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歯車世界5

フレイヤは歯車世界で、ワタルが最初に出会った女性だった。

お尻の近くまであるウェーブの掛かった髪は、濃い赤と黒を混ぜたような色をしており、燃え盛る炎のように不思議な魔力を持っていた。瞳も髪と同じ魔力を持った赤。全身から強烈な色香を漂わせており、濡れた赤い唇は淫猥にさえ映る。赤く高貴なドレスを身に纏っており、胸元は半分以上が露出していた。

フレイヤから受けた第一印象は、恐ろしい力を持った美しい魔女というものだったが、ミーミルの書によるとフレイヤの職業は賢者となっていた。レベルは70で他のステータスの全てが9という数字で埋め尽くされていた。

簡単に言ってしまえば、どの数値もカンストしていた。

「オッタルが、フレイヤ様の情報を盗み見ているニャー」

「フレイヤ様を覗こうなんて、いい度胸だニャン」

「あら、わたくしは一向に構いませんわよ。覗きであろうと盗み見であろうと、それをするという事はわたくしに興味があるという事ですもの。興味を持たれるという事は、とても素敵な事ですわ」

「フレイヤ様が寛大で助かったニャ?」

「そう、だね」

 ワタルは猫見知りしながら目を逸らしつつも、エインの問いに何とか答えた。 

 フレイヤに興味がないと言えば当然嘘になる。ミーミルの書に記されたステータスが嘘ではない強さを持った、美しく聡明な女性が、コミュ障で何の取り得もないワタルに優しく話し掛けてくれるのだから、それだけで興味を持たない方がおかしな話だった。その上、巨乳でエロいのだから、男として興味を持つのは極自然で当たり前の事だと思う。

「ですが、知りたい事があるのであれば、書を通してではなく、わたくし自身に直接聞いて欲しくはありますわね」

「ひ、人と話すのは・・・苦手で・・・」

「フレイヤ様は人ではないのニャー」

「お前と同列だなんてありえないニャン」

「ご、ごめん」

 二匹の猫に睨まれ、ワタルは謝罪した。

 この二匹の猫は本当に怖い。

「あら、同列に扱われたとしても、わたくしは気にしませんわよ。オッタルがわたくしを見て、同列であると考えたのであれば、わたくしはその考えを尊重します」

「フレイヤ様、心が広過ぎるのニャ」

 オーデとエインはフレイヤの寛大さに声を揃えた。

 フレイヤは人の遥か上に立つ女神であり、女神であるフレイヤと人であるワタルが同列になるなどあり得ない事だった。オーデやエインとしては、認める事なく抗議したかったが、一介の使い魔に過ぎないオーデとエインに、主人であるフレイヤの意見を覆す権限は当然無かった。

 つまりこの意見を通させない為には、フレイヤではなくワタルに、同列ではないと認めさせる事が必要だった。

 オーデとエインの二匹は同時にワタルを睨んだ。

「な、なに・・・?」

「オーデとエインはフレイヤ様のペットニャ。オッタルはフレイヤ様にとって何だと考えているニャ?」

 二匹の猫はワタルを睨みながら質問する。 

 これは、ワタルが昨日知った、至極どうでもいい気付きなのだが、オーデとエインは同時に同じ事を口にした時、語尾がニャで統一される。

 二匹の中にある、ちょっとした拘りを感じた瞬間だった。

「早く答えろニャ」

「仲間・・・で・・・」

 オーデとエインがなぜ睨んで来るのか、今一分からなかったワタルは、ミーミルの書に書かれていた言葉を口にした。

 ワタルとフレイヤではどう贔屓目に見たとしても、釣合いが取れていないものの、世界が決めたフレイヤの役割は賢者であり、賢者の役割を与えられたフレイヤは、例え釣り合っていなくとも勇者ワタルの仲間だった。

「身の程知らず過ぎニャ。馬鹿なのかニャ」

「あら、仲間。とてもいい響きではありませんか」

ワタルの回答に二匹の猫は不満そうだったが、猫の飼い主であるフレイヤは少しだけ嬉しそうだった。

エロくて優しいとか、ワタルにはフレイヤが女神に見えた。

「でも、ただの雑魚ニャー」

「釣り合っていないのニャン」

「あら、仲間というのは、釣合いや損得勘定でなるものではないと、わたくしは思いますけど?」

「フレイヤ様が、何だかまともな事を言っているのニャー」

「頭でも打ったのかニャン?」

「失礼な事を言いますわね。エイン」

「ごめんなさいニャン」

「ですが、わたくしらしくないと思うのであればそれは、この世界にある宝が、それ程に強い力を持っているという事かもしれませんわね」

「フレイヤ様に、そこまでの影響を与えているのかニャン?」

「それは、この世界に来た瞬間からヒシヒシと感じていますわ。例えるなら、世界という歯車にピタリとハメられたような、そんな感覚ですが、世界に犯されるというのは、あまり気持ちの良いものではありませんわね」

フレイヤは魅惑の唇を人差し指で撫で、ニヤリと笑う。その表情は勇者の仲間である賢者とは掛け離れた禍々しさを持っていたが、ドレスから覗く胸の谷間を見つめていたワタルが、気が付く事はなかった。


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