答6-5
控室入り口に俺のアバターが転送される。実体化するなり、俺はダッシュで自分のクラウドにアクセスし、データを呼び出す。
俺の気持ちは、さっき初めて決まった「最大火力」より、今回の驚くべき実戦データに向いていた。
デッキに入れてて良かった。諦めずに撃って良かった。やっぱり【光弾:小】にも隠し能力はあったんだ!
数日前までの俺なら、足掻くなんて無駄な事をしようとは思わなかったはずだ。
楽しんではいたけれど、どこか対戦そのものには冷めていた。
自分の知らないデータを見つけること、実践してフィードバックすること、最適化していくこと。
それはどれも楽しい作業で、本当にそれだけが目的だったから、勝つことは「実験の成功」でしか無かった。
だからこそ、自分の変化がもたらした望外の成功に興奮が抑えきれない。試合中はそれでもなんとか抑えていたが、もうダメだ。
「これは、大発見だ!!」
俺は叫び、大きく振り上げようとした右手をガッと左手で掴み、そのままゆっくりと腕を下ろした。
その下ろした右腕で自分の右頬をぶん殴る。
3度目は無いぞ馬鹿野郎。
……深呼吸しよう。
大きく息を吸い込み、長く吐き出す。
それを何度か繰り返し、部屋に備え付けられたディスプレイで待機ルーム設定の画面を呼び出し「ジェスチャーモード」をオフにした。
よし。落ち着いた。
【光弾:小】のデータブックを開き、そこに新たな項目を増やす。
「スペルカード詠唱の強制キャンセル効果」
それだけで、大きな物事を達成したような充足感が俺を満たす。
ある、とは言われていた。
何故なら数枚のカードに「詠唱キャンセルの効果を受けない」という一文があったからだ。
どこにそんなカードがあるんだ、というプレイヤーに運営からの返答は無く、まだ未実装という事に落ち着いたらしい。
だからこそ、これは大発見なのだ。
誰も思っていなかっただろう。まさかそんな大それた効果がカケラもカードテキストに書いてないとは。
俺自身もまんまと運営の罠にハマっていた。
今まで見つけてきた隠し能力のほとんどが、能力欄に書かれたテキストよりも複雑で細かい物が大半だった。
そして、共通して「他のカードと組み合わせる事で効果に変化がある」ものばかりだったのだ。
だからこそ、効率的に実験するべく色々なカードと一緒に試す事しかしなかった。
実戦で単純に当てるだけで良いとはなぁ。
いや、視点を変えれば「他のカードと組み合わせて効果が変化」したとも言える。
それが自分のカード同士ではなく、相手のカードによって、だった訳だが。
この情報は、俺にとって更なる朗報にもなった。
実験で試せるパターンが増え、今まで隠し能力が見つけられなかったカードたちの前に、無限のごとき道が拓けたのだ。
楽しい。楽しすぎる。
やっぱネクロは最高だ。
追い求めれば、必ずそこには報酬が用意されている。
俺の脳内で、やりたいことリストの項目がこの1試合、たった1つの発見でゆうに100は増えた。
多分、あの対戦相手もすぐにこの情報を広めるだろう。
それがネクロプレイヤーに何をもたらすか。
新たな時代の幕開けの予感がする。
――そこまで考え、ふとあの時の謎のおっさんの言葉が頭をよぎった。
『君はこの世界で救世主になり得る』
頭を振るって、不快なそれを追い出した。
そんなもんになりたくはない。
俺がなりたいもの、それは俺が目指す俺自身だ。
別にコロンブスの栄誉はいらない。
レミングスが広める情報速度がどれほどのものかは分からないが、公開試合でやっている以上、遅かれ早かれ今回の発見は浸透するだろう。
だからこそ、その先へとこちらは手を進めていく。
情報は力だ。
それも、誰かの意思や思惑が介在しない、純粋なもの程強い。
それを知ってるからこそ、自ら試し、繰り返し、情報でしかないエネルギーを己の血肉へと変換させていく過程に意味があるのだ。
俺は今回のフィードバックから、次なる戦いへのロードマップを仮組みする。
そして早速皆の居るにゃんスタへ戻ろうとした所で、壁面ディスプレイに大きく表示されたアラートが俺を押し止めた。
『レミングスさんから感想戦の申し込みがありました』
……ほう?
「やぁ、悪いね急に。お疲れさん」
「いえ。感想戦自体が初めてだったので、びっくりしました」
感想戦とは、戦闘を行ったフィールドに対戦相手と一緒に再度入り、リプレイのようにさっき戦っていたアバターを影のように表示させ、俯瞰視点で見ることが出来るシステムだ。
お互いの手札やステータスも開示されているので、あのときはこう思ってこうした、と真剣勝負の振り返りが主たる目的で使われる。
競技的な卓上ゲームでは良くある「復習」作業だ。
しかし、今回の目的はおそらく違う。
他人からのメッセージを切っている俺に、フレンドでもない彼女がゲーム後に積極的に取れるコミュニケーション手段は、ゲーム終了から短い時間だけ猶予のあるこの「感想戦」くらいだ。
レミングスの瞳は野生的に輝き、俺に対して何か含みがある笑い方をした。
「さっき調べたよ。あんた、えらい強いと思ったら有名人だったんだね」
「……まぁ、不本意ながら」
「やられたよ。面白かった。あたしも大概だと思ったけど、あんたもすごいな。でも、アレは偶然?」
「アレ、とは?」
俺は一応スッとぼける。
「分かってる癖に。【光弾:小】だよ。あたしの『キリングストリーム』のフィニッシュを潰しといて、とぼけさせないよ?」
やっぱその話だよなぁ。
俺はそれには返答せず、彼女の次の言葉を待った。
「じゃ、私の口止め料、いくらにしてくれるの?」
人と付き合うとは、こういう人に出くわすという事にも繋がり得る。
さて、どうしたもんか。




