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謎ボム

アホみたいな話です。頭を空っぽにしてフィーリングで読んでください。5話以内に完結予定です。

部室が爆発した。

もう一度言おう。部室が爆発した。

「は?」

朝、字森文人(しのもりふみと)が文芸部の部室に向かうと、自身がおよそ一年半、青春の一ページを刻んできた思い入れ深い部室が、コンクリートと鉄筋と諸々の塊が粉砕された瓦礫の山へと変貌を遂げていた。


「クラスター爆弾よ」

「は?」


後ろからヌルッと現れた幼馴染の筆崎理花(ふでさきりか)が呟いた。何を言っているか全く理解できない。


「この学校で今流行ってるでしょ、クラスター爆弾。タピオカの次に女子に人気のクラスター爆弾。どこでなにが爆発しようと、大抵の場合『クラスター爆弾だから仕方ない』で片がつくクラスター爆弾。クラスター爆弾は全てを許される…」

「は?」


そんな事実は全く知らない。字森は目の前に宇宙が見えた。銀河系の成り立ちまで思いを馳せた辺りで、意識が現実に引き戻される。


「理花は大丈夫だった?爆発に巻き込まれて怪我とかしてない?頭の中はだいぶ怪我してるけど」

「心が重傷なので全く大丈夫じゃないわ」

「それは見ればわかる。それにしても、これ…ど、どうしよう…」

「クラスター爆弾なら許す。そうでないなら殺す」

「9割方クラスター爆弾じゃないよ。うちの父親のへそくりに賭けて誓えるよ。あとクラスター爆弾なら許せるってなに?」

「犯人には辞世の句を考えてもらうわ」

「クラスター爆弾云々は超高度な現実逃避だったんだね…?」


思えば彼女は、この文芸部…いや元文芸部の副部長だった。部長は幽霊部員をキメているので、実質部長のようなものだ。真顔のように見えるが、心の内ではかなり混乱しているのだろう。


「そういえば、こんな朝早くからどうして部室に?僕はちょっと忘れ物があったんだけど」


文芸部は基本的に放課後にしか活動しない。始業前にわざわざ部室に向かうような用事も思いつかなくて、彼は首を傾げた。部室の崩壊騒ぎを聞きつけてやって来たにしては、周囲には人も居ない。この学校では爆発も崩落も炎上も日常茶飯事なので、この程度のことでは最早騒がれないのだ。別にクラスター爆弾は流行っていないけれど。


「私も忘れ物よ。昨日パソコンにUSBを差したまま帰っちゃったから、早く取りに来たかったの。大事なものが入ってるから」

「大事なもの…って、もしかして、原稿?」

「そうよ。昨日書き上げて、後は推敲して修正するだけだった原稿よ。冬の木文藝大賞に投稿して札束になる予定だった原稿よ」

「当たり前ながらめっちゃキレてるじゃん…」


自身の原稿の入賞を露ほども疑っていない自信家なところは相変わらずだ。しかし、その自信には実力が伴っている。彼女の原稿が本当に投稿されていれば、ほぼ確実に入賞しただろう。字森にはそれが断言できた。

彼は、彼女の物語に惹かれて入部届けにサインしたのだから。

彼女は今回の原稿を書き上げるまでに何度も試行錯誤を繰り返してした。本人曰く、今までの中で一番の出来らしい。それだけに、この後犯人の身に起こるであろう惨劇を思うと寒気が走る。


「すごく嫌な予感がするんだけど、今後の予定を聞いてもいいかな」

「犯人探し」

「わかった。裁判になったら弁護席に立つからね…」

「どうして相手をミンチにすることが前提なのよ」

「相手をミンチにすることを前提にした覚えはないよ」

「ところであんたの今日の昼食はハンバーグだっけ?」

「このタイミングでハンバーグとか言わないで。というかそもそもハンバーグじゃないんだけど?」


ミンチからの連想だとしたら嫌すぎる。彼はまた宇宙の成り立ちについて思考を始めそうな自身の意識をなんとか現実に引き止めた。


「何はともあれ、犯人探しをするなら急ごう。始業前だから生徒は少ないけど、今ならまだ証拠は残ってるかもしれない。隠滅される前に見つけ出せたらラッキーだ。…まあ、そんなに簡単には見つからないだろうけど…」


*******


見つかった。証拠品ではなく犯人が。


「ん?爆発?あぁ、俺だぜ!!!!」


爆弾の入手経路を探るために火薬同好会部室ーー第2理科準備室を訪れた二人に、真夏の太陽の如き晴れやかな笑顔を浮かべ、火薬同好会会長・火村熱男(ひむらねつお)が自白した。目がどこまでも澄んでいる。字森の隣に立つ彼女の、ドブ川のような目とは対照的だ。


「り、理花…大丈夫…?深淵みたいな顔してるけど…」

「文人」

「嫌な予感しかしない」

「ちゃんと聞いていてね。今から彼の一世一代の辞世の句ターンよ」

「世を辞すにはまだ早いかな!早いんじゃないかな!!事情聴取の前に実刑判決を出すのは司法が許さないんじゃないかな!!!?」

「何の前触れもなく自分の部室を爆発四散木っ端微塵にされたら慈悲の女神先輩だってノータイム粛正するわ」

「慈悲の女神は君の先輩じゃない」


今にも事を構えそうな白木を必死に抑えながら、字森が火村に質問する。


「えっえーと火村くん?だっけ、君がうちの部室にクラスター爆弾を投げ…あっ違うクラスター爆弾は理花の妄想なんだった。まあなんでもいいけど、君が爆発事件の犯人ってことでいいのかな」


