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ロマン砲主義者のオーバーキル  作者: TEN KEY
問7 溢れ出す限界までの容量を計算せよ
89/92

答7-5

 俺は、自然と足を早めていた。

 中央に向かう途中の売店区画。キャラクターのおみやげ屋や飲食店が立ち並ぶ通りは、にぎやかだった日々の残滓だけが残っている。

 看板の文字はかすれ、店舗の中から覗く頭の欠けた人形がうろんな瞳を向けてくる。


 別に、怖いから急いでいるのではない。静かな風の音と薄暗いアーケードは確かに不気味ではあるが、ネクロはホラーゲームではないのだ。突然物陰から動く腐乱死体が飛び出てくる訳ではない。

 それより怖いのは、知らず潜んでいる敵だ。

 機を伺い、こちらの足音に耳を澄ませ、やがて来るその時に備えて舌なめずりをされている。そんな敵に目をつけられている方がよっぽど怖い。


 ゲーム開始からまだ5分程度。作戦会議から行動開始までさほど長い時間はかかっていないし、こんな場所を通る事を見越して待機されているという事があるはずはない。


 あるはずはないのだが。


 じゃあ、このひりつくような()()()()()()


 殺気。

 なるほど。俺は頭の中で自分の感じた感覚を言語化し、ようやく納得した。

 これが殺気か。なんかピリピリする。

 よく創作の世界で語られる殺気とは、超がつく人だったり人じゃなかったりする方々が感じている感覚だと思っていたのだが、まさか自分でも感じられるとは。


 とそこまで考え、ふと自分のライフゲージに意識を向けると、ライフがじんわり減っていた。


「……っぷ!?」


 大きな声が出かけたので、自分で口を塞ぐ。

 びっくりした。これ、攻撃受けてるじゃん。

 新手のホニャララからの攻撃を受けているッッ!! ってやつじゃん。ビビる。


 よく見るとゲージが少しずつ動いている。


 これ殺気じゃなかったわ。スリップダメージだわ。


 異常状態以外で微弱なダメージをじわじわ与えてくる攻撃は複数存在する。

 フィールドに作用するタイプか? 対象を取るタイプか?

 すぐにミューミューのライフを確認。

 後ろからは一定の距離を離して彼女がこっそり付いてきている。おそらくこちらのライフは確認してくれているだろうが、作戦を優先させて俺に判断を任せてくれているのだ。

 その彼女のライフゲージは開始時と同じ位置から動いていない。


 ならばこれはフィールドに作用するタイプではなく、俺個人が発見されて攻撃を既に受けている。

 俺の覚えている中で、わざわざ先に発見した上で大技の奇襲ではなく、スリップダメージを与える必要があるカードが思い浮かんだ。


 それ、()()じゃヤバいってばぁ!!


 俺はすぐに回避行動を取る。

 左右ではない。建物に阻まれている。

 後ろは無い。ミューミューがいる。

 だから前だ。


 ぞろぞろと建物から溢れ出すように現れた「腐乱死体」――ではなく、モノ言わぬ「人形」達の群れに覆われゆく道に、俺は突っ込んでいいた。


 【(あで)やかな芳香(ほうこう)

 遠距離から対象が設定出来るスペルカード。詠唱中にずっと対象とするプレイヤーを視界に収めてなければいけない為、通常のスペルカードよりも唱えるのが段違いに難しい。が、無事発動できれば効果は強力。

 近くにいる中立のNPCや、こちらから攻撃を仕掛けないと敵対しないタイプのエネミー全てが対象としたプレイヤーを攻撃目標として襲いかかってくる。効果時間は長め。対象とされたら破壊し尽くすか逃げるしかない。


 名付けて強制モンスタートレイン。

 自らの手を汚さず、周囲の力を使って攻撃するのだ。物量こそ正義。力を振るうのが許されるのは征服者の特権だ。

 とはいえフィールドには効果の反映されない通常の敵対型エネミーが多く、そもそもPKが許されているフィールドでなければこのスペルをプレイヤーに向けて撃つことが出来ない。

 効果的なのは動物や昆虫類が多いフィールドで、ボス級のエネミーに向かって使う事だろうか。


 じゃあ、それをこういうPVPのフィールドで、対戦相手に使うとどうなるか?


 答えは俺の目の前の景色だ。

 周囲の「NPC属性」を持つオブジェクトが起動し、敵対行動を取る。

 このNPC属性は割と研究が進んでいる隠しステータスで、こういう一部のカード効果で動き出すモノに付属している。

 大抵は人や獣の形をした無生物だ。動きそうな形をしていれば、大体そのとおり動く。人形や彫像、果てはカカシなんかも動いてくる。なので、こういう人形が多い場所ではとんでもないことになるのだ。


 俺は両手で掴みかかってきた灰色のネズミのキャラクターの頭をぐいと無理やり下ろし、その背を跳び箱の要領で越える。

 空から襲いかかるフクロウの時計をはたき落とし、腕を振り上げたロボットの丸い手を掴んで力任せに横に振るう。

 がしゃがしゃと音を立ててロボットの2等身の体が他の人形にぶつかり腕がもげる。


 幸い、こいつら一体一体の戦闘能力は大したことがない。

 それこそゾンビのごとく、ただがむしゃらに掴んで動きを止め、殴りやひっかきで攻撃を仕掛けてくるだけのシンプルなルーチンだ。パターンの解明なんて必要ない。

 見つける。攻撃。失敗したら再度攻撃。これだけだ。

 カードで召喚するミニオンカードのように、独自の思考ルーチンや高性能なAIは積んでいない。

 だから攻撃のタイミングだけ見計らいうまくいなせれば良いのだが、とにかく数が多い。


 俺はどんどんと増える敵の群れの中で、手札をじっくり選定する。

 まだアバターの体術テクと最低限の攻撃だけでなんとかなっているが、このままじゃ押しつぶされるのは時間の問題だ。

 手札をこの打開に使ってしまえばじり貧。だから流れを考える。俺がこうすれば、相手はどうなるか。パターンはまだ無数にありすぎて、答えとは言えない。でもその中から俺は最善に近い手を選ばなければならない。


 相手はなぜ俺の場所を、こうも早く発見出来たのだろう。

 ここから更に仕掛けるなら、どうしてくるだろう。

 なぜ未だミューミューは無事なのだろう。

 俺はどうすれば相手の嫌がる立ち回りになるだろう。


 繋がりを、頭の中で一つ一つ結んでいく。


 答えが出かけたとき、アーケードの上部のガラスが盛大に割れた。


「また会ったね!!」


 彼女は、落ちもしない麦わら帽子を片手で抑え、もう片手で【朽梛(くちな)】を煌めかせ、体に纏った人形にちゃらちゃらと音を立たせながら降ってきた。


 俺の対話計画は早々に頓挫した。

 空から登場したレミングスは、この間最後に見せた表情と同じ嬉しそうな満面の笑顔を俺に向け、そして言葉なき宣戦布告を()()()()()()

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