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ロマン砲主義者のオーバーキル  作者: TEN KEY
問3 条件による分岐を辿れ
27/92

問3-5

 俺とチョッキがお互いに顔を見合わせているのを横目に、みずちはもう通話をつなごうとしていた。


「ちょっ、まっ――」

「あ、ミューミューちゃん? おはよー」


 俺の必死の静止はまるで間に合わなかった。


「今ね、りょーちんと一緒にいるの。……うん、そう、朝から。あははは」


 なぜ仲が良さげなんだ。しかもいつの間にフレンド登録してるんだよ。


「2人じゃなくて、もう一人チョッキっていうのがいるんだけど、ダンジョン行こうって話になってさ。……うん、それもそうなんだけど、どうせなら4人でどうかなって」


 そしてズバッと誘う。その行動力よ。いや待って、ちょっと心の準備が。……違う、止めないと、まずは……えーっと!


 俺はジェスチャーで必死に「ストップ」と「通話切って」をなんとか伝えるべく手足を動かし口をパクパクさせたが、みずちは軽く小首をかしげただけだった。

 チョッキは俺を見てけらけら笑ってる。クソ、駄目だ。味方がいない。


「えー? いいじゃん行こうよ―。4人も楽しいよ?」


 よし、断ろうとしてる!「午後からは2人きりにしてあげるからさー」いらんこと言うな!


「じゃ、4人でも良いよね? ……決まり! りょーちんの部屋で待ってるね!」

「おいみずっち! 俺の部屋は駄目!」


 流石に声が出た。もうここまで来たら4人は仕方ない。ちょっと焦ったが、よく考えれば2人だけよりハードルは低いんだ。いつもの奴らが一緒なのは悪いことじゃない――だが部屋は駄目だ。

 なんか……こう……恥ずかしい!


「え、なんで、いいじゃん。もう集まってるし」

「とにかく駄目! ロビー! ロビーにしてって言っといて!」

「ふーん? ……ごめんね、ミューミューちゃん。なんかりょーちんがロビーにしてって」


 ほっと息を吐いた。


「いいよー。もう行ける? ……うん、じゃあよろしく!」


 通話を切ったようだ。俺はみずちに詰め寄る。


「りょーちんさっきのカクカクしてたの何? ロボットダンスの練習なら後にしてよ」

「んな事いきなり始めた覚えはないわ! いきなり俺らに断りも無く他人を誘うなよ!」

「おいりょーちん、他人なんて水臭い事言うなよ。それに俺はミューミューちゃんなら大歓迎だぞ?」

「そうだそうだー! チョッキたまには良いこと言うじゃん」

「だーしょ?」

「いえーい」「イェーイ」


 ハイタッチしてる。何だこれ。


「いつの間にミューミューと仲良くなってんの?」

「そりゃもちろん、昨日だわいな」

「昨日って、あの後?」

「うん、あの後」


 俺は思い出す。()()()? ()()()




挿絵(By みてみん)




「りょーちんは!! 私と!!! 組むの!!!!」


 みずちが拡声されたボイスで叫んだ。

 広い会場にキィーンとこだまし、観客は静まりかえる。


 みずちはハッとしたようにその会場と壇上の俺らに目を向けた。

 アバターは顔色まで反映させないが、表情で分かった。多分、リアルなら今彼女は真っ赤になっている。


「はい!!! 今の無し!!!! すまんかった!!!!!」


 さらにでかい声で宣言した。いや、声量で上書き出来るシステムでは無いのだが。


 うーむ、どうしよう、この状況。

 俺はここから上手くまとめられるような話術はない。だが、このままという訳にも行かない。何かフォローを――


「火香さん? お話があるなら、どうぞ」


 いつの間にかまた立ち上がっていたミューミューにスポットライトが当たる。こんな時まで仕事が早いぞ、ツインテ少女。

 話を振られて、一瞬きょとんとしていたみずちだったが、すぐにヘラヘラ顔に戻った。


「あーーー…………はい。いや、えっと、シトラス氏は、わたくしのランクアップの助けをしてくれている方なのでー、えーっと」


 こんなしどろもどろな彼女も珍しい。焦ってる。


「普通の話し方でいいですよ? お友達なんですよね、彼とは」


 ミューミューのその言葉はひやりとするような冷たさがあった。なぜ今()()()()()()()()()()


「あ、うん。じゃあ普通にしゃべるね」


 みずちは、ミューミューの声で顔から笑いを消した。

 そして何か決心したように息を吸い込むと、大きく口を開いた。


「私にはシトラスが必要なの。丸々あなたにあげるわけにはいかないかなって。組むっていうのは、別に彼とペア戦に行きたい訳じゃなくってさ。私の練習相手としても、デッキを見てもらう相手としても、彼に今までどおり時間を割いて欲しい」


 みずちの珍しく素直な言葉だった。いつも笑って本心をごまかしているような節があるが、今のは真剣な声だ。

 ただ俺は遊んでいるだけのつもりだったのだが、本当に彼女の支えとなっていたのだろうか。

 さっき自分が冗談で言ったつもりの言葉が、彼女にとっては真実の一部だったかと思うと、俺は気恥ずかしさと同時に嬉しさがこみ上げてくるのを感じた。

 そんな風に思ってくれているとは思っていなかったから。

 みずちの言葉を聞いて、ミューミューは小さく頭を下げた。


「そうですか。ごめんなさい、そういう関係とは知らずに、勝手にこんな場所で約束してしまって」


 会場がざわつきを取り戻し始めた。状況に追いついた者たちが、好き勝手に壇上の俺たちについて憶測とうわさを飛ばし合っている。


「あ、皆さん黙ってもらえますか? 大事な話なので」


 ミューミューが頭を上げると、未だ温度の無い声で静かに、だがはっきりとそう言った。

 ピタリと会場が静まる。


「火香さん、安心して下さい。1ヶ月間だけとはいえ、彼の時間を全部私によこせとは言っていません」

「ふーん?」

「私は必要なだけ彼に要請します。それを受けるか否かは彼次第です。……でも、約束は守ってもらうつもりですから、全て断るような真似はさせませんが」

「じゃあ、私が誘ってる日なんかは……」

「彼が私を断れば、あなたのところに行くのでは?」

「なるほどねー。うん、それでいいや。シトラス次第って事だね」

「そうです。シトラスさん次第です」


 2人が左右からにっこりと俺に顔を向けた。笑っているのに、なんだこの威圧感は。


 俺一人がスポットライトで照らされた。

 名も知らぬツインテ少女よ、頼むからやめてくれ。

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