その問いかけに、火村はどこかきょとんとする。


「犯人?確かに火村ボム作って文芸部の部室に持ってったのは俺だけどよ、別に起爆させてないぜ?」

「いや火村ボムってなに」

「この学校に古から伝わる『人間には傷ひとつ付けないが建物は瞬時に粉になる謎爆弾』を、俺流に改良したボムだ!今この学校で流通しているボムの8割は火村ボムなんだぜ!」

「えっ知らなかった…。何その物騒すぎるマジックアイテム…みんなそんなに火薬の輝きを欲してるの…?火薬同好会ってもしかしてこの学校では由緒正しい組織なの…?」

「割とみんな携帯してるらしいわよ、ここの爆弾。2組の女子の間ではピンクの火村ボムがインスタ映えするって理由で流行ってるみたいね。」

「世紀末かな?」


字森はオオカナダモの細胞分裂に思いを馳せることで辛うじて正気を保った。今意識を飛ばせばこの場は混沌の坩堝と化すだろう。それだけは防がねばならない。


「まあその辺は一旦置いておくとして、君が起爆させた訳じゃないってどういうことかな?そもそもなぜうちの部室に爆弾なんて仕掛けたの?」

「そうよ!適切な理由を述べられなければお前を伸ばすわ」

「世紀末かな?」

「あれ?お前らの依頼じゃなかったのか?1週間前、俺の机に手紙が入っててよ。『9月20日に、文芸部室内に火村ボムαを届けてください』って書いてあったから、文芸部の誰かが必要としてるのかと思って、期日通りにダンボールに入れて部屋の中に置いといたんだ。今までも手紙やメールで頼んでくる奴は何人かいたしな。特に不審には思わなかったぜ!ちなみに火村ボムαとは、小さな部屋ひとつをピンポイントで爆破するのに最も適したボムのことだ!」

「めちゃくちゃ不審じゃないの脳みその代わりにマシュマロでも詰まってんの!?私たちに!確認!!しなさいよ!!?」

「理花が珍しく正論を言っている…。つまり、君はただボムを運んだだけで、起爆させた人物が別にいるってことか…。9月20日…昨日だね」

「運ばれたてホヤホヤじゃないの…。でもおかしいわね。昨日も私たちは部室で活動していたわ。妙なものは見かけなかったけど」

「部活なんだから、他にも生徒はいるんだろ?お前らが気づかねーうちに、誰かがパパッと回収したんじゃねえか?」

「火村熱男、よく聞きなさい。文芸部の全部員数は私たち含めて3人。そして、うち1人は幽霊部員よ。つまり文芸部員は実質2人ね!」

「なんで誇らしげなの?」

「要するに、ボムは私たちが部屋に行く前に犯人に回収するなり隠すなりされたってことよ。部員は2人しかいない、内部犯は有り得ない。活動時間中に部外者が紛れ込むことも出来ない。我々の不在中にボムを入手したのちに、何故かその場では起爆させず、わざわざ私たちが活動を終えて帰った後に起爆させたーーボム男、いくつか質問させてもらうわ。まず、あなたがうちの部室に来たのは何時頃かしら。それと、その時に誰か…人影とかは見かけた?」

「そっちに行ったのは、今と同じくらいの時間だな!大体7時ちょっと過ぎくらいだ。俺は火薬同好会の会長だからな!毎朝早めに来て、火薬の調子を見るって日課があるんだ。人影なんかは特に見なかったぜ」


火村の回答を聞いて、筆崎は顎に手を当て考え込む。


「ということは、犯人が部室に運ばれたボムを回収したのは午前7時から放課後、私たちが到着するまでの間ってことね…。範囲が広すぎて特定しづらいわ。休憩時間とかにサッと部室に寄ってボムを取っていくことは誰にでもできるし、部屋の鍵は今壊れてる。時間帯から犯人を絞るのは、現時点では難しいわね」


雑多な道具類に埋もれるように置かれた、どこか煤けたソファにもたれながら、筆崎はブツブツと呟く。指が小刻みにソファの背を叩く。考え事をする時の彼女の癖だ。


「どうする?アリバイ調査でもするの?」

「それもいいけれど、一旦別の方向から攻めてみましょう」

「別の方向…?」


火村は飽きたのか、棚にびっしり並んだ謎の道具のメンテナンスを始め出した。肝心の火村ボムとやらは、全て箱に収まっているようで姿は見えない。


「動機よ。私たちに喧嘩を売る理由がある人間…それを探すの」

「喧嘩を売られる理由なんてそんなの………めちゃくちゃあるな………。主に君に」

「私にはその覚えはない!と言いたいけれど。ーー実は、私たちに喧嘩を売りそうな相手に1名というか2名、心当たりがあるわ」


コツコツコツ、という小さな音は止んでいた。ソファの背を叩く指はいつの間にか止まっている。くるっと顔を字森の方へ向け、彼女はニコッと笑った。笑顔なのに何故か怖い。


「今からそいつらに会いに行くわよ、文人」



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