問4-6
「さて……まずは何から手をつけてるんですか?」
ずらりと並んだカード達。
これはただ闇雲に並べたわけではない。
俺は自分のデッキに採用する頻度が高いカードを抽出した。
ミューミューが並べてくれたのは、おそらく今のランク戦で良く見かけるカード達だ。
「俺は好きなカード1枚か見つけたコンボ1つをチョイスして、それを活かす為にデッキ全体を組み上げていく……っていうのがいつものパターンかな」
例えば、と俺は4枚のカードを取り上げた。
【心臓の在り処】【千里眼鏡】【ストリングリング】【天上の射砲】
「この4枚コンボのために組んだデッキ、『13リスペクト』は強くは無かったけど面白かったよ。凄腕のスナイパー気分を味わえるし」
「なるほど。面白そうなデッキですね……でも、これ揃えてる間に接近されて死にませんか?」
「死んだ。でも数回に1回は上手いこと成功することもあったよ」
「数回に1回ではすぐに連勝出来なくなってしまいます」
「そりゃそうだ。でもそれがロマン砲だから。……おっと、これじゃ駄目だってのは分かってるよ」
ミューミューが眉根を寄せたので、慌てて弁明する。
「もちろんそんなデッキじゃ困ります。……でも、やっぱり私とは根本から考え方が違いますね」
「ミューミューさんはいつもどうしてる?」
「私の場合、ランク上位勢の直近に使用したデッキリストを確認して、流行りのデッキ傾向や良く使われるカードをチェック。それから、それに有利がつくカードとデッキの選定をしてから調整しています」
彼女が2枚のカードを取り上げた。
「【王の謁見】が流行っていた時、私はこっちの【感情論の極み】を組み込んだデッキで楽に勝利を拾いました。そのせいですぐに【王の謁見】も【感情論の極み】も廃れてしまいましたが」
【王の謁見】は「バフの無効化」エリアを作るステータスカードだ。バフに頼ったデッキを機能不全に陥らせるならこれ1枚で事足りる。効果は自分も影響を受けるが、自らのデッキにはバフ効果を持つカードを入れないだけでいいので、そこまでデッキ構築には影響がないのも良い。
【感情論の極み】は直撃すると相手の手札を参照し、ステータスカードを全て捨てさせてそのコスト分ダメージを与えるバレットカードだ。
これによって「バフが入ったデッキ」にも、バフが入ったデッキに強いがそれ自身が高いコストのステータスカードである「【王の謁見】入りデッキ」にも刺さる構成になる。
なるほど、無駄がない。
「構築じゃなくて調整タイプか。しかもランカー特化の」
「そうですね。実際それで勝ち続ける事は出来ています」
新しいカードが追加されない限り、ほとんどのプレイヤーは既存のデッキから自分に合ったものをチョイスする事が多い。既に結果が証明されているデッキというのは、どんなプレイヤーが使おうと一定の強さは担保されているものだ。
ならば、相手が出す手がおおまかに分かっているじゃんけんと同じだ。
チョキかグーが流行っているのなら、グーを出しておけば負けはない。じゃんけんと違うのは、同じグーを出しても、使うプレイヤーの力量差で勝敗に決着がつくところだろう。
彼女は「あいこ」なら全て勝ちに変えられる実力がある。
「俺の今までのデッキはふざけた一発ネタが多いから、まずは勝ち進む為の無難なデッキを組むべき……ってところかな?」
「……いいんですか? 無難なデッキで」
「もちろん嫌に決まってるさ。でも、ミューミューさんのその流行に合わせる調整能力を借りて、俺なりのデッキを組む」
「そうですね。その方向性で行きましょう」
「俺が構築して」
「私が調整する」
ペアの力を最大限に使い、まずは俺のソロランクアップに注ぎ込むのだ。
「いいね。滾ってきた」
「ふふふ。私もです。じゃあ、まずはその――核となるコンセプトを決めましょう」
俺は並べたカードの中から、2枚をピックアップした。
「実は、もう決まってるんだよね。実用性と楽しさを兼ね備えた最強コンボってやつが」
「……え? その2枚が、ですか?」
俺が選んだカードは、【もちもちシューズ】と【空画整理】だった。
「どう? この2枚で想像出来る?」
「……えっと【空画整理】って、確か空中に足場を作るユーティリティカード、でしたよね? 自分だけが有効で、防御などには使えない、空中で留まりたいときに使うだけの……。便利といえば便利ですけど、これと【もちもちシューズ】に何のコンボが?」
「まあ、そう思うよな。【もちもちシューズ】、使ったことある?」
「無いです。ただ粘着質な足用の装備品ですよね? このガジェットカードに関しては、そもそもどうやって使うか分からないんですけど……」
「これ、俺すごい好きで、ハマってめちゃくちゃ使ってたんだよね。楽しいよ、壁に足くっつけて立つの」
「え、これ壁にくっつくんですか?」
「そう。で、壁に垂直に立とうと思えば立てる。なんかこう……めちゃくちゃ背筋使う感じで行ける」
ミューミューが珍獣でも見たような顔をしている。オッケー。その表情、チョッキにもされた。
「まあ騙されたと思って使ってみてよ。こんなに面白いのになんで流行って無いのか全然分からん」
「どこの誰が『壁にくっついて楽しい! よし、ランク戦に行くぞ!』ってなるんですか。流行りませんよ」
「ナイスツッコミ。いいね」
自分がツッコミをしたという事実が恥ずかしいのか、ミューミューは顔をサッと背けた。
「あ、いや別にこれ単体でランク戦に持っていっても確かにゴミなんだけどさ。これ、オンオフの切り替えのコツをつかめば、天井とかに逆さにくっつく事も出来るんだよね」
「……あ、分かってきました」
「名付けて、『天井の亡霊』デッキ。どう?」
「デッキ名は要検討です」
「はい」
さて、ちゃちゃっと組んじゃいますか。




