、フレと互いを愛称で呼び合いながら、二人の会話は続いた。

 ワタルが、二人の会話に入る事は一度も無かった。



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