答7-6
振り下ろされた攻撃は、まばゆい光を放ちながら俺の脳天に狙いを定めて落ちてくる。
俺はとっさの事に反応しきれず、頭への致命傷は避けたものの大きくダメージを受ける。
ショットカード系の斬り下ろす大技に【朽梛】を重ねたダメージ増強が入っている。1発とはいえもらうべきでは無かった攻撃だ。
俺は小さく舌打ちすると、すぐに状況判断に頭を回す。
周囲に居た人形は俺もろとも斬撃の余波を食らって破壊されている。
その影響で俺の周囲に少し空間が出来たが、それは水が流れ込むように一瞬で人形の群れで塗りつぶされた。
すぐに戦闘再開。まずい、レミングスを見失った。
俺は人形共の相手をしながら彼女の痕跡を探す。何かが強く光を反射した。
俺は背後のNPCを蹴り飛ばし、その位置に自分の体を引き入れる。
目の前には刀の切っ先。人形達の影から手と【朽梛】だけが飛び出ている。それは手応えがないと見るやすぐに引っ込んだ。
「なるほどね……」
同じようなやりとりが何度も行われる。
レミングスの攻撃は以前よりも鋭かった。
ただでさえ人形どもに邪魔をされるのに、その隙間から煌めく銀閃はほとんどがクリティカル狙いだ。なんと恐ろしい。
まるで永遠に援軍が来続ける上に、単体も強大なボス戦をやらされているかのような気分になる。
そんなものオフラインでやったらクソゲーもクソゲー。難易度を上げておけば面白いとでも思ってるのかと突っ込まれる典型的なクソバランスゲーだ。
だが、ここではそれが許される。
そもそも最初のスペルを妨害出来なかったこちらが悪いのだ。俺にとってクソゲーになったのは相手が1枚上手だったからで、文句は言えないだろう。
だがこのままというわけにも行かない。俺は逆転の手を打つべく、彼女に話しかけた。
「レミングスさん、久しぶりです! この間はどうも!」
返事は無く、代わりの俺の胸部を狙った攻撃が飛んでくる。刀だけではなく、こう合間に普通のバレットカードを仕込んでくるあたり隙が無い。
「ちょ、ちょっと話しませんか!?」
「あぁん? 今戦闘中だぞ!」
おっと返事があった。俺はアクティブ化してあった【花鼓】を撃つ。
ぽんっ! と小気味良い音をたてて、狙い通りなら彼女の足元に大輪の花が咲いているはずだ。
それはうまく行ったようで、人形達の隙間からむくむくと起き上がる巨大な花に乗せられ、彼女は雌しべに足を取られ転んだ姿で持ち上げられた。
「お返事ありがとうございまーす!」
「だぁっ! もう!」
足に絡んでいた蔦のような雌しべを斬りはらいながらレミングスが立ち上がる。その正面に俺の【焼夷の息吹】を当てた。燃え上がる花弁に包まれ、小さな悲鳴が聞こえた。
周囲に燃えるモノがなければ、自分で作ってしまえば良いのだ。
レミングスが延焼ダメージに気を取られている間に、まとめて燃えている人形を蹴飛ばして包囲を抜ける。
ようやく元の進行方向側に飛び出した。
俺は遠方に意識を集中する。
これだけ追い詰める為の手を打っておきながら、俺への攻撃がNPCとレミングスだけというのは不自然だ。
クルーエルはどこにいる?
どこからか彼が【艶やかな芳香】を当ててきたはずだ。
本来ならそれほど離れていない場所からしか使えないはずなのに、俺の認識外、ミューミューの索敵範囲外から攻撃してきた。
レミングスが唱えたのではない。あのカードは遮蔽物越しには使えないので、アーケードの屋根の上からでは使えない。
ならば、アーケードの正面側か背後側のみ。背後にミューミューが隠れていることを考えると、答えは正面側しかない。
今までは雑然とした戦闘で狙いにくかっただろうが、包囲を抜け出し、俺と彼の間に遮蔽物が無くなったこのタイミングなら。
俺の予想通り攻撃は来た。
しかし大技の可能性も考えていた俺の「正面から攻撃が来る」という予想通りではなく、正面に立ちふさがった「壁」が彼の攻撃だった。
「「え?」」
炎から抜け出したレミングスと俺の声が重なる。
振り向いて彼女と目を合わせた。
「えーっと……」
「……私ごと?」
「みたいですよ」
俺たちの目の前、アーケードの入り口を埋めるように塞いだ【飛空剣の護り】が、ゆっくりと前進を始める。地面は固いコンクリ造りで、以前のように簡単には「下」に逃げられない。
逃げるにしろ、迎え撃つにしろ、レミングスの存在が邪魔だ。俺は警戒して彼女の武器に目を向けるが、俺の攻撃がうまく行ったようで、その手に握った【朽梛】は燃え尽きて残骸と成り果てている。
彼女もそれに気付いたのか手に持ったゴミを放り捨てると、にっこりと笑った。
「私のために死んで?」
「嫌です」
がっし、と彼女が飛びかかって俺の肩を掴んだので、俺もレミングスの肩に手を伸ばす。
俺たちはカードを使って打開しようとはせず、取っ組み合ってどちらかがどちらかの肉壁になるように迫りくる壁側に押し付けようとし、くるくると社交ダンスのように回る。
そのついでに群がるNPCは弾き飛ばす。こいつらを盾にしても良いのだが、なんか癪なのでやらない。というか、そろそろ助けて玻璃猫様。
俺の願いが通じたのか、ようやく頼れる仲間からの援護が届いた。
轟音。
同時に剣の壁に俺たちが余裕で抜けられるくらいの大きな穴が空いた。
いや、うにゃああという声がかすかに聞こえたか? 彼女の【獣王の咆哮】はあまり見る機会が無いので見たかったような、四肢を地につける姿は見たくないような。
まあいいや。
「何いちゃいちゃしてるんですか?」
「してません」
随分減った人形を破壊して包囲を蹴散らしながら、ミューミューが合流した。いいタイミングだ。
「げ、ミューミュー」
レミングスは俺たち2人が揃ったと見るや、すぐに俺の肩から手を離し逃げようとしたので、俺は逃さぬように力を込める。
「まーだ、おしゃべり、してませんよ?」
「待った! 今ここでごちゃごちゃやってるとあいつが――」
そう言い終わる前に、俺とレミングスはまとめてまばゆい光線に飲み込まれた。




