問6-6
「どっこいせ」
ランク戦控室に用意されたソファーにどかっと座る。
昨日のランク戦開始時は粗末な独房だったのに、今はビジネスホテルのワンルームくらいの部屋にアップグレードされていた。
今は対戦前のマッチングに備えた待ち時間だ。
デッキは既に用意出来ている。せっかくだからと、昨日は調べなかった室内を見て回った。
すると、目立つ位置にある常時表示ディスプレイに自身のランクポイントやその詳細が映し出されていた。
普通はこういうのでしっかり自己の立ち位置を確認しながら進めていくのだろうか。
これからはそうするべきだとは思うが、昨日はただデッキを回すのが楽しすぎてすっ飛ばしてしまった。
なるほどなぁ、と改めて自分の戦績を確認する。
おや、何千位か下がってる。
それもそうか。俺がプレイしていない間もプレイし続けているプレイヤーは腐るほどいるんだ、追い抜かされもするだろう。
そうなると、腹の中から悔しさが湧き出てくる。
なんだかんだ勝てば楽しい。ゲームにおける根源的な欲求はこれに尽きる。
しかし、負けてもないのにまるで負けたように感じるこのシステムは、もっと勝って追い抜き返してやる、という感情の着火剤にはちょうどいい。
今日も絶対に勝つ。なればこそ、このデータ収集というのは重要だ。
昨日は控室ではカードデータの整理に追われていた。
しかしお陰様で「フライングエクスプレス」に入ったカードの特筆項目はあらかた収集出来たと思う。
次にやるべきはランク戦の分析だ。高いランクに行くために必要なのは、力の強さではなく要領の良さだと思う。
相手のデッキを分析し、自分のデッキにフィードバックさせる。その中で最も立ち位置の良いデッキが勝つのは当然の理だ。
まぁ両方あるに越したことは無いが。
幸い俺にはランク戦マスターとも呼ぶべき強い味方がいるので、調べるまでもなくレクチャー項目は受講済だ。
確か、3万〜1万位台にはファンデッキが多いって言ってたなぁ。
俺はここぞとばかりに饒舌に語ってくれたミューミューのセリフを思い出す。
『あそこは魔境です。突然死に気をつけて下さい』
その言葉で不覚にもテンションが上がってしまうあたり、やはり俺は生粋のロマン砲主義者なんだなぁと自覚する。
突然死。それは甘美な響き。
彼らもきっとその蜜を追い求めているのだろう。
しかし、それに続くミューミューの言葉もまたロマン砲主義的だった。
『とはいえ、普通にやれば勝てますけどね』
ロマン砲を崇拝する者としては悔しく、ガチ勢と化した今は有難い一言だった。
いや、待て。
ガチ勢とロマン砲主義は矛盾しない。
ならば名乗りを変えるべきではなかろうか。そうだ、そうに違いない。
「ロマン砲ガチ勢に、俺はなる!」
俺は大きく右手を天に突き上げ、そのアクションに呼応して「ゴーサイン」を受け取ったシステム側がフィールドに転移させた。
「ちょ、ちが……」
強制的に準備完了させられた俺は、暗転する画面に向かって既に失った口で無意味な抗議を叫ぶ。
後でジェスチャーモード切っとこ。
今日の初戦は、何事もなく終わった。
流石にランクが上がってきたお陰か、終わった後に相手のプレイヤーのレベルを確認すると、ばっちり100だった。
何事も無かったというのは、大きな出来事が、というだけで、実際は割と苦労はしている。
チョッキのように慎重な戦い方をするプレイヤーだったが、何故か自ら仕掛けていく攻撃的なデッキを使っていた。
スタイルはちぐはぐだったが、それでも無傷という訳には行かない。
事実、昨日とは違い手に入ったオナー項目は3つだけ。勝利ポイントを加算して30ポイントだった。昨日の平均は72ポイントなので、およそ半分以下のポイントしか貰えなかった計算になる。
この調子だと2万位台に上がるのも苦労しそうだと考えながら、戻った控室で画面を見て驚愕した。
「3000位上がってる!?」
今度は、俺はディスプレイのリストを操作してランキングのプレイヤーをポイント表示に切り替えた。
すると、1万位台のプレイヤーというのは現在1000ポイント前後だった。
そうか。結局上に行けば必要ポイントも詰まってくるのだ。オナーポイントで手に入るポイントが減るのは他のプレイヤーも同じ。
なので勝利の10ポイントが入れば御の字。負ければ0なんだから、30ポイントというのは大いに喜ぶべき結果だったのだ。
俄然やる気が出てきた。
よっしゃ次行くぞ次ぃ!
ちなみにさっきも【光弾:小】を使っていくつかの雷撃や水流と組み合わせてみたが、パッとしなかった。
やはりこれは弱いカードでしかないのだろうか。
……そんなこんなで2時間後。
互角の戦いの後、傾いた戦況から勝利を手にしたのが2回。もっとギリギリの辛勝が1回。
この結果は【光弾:小】のせいであるのは間違いない。
単純にダメージ効率が落ち、フライングエクスプレスの「空間ハメ」中も相手の足止めに効くカードではなく、【刀身の苦無】にはあった雷撃とのコンボもないのだ。
一種類カードが変わるだけで、ここまでデッキパワーが落ちるのか、というくらいキツかった。
しかしそれ以外の8戦はまぁ……余裕のある勝利を得ることが出来た。
楽な相手はもちろんファンデッキばかり。
しかし俺は声を大にして言いたい。
ロマン砲、なめんじゃねえぞ、と。
対楽勝デッキに絞った更なる内訳は、デザイナーズコンボが4人。オリジナルプチコンボが3人。俺がかつて組んだのと似たデッキのガチコンボが1人。
ガチさんのデッキは、俺のデッキとは多少構成が違うが、はっきりコンセプトを活かせているとは言えなかった。
結局、ちょっと貸してみ、と言いたい心を必死に隠しながら戦う羽目になった。
こりゃミューミューに普通にやってりゃ勝てると思われても仕方がないだろう。
一方でなんだかんだ俺の戦績は無事伸び、ポイント累計は920。
この調子なら、もう今日中にでも目標たる1万位台はクリアしてしまいそうだ。
よーし、ならさっきのガチさんのデッキ、俺の本気バージョンで行くか!?
この順位なら試すにはちょうどいいし、まだ今日の負けて良い回数は3回ある。ちょっと遊んでもバチは当たらないだろう。
負ける気も無いし。
俺は内容を思い出すべくデッキを開く。
久しぶりのデッキも良いもんだ。俺はついわくわくしてしまい――
「この『天下無双』デッキで、俺は勝つ!」
と、右手を天に突き上げた。
そのアクションでシステムが強制的に「違うってば!」
デッキのセットはさっきまでのフライングエクスプレスfeat.ライトバレットのままだ。
まぁいいや、この戦いが終わったら今度こそジェスチャーモード、切ろう。
のちに語り継がれる歴史的な一戦はこうして間抜けに始まった。
適当なデッキ名のままで。




