答2-6
俺は【血の盟約:怨恨】もポップアップで表示させた。
今回使ったデッキ「勝手に怨恨砲/ver2」の決め技は【迸る鶴翼の閃光】だが、キーカードはこっちだ。
【血の盟約:怨恨】
自分自身に影響を与えるタイプのステータスカードで、このカードの効果が発揮されている状態で受けたダメージを記憶し、次の自分の攻撃カードの威力に受けたダメージの5割を追加で乗せる事が出来る。
簡単に言えば、やられた分をやり返す反撃カードのようなものだ。
このカードもレアリティが高いわりに採用率は低い。なぜなら、ゲームがアクションゲームである都合上、攻撃が必ず当たるとは限らないからだ。
せっかくある程度攻撃を受けた後にダメージ加算を与えた攻撃を撃っても、その攻撃が外れたら加算分はリセットされる。なんとか当たったところで、受けてるダメージの分普通に考えたら自分の方が不利なのでさほど美味しくもない。
メリットが、リターンを得られないリスクに対して小さすぎるのだ。
おまけに、当たりやすい範囲指定や散弾タイプの攻撃はしっかり加算分のダメージも分散されるという徹底ぶり。あまり当てやすいと強くなりすぎるのでバランス取りが難しいところだが、調整の結果「強そうだけど使ってみると必要性を感じなくてデッキから抜ける」カードの典型的なものになってしまった。
――つまり俺の大好物だ。
なんとかして使ってやろうと作ったデッキは数知れず。その中で一番感触が良かったのがこの【迸る鶴翼の閃光】との組み合わせだった。
【血の盟約:怨恨】は次の攻撃を撃つまで効果が持続する。ならば、どんどん被弾しつつゲーム後半まで粘り、一気に逆転するスタイルはどうかと考えたのだ。
壁はいくつもあった。
まず1つ目の壁は、「ライフを9割まで削られても、相手に与えられるダメージはその半分問題」だ。
【迸る鶴翼の閃光】の基礎ダメージはゲーム後半で最大1.5倍まで威力が上がる。【血の盟約:怨恨】はなんとその「基礎ダメージ」側に補正が入るので、結果としてはほぼ自分が受けたダメージの1.5倍を相手に与えられる計算になる。つまり9割のダメージの半分、4.5割の1.5倍で7割近いダメージが相手に入る。これで1つ目の壁は大分緩和された。
次に現れた壁は、「相手のライフを3割を削る間に自分のライフも3割ぐらいは削れてて計算が合わない問題」だ。
どうしても一方的なゲームを作るというのは難しく、こちらの攻撃が当たるということは相手の攻撃を食らう可能性も高いということ。こっちが攻撃をする間は、【血の盟約:怨恨】でダメージを貯め込む事が出来ない。
こっちのライフが3割削れた状態から【血の盟約:怨恨】を使用して受けに回っても、最大ダーメジはおよそ相手のライフの5割になる。また2割も足りなくなってしまった。
そして攻撃→被弾を繰り返すうちにイタチごっこのようになり、【血の盟約:怨恨】が叩き出すダメージは減っていき、ついには何の意味も無くなる。
この問題は、自らが表に出ずにトラップを駆使して削る、という面倒なやり方を取ることで無理矢理解決した。
トラップならばガジェットカードやステータスカード、ユーティリティカードを使用してダメージを与えられるので、【血の盟約:怨恨】の効果が適用されるバレットカード、ショットカード、スペルカードを撃たなくて済むのだ。
これでとりあえずは運用の目処が立ったので、デッキに「怨恨砲」と名前をつけ、みずちを相手に試運転してみた。
彼女は予想通りトラップに引っかかりまくり、俺がひょこひょこ顔を出すのを疑いもせずに攻撃をしてきてくれたので、結局まだ6割のライフがあると安心していた背中を一撃で貫いて勝った。
――だが問題は2戦目。ネタがバレたこのデッキは異常なまでの弱さだった。
トラップだらけなのを察知すると、攻撃はそっちのけでトラップを壊された。そして俺には最低限のダメージを与えると、その後は丁寧に守りながら立ち回られてしまった。
そうなると攻撃手段に欠けるこちらはお手上げだ。
たとえ初戦でも、相手が守り重視のデッキだと、おそらくトラップでのダメージが少なすぎて間に合わない可能性も高かった。
