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ロマン砲主義者のオーバーキル  作者: TEN KEY
問2 全てを注ぎ込む方法を示せ
17/92

答2-2

 集まってきたプレイヤーたちは、ぴょん吉の紹介で次々に名乗っては握手を求めてきた。

 かわるがわる私のゲームプレイについて一言褒めてくれるので、どんどんかしこまっていく私。


「でへへ、いや、めっそうもございませんで」


 あげく、トンチンカンな話し方になってしまっていた私の姿を見かねたのか、ぴょん吉が「おしまいおしまいー!」と場を収めてくれた。


「ごめんなさい火香様。みんな私の学校の友だちなんです」

「あー、さっき言ってた?」

「そうです。みんな火香様に会いたがってたし……。あ、でも今はこっちですね!」


 そう言ってくるりと振り返ると、ミューミューちゃん側のゲーム画面をささっとコンソールで操作して、いろいろな情報を画面の右側に吹き出しのようにぽこぽこと表示させた。

 ゲーム画面は宙に浮かぶウィンドウだが、仮想世界なのでこうやってそのウィンドウから飛び出して一緒に見たい表示が増やせたりするのはいいところだ。


「そうだ! ここシアターエリアなので、人数も揃ってますしシアターモードに変えますね」

「ん? なにそれ」

「ちょっとしたグループが集まれば、こういう機能が開放されるんですよ」


 続けてぴょん吉がコンソールを操作すると、私と彼女の友人たちの前に「シアターモードに同意しますか?」という表示が現れた。

 もちろん同意する。

 すると、今まで見ていた画面はぐーっと奥に移動すると、正面で涼しげに流れ落ちていた滝の前でぴたりと止まり、ぶわっとちょっとした映画館のようなサイズに拡大した。


「すごーい! こんなのあったんだ!」

「グループ用のツールですから、こうして10人以上いないとロックされてますからね」


 ついでに、滝前の小さなスペースには小洒落たベンチとテーブルが画面を観戦しやすいような位置ににょきにょきと生えてくる。

 至れり尽くせりだ。


 私達はぞろぞろといくつかのベンチに分かれて腰かけると、ごほん、と芝居がかった咳をしながらぴょん吉が前に出てきて説明してくれた。

 

「右端の表示が、今のゲーム中で玻璃猫(はりねこ)様が使ったカードの一覧です。もうゲーム開始から13分くらい経ちますけど、正面からの戦闘が無かったのであまり手札も回して無いですね」


 画面は十分大きいので、二分割され左にりょーちん、右にミューミューちゃんが映し出されていた。

 更に画面のそれぞれ両端からポップアップウィンドウが出ていて、何枚かのカードと詳細が表示されている。

 大画面の上部には残り時間と、二人のライフゲージ。まだライフゲージはゲーム開始時と同じ位置から全く動いていなかった。


 それを見て、彼女の友人たちは喧々諤々(けんけんがくがく)とデッキのことやミューミューちゃんのことについて意見を言い始めた。

 私にはよくわからない事が多かったが、どうやら彼女がいつも使っているデッキと今のデッキは大きく方向性が違うらしい。

 ぴょん吉いわく、「いつもだったらそのデッキを使ってる相手を翻弄して倒す側なのが玻璃猫様」だそうだ。


「だから、わざわざそんな不似合いなデッキで玻璃猫様が何をしようとしているか、っていうのがこのゲームの見どころですね」


 ふんす、とささやかな胸を張って彼女は締めた。


「解説ありがとうございますぴょん吉さま。わからんことだらけの私でも理解出来ました」


 私がへへーと頭を下げると、ぴょん吉は慌てて大げさに両手を振る。


「頭を上げて下さい! あ、ほら。ついにゲームが動きそうですよ?」

「ふむ?」


 私がひょいと頭を起こすと、確かに画面には両極端な二人が映し出されていた。

 かたや大きく腕を振り上げ、にやりと不敵に笑うミューミューちゃん。

 かたや暗がりで身を潜め、崩れた窓枠から少しだけ顔を出してミューミューちゃんの挙動を窺うりょーちん。


 次の瞬間、静かだった画面から大きな音が響く。

 右のポップアップウィンドウに【紫電鎚(しでんつち)ミョルニル】のカード表示が増えた。

 女の子達はきゃーきゃーと盛り上がるが、即座に悲鳴に変わった。


 画面内のミューミューちゃんが横っ飛びに避けた後ろで、光弾が爆ぜる。

 私はりょーちんらしい攻撃だなぁと思いながら左側の画面に顔を向けると、案の定彼は着弾を確認もせずに動き出していた。

 今度は画面の右側から「ようやく見つけましたよっ!」と楽しそうな声が聞こえたかと思うと、連続技からの流れるような【視界跳躍】でりょーちんのいた場所に飛び込んでいくミューミューちゃんの良いムーブが見れた。こういうのは私でも分かる。


 ()()()()()()


 そもそもほとんどのプレイヤーならあの光弾に当たるだろうし、仮に避けたとして、あの手札から的確にカードを使って鮮やかな追撃につなげるセンスは尋常じゃあない。

 避けるまでなら私にも出来るだろうし、なんとか追いかけることに頭は回るかもしれない。

 でも、あの判断のスピードは凄まじい。

 

 間違いなく私より、強い。


 ぶるっと体が震えた。これは喜びだろうか、それとも恐れ?

 しかしその感情も一瞬で霧散してしまった。

 

 ミューミューちゃんが飛び込んだ先に仕掛けられてたのは、【モーニングスター】によるトラップ。

 からの、部屋ごと下階に叩き落とす崩落トラップ。

 りょーちん得意のトラップ畑に足を踏み入れ、見事に引っかかる彼女を見て少し笑ってしまった。

 ――それがあまりにも昔の私にそっくりだったから。


 そこからの展開も瞬きが惜しいくらい目まぐるしく、そしてレベルの高いやり取りが続いた。

 必死にあがきながら対策し続けるミューミューちゃんと、その行動の更に先を行くようにハメ続けるトラップに次ぐトラップ。

 ひょいひょい物陰からこしゃくな小攻撃で翻弄する楽しそうなりょーちんの顔に、観戦している面々はどんどん騒がしくなっていった。


「なんですかこの人!」

「ミューミュー様頑張って!」

「いつの間にこんなにトラップを……? え、この人のデッキどうなってるんですか!?」


 誰かが気づいて大きな声をあげた。

 戦闘画面に集中して左側のポップアップは皆まったく見ていなかったようだ。

 

「【モーニングスター】【トーフノッカー】【千本刃(せんぼんやいば)】【隠し矢】に【ロードストーンズ】……バレットカードもショットカードも一発も撃ってないですよ!?」


 実は私はちょっと前に気づいていた。だってこれ、似たようなことをやられた記憶があったから。

 確かあのデッキ、ユーティリティカードとかガジェットカードばっかりだったはずなんだよねぇ。

 

 騒ぎは更に大きくなる。そのあまりの騒々しさに周囲にいた関係の無い人々もシアターの周りに集まってきたようで、二人のバトルを立ち見しては驚き、喧騒の輪に加わっていった。


 画面内では更に攻防が繰り広げられ、いつの間にか横に座っていたぴょん吉が放心したようにぽかんと口を開けながら私に顔を向けてきた。


「火香様……、あの人……『シトラス』さんって、何者ですか?」


 私はその質問にうーんと少し頭を捻る。

 りょーちんのことを一言で表すなら、そうだなぁ。


「『ロマン砲主義者』――かな?」

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