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ロマン砲主義者のオーバーキル  作者: TEN KEY
問2 全てを注ぎ込む方法を示せ
12/92

問2-2

挿絵(By みてみん)


 私が2枚目の【猪突爆進】を使い終わっても、彼――シトラスさんからの反応は無かった。


「うーん、流石にこの狭いフィールド内で聞こえてない訳が無いはずですが……」


 半壊したビルの中階層から外を見渡してみるが、夕日に照らされた都市の墓標達からは何の返答もない。

 困った。

 私が今やるべきことは、まずは強引にでも索敵。そして近接戦に持ち込むことだ。

 デッキも当面の目標を達成する手段には事欠かないように構築しているし、手札の引きも悪くない。

 でもまさか、シトラスさんが隙だらけの私相手に徹底して隠密する作戦を選ぶとは予想外だった。

 あてが外れた私は、手札に留めてある近接戦闘用のバレットカードたちを恨めしく思う。


 この状況を打開するための候補は3つ。


 このまま適当なカードだけ使い捨ててデッキを回し、次の【猪突爆進】で今の行動を繰り返す。

 これにはデメリットがあり、索敵用のカードが無い私は視界が悪くなる夜になってからは大きく不利になってしまい、相手の攻撃手段次第ではこちらが相手を視認できず一方的に狙われる可能性があることだ。

 次の候補は、居場所と思しき場所に向かって適当な大技を撃つこと。

 一応こんなときのために大きなビルでも半壊させられるような高火力で対構造物特化のカードは少量だが挿してきた。これのデメリットは、試合序盤で大技を相手に見せてしまうことと、当然のことだが相手の場所が分からない現状では効果が期待出来ないことだ。

 最後の候補。これが最も現実的だと思う。

 「私が馬鹿に見える」作戦を変更して、()()()()()()()相手の特徴や傾向から索敵を行い、より効果的な攻撃に移ること。

 これのデメリットは、既に行っているアクションで相手に与えた「私のイメージ」というメリットをむざむざ捨てるハメになる事だ。しかし、これを成すのは私の「本当の目的」に気づかせない程度のメリットでしかないとも言えるので、他のデメリットに比べればかなり小さい。

 そもそもこの試合(ゲーム)に引きずり込んだ時点で私の目標は半分は達成しているようなものだし、「本気の彼」を引き出せる可能性があることも鑑みると、悪い選択ではないようにも思えてくる。


 いや、今この状況でも反応が無い時点でとっくにシトラスさんには私の目論見がバレてたりして。怪しすぎたかな? 火香さんの「お嬢様ご乱心スタイル」の模倣は。


 少しネガティブな思考を振り払うと、改めて手札を見直す。

 近距離用のバレットカードが2枚と、近・中距離用のショットカードが1枚。それとこのデッキの中核を成す【龍鱗(りゅうりん)の加護】だ。

 使用回数を増やしているとは言え、このカードはあまり無駄打ち出来ない。とりあえずはバレットカードを消費しようかと眼前にそびえるビルに向かって攻撃ポイントを定め……そこでふと気づいた。

 そのビルを抱き込むように這う太い木の枝や、内部から外へと光を求めて生い茂る枝葉に紛れ、電気コードのように細くつやがある蔦がビル全体を覆っていることに。

 この蔦は、フィールドオブジェクトではない。カードの効果によって生み出されたエフェクトだ。


「【領有権の蔦】……!」


 【領有権の蔦】

 フィールド上に存在する一定のエリアに対して影響を与えるステータスカードだ。領域を指定してカードをアクティブ化させると、蔦が伸びそのエリア全体を覆う。蔦に覆われた範囲に対して他のプレイヤーが侵入したりなんらかの攻撃を加えると【領有権の蔦】の使用者に通知が行く。

 通知だけではなく、そこに当たった攻撃カードの詳細やプレイヤーの位置情報まで表示されるようになってしまうので、領域内の戦闘は圧倒的に使用したプレイヤーが有利になる。


 こんなビルにこっそり【領有権の蔦】を這わせる理由はひとつしか考えられない。

 (トラップ)だ。


 のこのこ飛び込んで来た私に対して、なんらかの遠距離攻撃かスイッチ起動式のガジェットで迎撃するつもりだったのだろう。

 このフィールドでは植物型のエフェクトが現れるカードは周囲のオブジェクトに紛れてしまい発見しづらいので、何も考えずに足を踏み入れていたら危ないところだった。


 よく気づけた、私。


 トラップならば自分の居場所は悟られず、安全な場所から攻撃できるのだから、彼からしたら一番取りたい行動であるのは間違いない。だがこうして看破されてしまうと、一方的とはいかなくなる。

 わざわざ見えている罠に足を踏み込む必要はない。

 私はにやりと口角を上げると、まず【龍鱗の加護】を使用して備える。すかさず手札のショットカードをアクティブ化し、両腕を伸ばし両掌を指をからめてがっちり組むと、両肘もくっつける。その腕でかたどった「鎚」を大きく振り上げ、正面のビルに向かって勢いよく振り下ろした。


紫電鎚(しでんつち)ミョルニル】


 落雷と共にビルの頂点に天空から神々しい装飾のついた金色に輝く巨大なハンマーが叩き落とされ、ビルの外壁に雷撃を走らせる。それはビル内部のプレイヤーにもダメージを与え、用意されていた罠やガジェットを機能不全にさせる「効果破壊」を持った一撃だった。

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