この第3の壁、「対戦相手の観察力とデッキに大きく影響される問題」がどうしても解決出来ず、お蔵入りとなった。
しかし最近期待の新戦力を獲得して新たに調整を始めたのが、つい昨日の話。
新戦力は【隠し矢】。そしてそこから更に俺が発掘したのは【モノクロームスパイ】だった。
ここまで流れるように説明した俺は、会場を見渡す。
会場は静かになっていた。しっかり耳を傾けてくれているようだ。よろしい。
今挙げたカードを画面に表示させると、俺は手品のネタをバラすような気持ちで話を続ける。
このミニオンカード【モノクロームスパイ】の良いところは、自らが危険に身をさらさずとも、ほぼ自分と同じように可動するため、予め出しておいたガジェットカードを使用してトラップの設置や相手の誘い込みが出来るところだ。
利点はこれだけではない。
このミニオンカードにはスパイである設定を活かすために、1つならユーティリティカードかステータスカードを「持たせる」ことが出来るのだ。
持たせたカードは、【モノクロームスパイ】の破壊とともに一緒にデッキから消滅されてしまうデメリットもあるが、これに関しては圧倒的にメリットが勝る。
【モノクロームスパイ】の操作中に、画面には持たせた1枚のカードが表示される。それは任意のタイミングで使用出来、通常と同じ効果を発揮する。本来なら、相手への妨害工作や、こっそり近寄って状態異常の付与などのためのものだが、ここに【隠し矢】を持たせる事で彼は「攻撃する俺のダミー」になったのだ。
【隠し矢】は、「直前に撃った攻撃カード」をコピーしてくれる。ならば、直前に何も撃っていなければ?
俺は【隠し矢】を手に入れて即、その行動の検証をした。
すると、出たのは【光弾:小】だった。
これは、ゲーム開始直後の初心者プレイヤーに持たされるデッキの超基本的なバレットカードだ。
あまりの弱さに、初心者用のWikiに「街を出る前に所持金で買える【光弾:散】を買って差し替えて下さい」と書いてあるほどだ。
一応初心者でも当てやすいように弾速こそ割と早めの設定だが、とにかく威力が小さい。
こんなものを撃っても仕方がない――と普通は思うだろうが、俺には神の天啓だった。
どんなに威力が小さくても、【隠し矢】の攻撃はそもそもダメージ皆無なので関係がない。
【隠し矢】はユーティリティーカードなので【モノクロームスパイ】に持たせる事ができる。
そして「攻撃をしてくる俺の姿をしたもの」は対戦相手からすれば「俺そのもの」に他ならない。
全てがパズルのピースのようにカチリとハマった。
もちろんまだ準備は必要だった。
【モノクロームスパイ】はそのままでは人形の姿なので、【ダミーペイント】で俺のアバターと同じ姿に変え、【神々の構造物】で強力な「攻撃によるダメージを軽減する」というステータスを付与した。
「そうして出来上がった『ダミーくん』は、この試合の大半をコントロールする役割を演じきってくれました」
俺がそう締めると、背後には最後の【紫電鎚ミョルニル】で全ての効果を失って崩れ落ちたダミーくんの姿が大きく映し出された。
会場から感嘆の声が上がるが、同時に疑問の声も聞こえてきた。
「ですが、シトラスさんはダメージをかなり受けてましたよね? あれはダミーくんへのダメージでは無いはずですけど、何だったんですか?」
おっとそれは丁度説明しようとしていたところだ。
「えー……、それはですね、自傷行為です」
俺は画面の操作をツインテールの少女にお願いする。
映像はほとんどダミーくんにフォーカスが合っていた。おそらく操作プレイヤーが目を閉じて【モノクロームスパイ】を稼働させている時はそっちがプレイヤーのように判定が動くのだろう。
それをあえて、本来の俺のアバターへ動かす。
そこに映ったのは、ミューミューの攻撃にタイミングを合わせ、一生懸命グサグサと腹に刀のガジェットを突き立てる俺の姿だった。
俺はこれを「ジャパニーズセップクスタイル」と呼ぶことにしているが、会場の反応はあまりよろしくなかった。
自分で自分を攻撃しても、【血の盟約:怨恨】の効果には加算される。
だからこのデッキの名前は「勝手に怨恨砲/ver2」なのだ。




