問3-4
「みずっちおはよーっす」
「お、おはよう」
俺は少しどもってしまった。チョッキは持ち前の対応力でめちゃくちゃ自然体だった。
まぁ俺のびっくりは、昨日の今日でこのテンションのみずちに驚いているのだが。
「なーんだりょーちん、チョッキは呼んだのに私のメッセは無視か!」
「おっとごめん、みずっち。男同士の話し合いって言って呼ばれたんだ、俺は」
お、ナイスフォロー。
「そうそう、後で呼ぶつもりだったんだよ。話が終わったら。――っていうかどうやって入ってきたんだよ」
「どうやってって……ドア開けて」
「お決まりのボケはいいから」
「ぶー。いけずー。前に来たときに面倒だから設定してって私が言って、すぐにしてもらったじゃん、『ルームメイト』」
「あ」
そういえばそうだった。ルームメイト設定をオンにしたので、フレンドなら招待しなくても俺の部屋に入れるようになったんだった。すっかり忘れてた。
「ところで話って何の? ……あー! もしかして昨日のミューミューちゃんの話?」
俺とチョッキがピタっと止まる。
こいつ、まさか自分からその話に突っ込んで来るとは。
「――あー、まあ、それもある」
チョッキは「任せた」みたいな顔をして黙ってしまったので、俺が仕方なく返事をする。
「なになに? デートの日取り? ちゃんとピシっとした格好しなよ?」
「デートじゃねぇよ!」
「恥ずかしがらなさんな。ほれ、オネーさんに相談してみ? いいアドバイスするよぉ」
「なんだよそのキャラ。うっとおしい」
おや、この感じ。いつもどおりだ。
みずちにとって昨日のことは特に何も無かったことになったのか?
いや、その方が助かるんだけどさ。こいつと変な感じになるのは嫌だったし。
――気を使ってくれてるのかも知れない。
「午後からはミューミューと一緒にイベントかペアダンジョンに行くって話には……なってる」
「ほうほう。さっそく逢瀬ですか。お盛んですねぇ」
「お前もか。なんだよ『逢瀬』ってキーワード流行ってんの?」
「あーみずっち。俺がさっき一言一句同じ事言ったわ」
「えーパクんないでよチョッキ。私発祥だからね、『逢瀬』は」
「んなわけあるか。古典に謝れ」
「ごめんね~、古典ちゃん」
「おっと素直。擬人化した上で素直」
3人でアホな話をして笑う。良かった。昨日の事は封印しよう。
「じゃありょーちん、みずっちも来たし、とりあえず行きますか」
タイミングよくチョッキが話題を変えてくれた。
「オッケー。どうする? いつもみたいに3人で殲滅戦?」
「うーん、今日はサドンデスって気分じゃねえなぁ俺は。りょーちんが後でミューミューちゃんとペアダン行くなら、久しぶりにパーティ組んで予習がてらダンジョン行っとくか?」
ネクロはオープンワールドMMORPGの基本に忠実だが、メインコンテンツは迷宮攻略だ。
ゲーム内で「エネミー」と呼ばれる敵性生物が現れるのは、フィールドやダンジョンなどに限られる。そして街から出てそれらとの戦いに挑む場合は「攻略デッキ」を組まなければならない。
コンクエストデッキは、対人戦用に組む「対戦デッキ」とは大きく内容が異なる。
というか、コンクエストデッキが一般プレイヤーが普段使用するデッキで、俺の様にバトルデッキを組みまくるのは対人特化のランカーくらいのものだ。
「あー、それもそうか。俺、パーティー用のコンクエストデッキ最近触ってないわ」
「だよな。最近ソロばっかりだっただろ? 例の『研究』に夢中だったから」
「もう昨日研究結果は私にぶっぱしたもんねー」
そう、最近はずっと【鳴神:萬】と戯れていたので俺は一部のイベント以外ではあまり外には出なかった。
「じゃあ今から急いで調整しないとだなぁ」
コンクエストデッキとバトルデッキの大きな違いは、カードのコスト制限の差だ。コストはカードごとに設定されていて、単純に強いカードはコストが高く、威力が弱かったり条件が必要なカードのコストは低い。
デッキに使える総合コストはルールによって差はあるが、基本は100コストまでだ。その中でデッキを組まなければ公式戦には参戦出来ない。
バトルデッキにはそれ以外にも様々な制限がある。ゲームの性質上、無制限でデッキを組ませてしまうとより高いレアリティで使いやすいカードのみを使うプレイヤーで溢れてしまい、多様性を失う。
なので強いカードを入れた分、他のスロットには弱いカードを入れる必要がある――はずだったのだが。
現実には強いカードと「そこそこ強いカード」を使うプレイヤーしかいない。そりゃそうなるわ。
まあバトルデッキの事は今はいい。今日はコンクエストデッキだ。
コンクエストデッキには、そういった制限はほとんどない。あるのは枚数制限くらいで、基本は自分の持っているカードで好きなようにデッキを組める。
だが、ソロで外に出るならともかく、パーティーとなると話は別だ。
自分以外のプレイヤーのデッキ内容と出来る行動を把握し、足りない部分を埋めるようにデッキを組まなければならない。
そういったデッキはキャラクターの方向性に合わせて「職業デッキ」なんて呼ばれている。
「二人はいつもの感じ?」
「だなー。俺は盾騎士スタイル」
「私は当然炎戦士だよ」
ディフェンスナイトは味方へのバフと防御に寄せた構成だ。バトルデッキでは成り立たない、まさにコンクエスト用のデッキだ。
みずちのバーンウォリアーはそれとは対象的に、普段使っているバトルデッキとあまり差がない。違いと言えばより強力な火力をデッキに採用していることくらいか。
「じゃあ俺は賢者ってことだな」
ワイズマンはライフの回復や味方のリムーブしたカードの修復に回り、空いた時間は援護射撃と、主にサポートとサブ攻撃の担当だ。
みずちの攻撃、チョッキの防御、俺がそれ以外となかなかバランスは良い。
だが、あまりにもパーティーを組むのが久々なので最近増えたカードでデッキのアップデートがされていない。
絶対にする必要があるわけではないが、せっかくならしておこう。
「ワイズマンならミューミューちゃんと2人でも、まあ無難に立ち回れるだろ」
「だよな。ちょっと調整するだけだから待っててくれ」
「あ、待って」
デッキを確認し始めた俺達に、みずちからストップがかかった。
「ミューミューちゃんもうログインしてるじゃん! せっかくだから、午後と言わずに今から4人でパーティ組もうよ」
そして唐突に爆弾をぶちこんで来た。
さすが爆発至上主義だ……ってうるせえわ。




