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ロマン砲主義者のオーバーキル  作者: TEN KEY
問5 面の表裏を同時に照らせ
56/92

問5-5

「つまり、僕にとっての強さの象徴が『これ』なんです!」


 孤狼丸がババン! と効果音を背に胸を張った。


「それ、かぁ……」

「それですか……」

「えー、いいじゃん。私は好きだよ?」

「だってさ。良かったなコロちゃん」


 要するに、男性型の獣人、荒くれ者の格好、ヤンキー風の言葉遣い、全てが彼――いや、彼女にとっての「強いイメージ」だったようだ。

 しょぼいイメージ……失礼、貧困な……失礼、底の浅い……駄目だ、どう言っても悪口になる。


「でも、シトラスさんの戦いを見てようやく分かりました! 強さって、外面的なものじゃなくて、もっと本質的なものなんだって!」

「へぇー……」


 イメージはともかく、言葉はめちゃくちゃ良いボキャブラリー持ってるじゃん、孤狼丸。

 ボキャブラリーモンスター、略してボキャモンと名付けよう。

 コミュモン2匹とボキャモン1匹、あと……超絶テクニックのテクモンも1匹いるな。

 

 なんの話だ。


「でもコロちゃん、こいつすぐカッコつけるぜ? 勝手に輝く俺と違って、輝こうと必死なヤツに弟子入りってのもどうかと思うよ?」


 だから俺の弟子に……と続けようとしたチョッキの言葉を、孤狼丸はかぶせ気味に遮る。


「だからです。自分で輝けない僕は、輝こうとする姿にあこがれて、教えを請うんです」

「ぐふぅ!」


 やめろ! それは正面から食らったチョッキより横にいる俺に効く!


「だから、お願いします、シトラスさん……いや師匠! あなたのテクニックと心構えを僕に教えて下さい!」

「いや、うーん……どうしよう……。まぁー、駄目……じゃないような、良いような……」


 正直戦った上で感じた彼女という人は、真っ直ぐだけどどこか抜けた会話の様子とは違い、知識と経験に裏付けされた堅実なものだった。

 デッキも既存の物を使い込み、自身の戦略に合わせて最適化され、更にオリジナリティを加えた研鑽の跡が見える良いデッキだった。


 いつも戦うみずちのストレートな凶暴さや、チョッキの頑なな慎重さとも違う。

 彼女の相手を「追い込む」冷静な戦い方は、俺の作る多くのデッキ戦略とも噛み合う。

 悪くないような気がしてきたぞ。


「本当ですか!?」


 キラキラと目を輝かせる孤狼丸。そう、そしてご存知の通り、俺は押しに弱い。

 心が揺らいだ俺に、横から声が差し込まれた。


「シトラスさん、一応言っておきますけど、駄目ですよ? 私達には時間が無いんです」

「で、ですよね」


 俺は音速で日和った。ミューミューの目は全く笑っていない。


 そうだ。何を馬鹿な事を考えているんだ橘良寛。

 俺たちには目的がある。約束がある。

 切羽詰まってるんだ。他に割く時間は無い。


「そうだよ。俺、まだ今日も10戦しか出来てないんだ。ランク上げの時間が全く足りない。孤狼丸……さん? 悪いけど、やっぱり駄目だ。ごめん。君の言葉は色々と嬉しかった。それに関してはありがとう。励みにするよ」

「励みにしてくれなくていいですから、弟子にして下さい!」

「いや、ごめん、本当に……っていうか、マジでそもそも間に合うのこれ?」


 ミューミューとの約束を守って「名高き術(アルス・ノトリア)」参戦を承諾してしまったが、よくよく考えるとキツイ気がする。

 一戦の試合時間の平均は、今回の速攻デッキをもってしても10~15分はかかっていた。

 そもそも接敵に時間がかかるのだ。こればっかりは如何ともし難い。

 そして一勝で手に入るランクポイントは10ポイントだそうだ。上位陣は既に何千ポイントと持っているらしい。

 使える時間を全部突っ込んでも間に合わない。っていうか、上位陣のポイントが異次元すぎる。一体何連勝すればそんなポイントになるのだ。


「そういえば今何ポイントですか? シトラスさん」

「10勝だから、100ポイントのはず」

「いえ、違うんです、ポイントには――」

名誉点(オナーポイント)があるからもっと行ってるかもね!」


 みずちがもうランク画面を呼び出し、みんなに見える位置に画面を出していた。


「オナーポイント?」

「難しい条件を達成した上で勝つと、勝利点に上乗せされるボーナスのことです」

「え? そんなんあるの?」

「師匠、確かもう3万位台前半ですよ。僕さっき見ました」


 一瞬の静寂。


 時が動き出すと、彼らはずいっと孤狼丸に詰め寄った。


「「「3万位台!?」」」


 おおう……。3人が驚いている。

 俺も1日でそこまで来たのはでかいなぁと思ったが、みんなとの驚きの質が違う気がする。


「りょーちん……もう720ポイントある……」


 画面を操作し、俺の戦歴を確認したみずちが愕然とした表情で俺の方を向く。


「な、720? 10戦でか? おいおい勘弁してくれよパイセン。いきなりそれは……すげー爆発してんなぁ」

「どういう計算になってんだそれ、オナーポイントってそんなに付くの?」


 想像のおよそ7倍だ。どうなってるんだ、ポイントの公平性ってのは。


「接敵さえ出来れば早いデッキになったので、『駈歩(キャンター)』は安定して取れると思っていましたが、よもやそこまでとは……」


 ミューミューがちょっとだけ説明してくれるが、キャンターって言われても分からん。

 ――よし、後で調べよう。いくらなんでも情報不足過ぎる。


「今項目出したから、自分で見てみな?」


 みずちに促され、少し高い位置に表示された画面を見上げる。

 対戦相手と試合時間が表示された俺の戦績プレビューだ。各試合の横に獲得ポイントの表示がある。

 獲得ポイント内訳が更に右側に細かく表示されていた。

 ずらずらと並ぶ文字列に、5P、10Pとポイントが割り振られている。


「これが、俺の達成した『何か』への報奨ってことか」

「そうです。例えば今言った『駈歩(キャンター)』は、ゲーム時間が10分以内だった場合に手に入る名誉点項目です」

「オッケー把握した。名前でなんとなく想像が付くのが多いな。……これ、どっかに一覧ある?」

「後で送っておきます」

「助かります」


 なるほどなぁ。勝利することに付随する価値が大きい。

 負けたら名誉点も剥奪だそうなので、一層勝つことが重要になってくる。これのおかげで上位陣はポイントが大きかったのか。


「っていうことは、このペースで勝ち続けていただければ、僕を弟子にする時間があるってことですね!」


 ここで孤狼丸が主導権を取り返そうと話に突っ込んでくる。


「いや、まだ分からんし……」


 言葉を濁した俺に、誰かからの着信コールが響く。

 着信元プレイヤーは……「モモノヒ」……? どっかで聞いた事があるような。

 っていうか、通話ってフレンド登録済みのプレイヤーとしか出来ないはずなんだが。


「ごめん、一旦その話ストップ。モモノヒ……って人から着信あるんだけど、フレンドじゃないのに通話ってどういう事か誰か分かる?」

「それって……」

「ほら、あのいつも放送してる……えーっと……なんだっけ?」

「モモノヒちゃん!? 『書物の欲求(デザイア)』のリポーターの人じゃねぇか!」


 げげ、デザイア。

 すっかり返信忘れてた。


 ぴるるるる、と俺の耳に不吉に着信音が鳴り続ける。

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