答4-2
【刀身の苦無】のドロータイムが明け、引いたカードは【もちもちシューズ】だった。
今引いてもイマイチ……って事はないか。
俺は【もちもちシューズ】をアクティブ化させると、アバターのくるぶしの辺りにシューズを近づける。
パチンッと吸い付くように元のアバターの靴が換装され、つま先が大福のように大きく膨らんだ白いシューズが足を包んだ。
まだ倒れているストマックの動向を伺いつつ、俺は飛び上がった。
空中で右足を大きく振り上げ、頭の高さにつま先が来るような格好になる。体の硬いリアルでは到底無理な姿勢だが、ゲーム内ならイメージ通り動かせる。
ジャンプの最高到達地点にある高さのパイプに振り上げた足をかけた。
もちっとした独特の感触で、シューズがパイプに吸い付いたのを確認し、吸い付いた足を支点にそのまま体を引っ張り上げるように力を込める。
ぐんっと持ち上がった体を調整しバランスを保ちながら両足をパイプに乗せた。
「うむ。良好良好」
練習もせず久しぶりに使うので思うように動かせるか心配だったが、どうやら杞憂だったようだ。
さっきまではジャンプの最高到達地点のパイプに手をかけ、大車輪の要領で体を回して次のパイプに飛び移っていたが、これなら足だけで高い場所まで駆け上がれる。
おかげさまで両手はフリーだ。
高い位置から、ストマックを見下ろす。
ようやく体を起こし、慌てて辺りを見回している姿が目に入った。
遅い。遅すぎる。
チョッキならとても不意打ちなど出来ない。
みずちは不意打ちはバッチリ決まりそうだが、すかさず反撃されて近接攻撃が飛び交うはずだ。
ミューミュー相手に正面からぶつかっていったら只では済まないだろう。
ストマックは、完全に無防備に被弾した上に状況把握すらおろそかな風に見える。
まさかそういう姿を見せて油断させようとしている? いや、そんなことをする意味が無い。
さすがに1度の接敵で許容出来ない削れ方をしているし、油断させているならそろそろ反撃するべきだ。
そうでないというなら、単に反応しきれていないだけなんだろう。彼はまだ本当に初心者なのかも知れない。
手札のカードは全てドロータイムが明け、攻撃の手札が揃った。
一方ストマックは姿が見えなくなった俺に我慢できなくなったのか、あらぬ方向にバレットカードを切っている。
お、これなら「どこを見ている、俺はこっちだ」ごっこ出来るじゃん。
俺はパイプを伝ってストマックの背後に回ると、高所から飛び降りながらまた引いた【刀身の苦無】をアクティブ化する。
「どこを見ている、俺は――」
空中で人差し指を彼に突きつけ、
「うわあぁぁぁぁぁぁ」
「――こっちぐぇ」
振り返りながら混乱したような叫び声を上げ、無茶苦茶に放たれた彼の【烈破の暴風】をもろに食らった。
【烈破の暴風】は無数の斬撃ダメージを与えながら相手を後方に押し返えさせるショットカードで、威力と距離のコントロールに長けた使いやすいカードだ。
空中で食らった俺は、踏ん張ることも出来ず見事に吹っ飛ばされる。
一応俺の攻撃アクション判定は問題なかったようで、彼にも苦無が突き刺さるのが回る視界でほんのり確認出来た。
問:空中をすっ飛んでいる状態で、どうやって体を立て直せばいいんでしょう?
答:別の方向に大きな力を加えてコントロールしよう!
俺は焦った思考で手札のショットカード【濁流の垂下】をアクティブ化させる。
手を背中から膝まで大きく振り下ろすようにアクションすると、俺の正面を異物の混ざった大量の水が流れ落ち、ざばざばとパイプをへし折りながら下に届く様子が……ぐるぐる回ってそのまま飛んでいく俺の視界に映った。
しまった! これ体から出るタイプの攻撃じゃないから俺に何の反動も無いヤツじゃん!
「ふげっ」
結局途中のパイプを数本クッション代わりにしながら、金属の厚いパイプにぶつかってようやく止まった。
そのまま落ちる体を止めるべく、足をとっさに蹴り飛ばすように伸ばしてパイプに貼り付け、逆さまの状態で落ち着く。
「……だっせぇ感じになっちゃった……」
この姿をどこかで見ているミューミューの事を考えると、顔が燃え上がるように熱くなる気がする。
アバターに顔色が反映されなくて良かった。
油断大敵、一寸先は闇、窮鼠猫を噛む……。
よし、気を引き締めろ。
気合を入れ直し、俺は今度こそ慎重にストマックの仕草を見ながら再接近する。
彼のデッキが予想出来るほどカードを撃ってくれていない。ならば超接近戦で手札を使い合って見定めよう。
俺はロストアクションして手が止まったストマックの前に立つと、最小限のドロータイムで済むように考えながら順番に攻撃カードを切っていく。驚いた顔のストマックが手を前に突き出した。
「ちょっ!」
その手を切り裂くように斬撃を飛ばし、ダメージ判定でひるんだところで右手側に回る。
「まっ!」
ジャンプで彼を飛び越えるようにしながら、頭上でクラッカーを引くような動作でパンッと7色の光の線を撒く。
【降り注ぐ願いの短冊】によって現れた7本の平らな光線は重力に引かれるように彼に降り注ぎ、カラフルなダメージエフェクトを放ちながらストマックの体に突き刺さる。
「やめっ……!」
飛び越えて背後に着地した俺は【脚火】でそのまま背後から蹴りを叩き込む。シューズのせいでもっちりとした感触が伝わるが、吸い付かないように制御しているのでそのまま彼は蹴り飛ばされる。
3枚入っているとは言え、また引いてしまった追撃の【刀身の苦無】を飛んでいく彼に追いつくよう投げた。
ばっちり攻撃が届いた姿を確認したところで、さっきの【濁流の垂下】によって水浸しになった地面に手を付け、【激痛電】を撃つ。
水を媒介に電撃が俺の足元からストマックに伸び、彼のアバターに雷撃のエフェクトが走る。
全ての攻撃を余すこと無く全身で受け、プスプスと音を立ててストマックは膝から崩れ落ちた。
もちもちシューズは、足元からの電撃ダメージはシャットアウトする。カードに大きく書かれた効果がこれなので、ほとんどのプレイヤーはこれを目当てに使うのだろうか。
おかげでこうした電撃の余波を自分が食らわないようになっていて、ミューミューの調整が光る。
だがしかし――
「ロマン砲を決めるほどの時間も無ければ、キーカードは揃わずじまいで普通に勝ってしまったぞ……」
視界ディスプレイに大きく表示された「WINNER」の文字を見ながら、俺は拍子抜けするほどあっさりと初陣を終えた。




