答7-2
乱入してきたプレイヤーは無視し、最初に大きく削っていた方を先に落とす。
数的有利になった俺達は油断せず戦った。
「この人、まだ諦めてません!」
「有利はこっち。冷静に行こう」
それでも相方を失った『BADMAN』は粘った。
アメコミ的ダークヒーローとは全く無関係に、彼は勝利のために泥臭い戦いを選んだのだ。
常にこちらの射線が二方向から挟みこむ形にならないよう立ち回り、手札が切れると隠れ、不意打ちやおとりを駆使した。
動かぬ不利をなんとか覆そうともがく姿は、しかして台詞だけのなんちゃってヒーローでは無かった。
「今日既に2敗で、後が無いんでねぇ!」
バッドマンの声と同時に飛んできた投擲武器をこちらの得物で弾く。
声の方向と攻撃方向が違う。これもまた小さなテクニックだろう。
素早く声がした方に顔を負けると、納屋の裏手へ引っ込む影がちらりと見えた。
「ミューミューさん、右よろしく。俺は左……いや、上から行く」
「分かりました。牽制の手も打っておきます」
「よろしく」
ミューミューは俺の言葉を聞いてから、意味を理解して正しい答えを弾き出すまでのスピードが早い。
1を聞いて10を知るとはまさにこの事だろう。すいすい話が進むので、ストレスフリーだ。
どうやらボディタッチでバグる(要検証)ので、それだけ気をつけよう。
俺も急に異性に触られたら冷静さを失う自信があるが、向こうも同じなのだろうか。
表情を変えずに躊躇なく納屋へ火をかけた姿からは想像もつかない。
俺は納屋の裏手へ向けて、左側から攻撃をしかける素振りを見せるために【光弾:散】を打つ。
散弾銃のように分散して広がる無数の光弾が、パパンと音を立てて地面や草木を穿つ。
着弾を確認せず、納屋を囲う木の柵を踏み台に屋根へと手をかけた。
そのまま乗り上がると、ミューミューが放った炎が視界に飛び込む。
よっしゃ、いい感じだ。
俺は屋根を駆ける。
納屋の内部まで届く火の手で、屋内に逃げ込むのを阻止。奥へと逃げるなら上から俺が追い打ちが出来る位置だ。
右側からはミューミューが回り込んでいる。左側に逃げたとしても俺が牽制して少し足止めができれば低い位置と高い位置から挟み込める。
バッドマンが選べる手段は削った。その中でもおそらく最善手は奥へと逃げることだろうが、そのための攻撃は用意してある。
さあ、どう出る?
俺は屋根の端に到着し、裏手を見渡した。
……そしてそこには誰も居なかった。
頭上に影。俺は頭が判断するより早く、反射的に横に飛び退いた。
寸前まで俺が居た位置で爆発音。飛び散った屋根の破片が無防備な手足に突き刺さる。
そこまで大きくはないがライフが削られ、俺は落下した。
「見たぞ、例の放送。これ、格好良かったから借りてるぜ」
転がる俺の視界では、爆炎と延焼による煙で彼の足元しか見えない。
しかしそれでも先端が大きく膨れ上がったその白いドーム形が特徴的な【もちもちシューズ】は見間違えようがない。
俺の「高空落下キック」だけがパクられたのだ。
もちもちシューズの扱いにすぐ慣れるのは難しいが、何らかの方法で高い位置へ上り、そこから落下+【脚火】だけでも奇襲としては確かに有効だ。上っていうのは、あえて見ようとしないと盲点になりがちで、下にばかり意識を向けていた俺は更に視界が狭まっていただろう。
「どうぞ。カードの組み合わせに著作権は無いですから」
俺の言葉への返答は無かった。攻撃を警戒しながら立ち上がる。煙に巻かれ、彼の姿は見えない。
すぐに奥からミューミューの支援が届くはずだ。
煙を吹き飛ばすようなカードは俺のデッキには無いが、向こうには入っている。
「よろしく!」
俺はタイミングを見計らい、声を上げた。
すぐに彼が居たと思しき位置に駆ける。
ミューミューの【すきま風】は煙をかき消す効果がある。俺は手に持った【十手】で攻撃準備をしていたが、それを振るうタイミングは無かった。ということは……。
「上っ!」
俺の言葉とどちらが早かったか、ミューミューが具現化させた【ジェットハンマー】を納屋に叩きつけていた。
轟音と共に、木造の納屋は振るわれたハンマーの先端から膨れ上がるように爆発した。
【ジェットハンマー】は、メリットもデメリットも強烈なガジェットカードだ。
振るうごとに判定があり、効果の出方がまちまちというギャンブル性がある。
今のように当たった場所から連鎖し、広い範囲を衝撃で破壊する「突貫」が30%。
当たった場所の周辺を爆発させるが、使用者にも反動ダメージが入る「腕白」が60%。
そして10%が、ハンマー自体が爆発した上に使用者に大きなダメージを与える「自壊」だ。
競技者に嫌われ、しかし愛好家も多い「糞ハン」と名高い武器だ。
扱いやすいく安定したパフォーマンスを発揮してくれる【ピコピコハンマー】は対称的に「神ハン」と呼ばれているとかいないとか。
見事良い確率を引いたミューミューの攻撃で、どうやら納屋の上に俺と入れ替わるように登っていたらしきバッドマンにダメージが入ったのが確認出来た。
あと少し。
俺は詠唱を始めた。この攻撃で決めたかったので、いい時に手に入ってきてくれた。
ただスペルカードを打つだけじゃロマン値は低いが、まずは勝利の美酒を味わおう。
高速で動き回るパズルを慎重に組み立てる。
ミューミューが崩れ落ちた納屋に警戒しながら、俺の盾になれる位置に立つのが認識出来る。
そして詠唱が終わる間近に、ちかっと瞬く一つの光。
ミューミューは反応出来なかった。
いや、されないように彼女の死角から飛んできた。それは偶然か故意か。
よく見覚えのある光弾は俺に届き、ぱちんと小さく燃え上がる。
【悪戯妖精の灯火】を使われ、俺の詠唱はキャンセル――
「残念!」
――されることなく、無機質な鉄の腕のエフェクトが地面から大きく立ち上がり、おそらくバッドマンがいたであろう場所ごと叩き潰した。
【古代の銀椀】による対物特化範囲攻撃だ。
すでにぶっ壊された納屋はぺしゃんこになり、同時にバッドマンのライフも削り取られた。
【古代の銀腕】に書かれているのは、「詠唱キャンセルの効果を受けない」という一文だ。
今、ブームに逆らって使うべきはこれだろうという俺の予想はしっかり的中してくれた。
まあ、偉そうに出来るほど面白いチョイスではないが、こう上手く決まると気持ちが良い。
がらがらと瓦礫から何かが立ち上がろうとし、そして倒れた。
「まさか、地べたに這いつくばるのが俺の方とは。まいったよ、今回はね。だからと言って次回もこうとは行かないさ。覚えておこう、君たちの名前を――」
そう言い残すとバッドマンは無事塵へと消えた。
最後まできざったらしい奴だったが、好きだぞ、そういうの。




