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ロマン砲主義者のオーバーキル  作者: TEN KEY
問6 等速で進む線と線の交点をさぐれ
73/92

答6-2

 彼女の攻撃パターンは多彩だった。

 基本は奇襲攻撃で、身の隠し方、虚の突き方はプレイヤースキルでカバーしている。それは、忍者スタイルのようにカードを割いていない分完全にメリットとして働いていた。


 右の部屋を覗けば左から。通路に出れば上から。行き止まりだと思ったら壁を貫いて。


 攻撃手段が豊富というのは、手を読みづらいということに他ならない。というか、未だに同じ攻撃を放たれたのは【債権者の穿ち】3連発だけだ。

 連発というのを考えると、手札に3枚あったというより、使用回数を3に増やしていると見たほうが現実的だ。

 奇襲なら、そのカードの効果はこちらが手札を抱えている可能性が高いため有効だろう。主力はそれ。他は戦況を動かさないための攻撃と、少しずつだが相手のライフゲージが回復しているのでその手のカードだ。


 大きく外れてはいないだろう予測から、こちらがやるべき行動を取捨選択する。

 レミングスは今、自らの有利を信じている。

 確かに、奇襲で俺は体力を既に5分の2ほど減らしている。俺は見えてる攻撃には強いが、そうでない攻撃を避けきるのは無理だ。

 トラップならこっちの十八番(おはこ)なのだが、奇襲というのはトラップと違い分かっているからといって簡単には対処できない。


 こんなん、1万位台で当たってくれるなよ……。


 口には出さない弱音が思考に混ざる。

 いや、もしかして俺が舐めてただけで、この辺りのランクからはガチ勢の巣窟になるから、こういう高いプレイヤースキルの持ち主もガンガン当たってくるのかもしれない。

 でも、800位台の前田さんとは普通に渡り合えるんだ。ここで手こずるようじゃ俺は誰に対しても何も証明出来ない。


 やるべき事がある。

 でも、俺は偉そうに言ったはずだ。

 楽しむ、そして勝つ。

 今はただそれだけ。

 それだけのために、力が湧き出る。


 幸い、俺は自らの行動をワンパターン化させる事で彼女の予測を外れないようにしてきた。

 その間に手札を整理し、ある程度戦況を動かせる目処はついた。

 やってこう。


 ちらちらと見えるレミングスの背中を追いかけ、彼女が通路の角を曲がる直前に【光弾:小】を撃つ。


「くっそー! ダメだ当たんねぇー!」


 演技っていうのは、相手に伝わるかどうか。これくらいでも読み取ってくれるだろう、というのは演者のわがままだというのは聞きかじった知識だ。

 俺は大根なので、大根らしく泥臭く、ワザとらしく叫ぶ事しか出来ない。


 でも、まぁ俺がこの角を曲がった時に飛んで来た攻撃は、大根役者のアピールにも意味があったのだと自己満足に浸れるくらいには分かり易かった。

 「追う姿」を見せれば、必ずそれを逆手に取るだろうから。


「ほれっ、これであたしの……ハァッ!?」


 俺は、彼女の前に()()()()()()()


 装備してあった【もちもちシューズ】で壁から天井に駆け上がり、彼女の【債権者の穿ち】の黒いエフェクトを見下ろす。


「『あたしの?』ノンノン。『俺の』反撃。よろしくデース」


 口が回ってきた。よしよし。


 俺は天井を走り、驚いて見上げる彼女の頭上から【降り注ぐ願いの短冊】のアクションを実行する。

 キラキラと7色の光が彼女に落ちるが、それは振るわれた銀光によって割かれる。


 しまった、そうだった。【降り注ぐ願いの短冊】は斬撃が防御になり得るんだった。

 満足に剣を振るえるプレイヤーなんてそうはいないので、斬撃属性の攻撃をたまたま振るわれない限りは大丈夫だと思って抜けていた。


 いや、しかし彼女は俺のチョイスしたマイナーなカードの効果を良く知っている。

 【振り注ぐ願いの短冊】は珍しく攻撃のエフェクトが射出時のプレイヤーの移動速度や重力の影響を受けるカードだ。頭上からの攻撃には向いているが、そういう攻撃をメインとするデッキじゃないと出番は少ない。

 決して弱くは無いが、使い易くも無いカードだ。対処方法まで覚えているプレイヤーは少ないはず、とはミューミューの助言だった。


「これが反撃? まだまだだね」


 レミングスは挑発するように笑うと、体を前かがみに折って丸まった。


 マジかよ。この狭さでそれは自殺行為では!?

 ――まぁ、俺も似たようなことするつもりだけど。


 俺は両腕を背中まで持っていき、勢いよく体の前面まで振り下ろした。

 彼女を中心に花火のような爆発が起こるのと、通路を埋め尽くす濁流が溢れるのはほぼ同時だった。


 【ファイアワークス】

 その名の通り、自らを夏の風物詩に変えるお祭りカード……ではなく、大きな爆発と延焼を行うボマー垂涎のショットカードだ。デメリットは、自らもそれなりの反動ダメージを受けること。


 「ワンサイドスケイル」のようなダメージを軽減する手段が無ければ自分も痛いはずだが、他のカードでそれを補うつもりだろうか。

 俺の【濁流の垂下】のおかげで延焼は起こらず、そもそも爆発のダメージもカスリ程度だった。


 逆さに立った俺の頭上、そこそこ広い廃病院の通路にごうごうと水が流れる。彼女はその場からは大きく動いていないはずだ。【濁流の垂下】はダメージこそあれど、水流はエフェクトに過ぎないので相手を押し流すような力はほとんど無い。


 すぐに水は引き、そこに彼女の姿は無かった。


 おいおい、勘弁してくれ。


 また逃げられた。追い詰めるのは俺のレールに乗っていてくれるので良いが、追いかけっこは苦手だ。複雑に動き回る人間の思考までは読めない。


 何がなんでも正面戦闘は避ける構えか?

 よーし、分かった。

 次こそは何がなんでも彼女を釘付けにしてやる。やってやろうじゃん。


 今更手札に来た【鳴神:玖】を一瞥(いちべつ)する。

 もう少し早ければ「お手軽コンボ」だっただけに、勿体無い気持ちが湧き出る。

 うなだれた俺の次のドローは【光弾:小】だったので、更にため息をつく。

 何で俺、こんなのデッキに入れてんだよ……と自己嫌悪。


 あーあ、このスロットに入ってたはずの【刀身の苦無】ならなぁ。


 仕方ない。それも過去の俺の選択だ。

 選択を恨むより、現状を考えろ。


 【光弾:小】は適当に打ってドローしようかと思ったが、一応手札に抱えておく。

 ダメージは0じゃない。他の手札と相手次第でまた考えよう。


 相手の出方を伺おうと考えていると、なぜか彼女は堂々と姿を見せた。


 油断するな。全てに理由があると思え。

 俺はこの距離を保つべく、近寄る彼女から少し離れた。


 ここからの5分が、勝負を決める。

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