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ギラルディン家の双子

 商店街に繋がっている出口を通ると、目の前には棚があった。これは、店の倉庫だろうか。

「ん~、客いないから、今のうちに出ようぜ」

 アルスに引っ張られて扉を通ると、また棚のある場所へ。

 店員と目が合ったが驚いてはいないので、連絡がいっているのだろう。

「ここって、雑貨店?」

「何かほしいのあるか?」

「今は、いいかな。今日はもうゆっくり休みたいし」

「おまえ、過労だからな!」

 二人で外に出ると、日は少し沈みかけていた。

 人間はやはり珍しいのか、視線を向けてくる人が数人いるが、すぐに顔を引き攣らせて離れていく。脅しはちゃんと効いているようだ。

「リーズには、悪いことしちゃったな」

「あぁ、あれか。気にすんなよ。あいつも、下にみられるぐらい慣れてるさ」

「下って……」

「獣人には眼鏡なんていないからな。それだけで欠点としてみられる。個性もあるかわかっていないし、第二王子でも、世間の評価としてはかなり下ってわけ」

 マジか。視力なんて人間だと低くなっている人のほうが多いのでは。

 でも、この世界だとパソコンとかスマホはないから、そんなに目を酷使することもないのかな?

「リーズも大変なんだね。眼鏡って知的なイメージあるから、私は好きだけどなー」

「それ、リーズに言ってやれよ。泣いて喜ぶかもな」

「泣かせてどうするの……」

「あいつ、褒められるの慣れてないだろうし……」

 突然、会話をやめて、アルスが立ち止まる。

「悪い、ちょっと寄るとこできたわ」

「え?」

 私の手を掴み、アルスは走り出す。その距離は長くなかった。

 

「アリカ、アリス!」


 少し先にいる小さな女の子二人が振り返る。同じ顔が二つ。双子だ。

「お兄様!」

「お兄様だわ!」

 二人は手を繋いだまま、嬉しそうに駆け寄ってくる。

 肩まで伸びたサラサラの銀髪に、尖った耳。宝石のように輝く青い大きな瞳。

 青いヘアバンドは、それぞれ左右に片方だけリボンが付いていて、私の場合、匂いで誰かはわからないので、これで見分けることになるだろう。

 レースの付いたふわふわなスカート。氷の国のお姫様というものがいたら、それはこの子たちに違いない。

「かっわいいぃ……」

 外国人形のような美少女が二人。この世界にカメラがないのが残念すぎる。

「かわいい?」

「かわいいですって!」

「うれしい!」

「うれしいわ!」

 私の言葉に反応して、双子はキャッキャと笑い合う。

「この可愛い双子、アルスの妹?」

「……母親違いのな。左にリボンが付いてるのがアリカ、右がアリス。今年で10歳だったかな」

「可愛いね~」

 アルスの母親については聞いたが、父親がどうなったのかは聞いていない。こうして母親違いの子がいるからには、それなりに幸せな生活を送っているのだろうか。


「こら、アリカ、アリス。おまえたちだけで、こんな時間まで何をやっているんだ? 今は大変な時期なんだ。早く家に帰れ」

「お兄様、冷たい」

「冷たいわ!」

「私たちだって外に出たい」

「家にはお父様だけだもの」

「何も言ってくれないわ」

「私たち、嫌われているんだわ」

 二人の耳が、落ち込み具合を示すように下がる。

 家の事情を知らない私が慰めていいものか。

 隣で、アルスが溜め息をついた。

「父さんは、おまえたちを嫌っているんじゃない。女が苦手なだけだ。一緒にいるときは、その点を理解した上で接するように注意しろ。後ろから近付くのは駄目だし、視界に入っていても、声をかけて近付いていいかどうかを確認しろ。黙ってジーッとみるのも、許可なく触れたりするのも駄目だ」

 警戒心の強い野生動物かな?

 女が苦手って、アルスのお母さんのせいだよね……。隔離病棟で会った人たちと違って、アルスのお父さんはトラウマになってしまったのか。

 この様子だと、アルスとの仲は悪くないのかな?

「難しいわ」

「どうしてお兄様みたいに、普通にお話できないの?」

「父さんは、俺と違って繊細なんだよ。刺激を与えすぎると、実家に帰るとか言い出すぞ」

 名家から嫁いできたお嬢様かな?

 そこまで繊細なら、一緒に住まないほうがいいのでは。

 他人だから口を出さないけど、血の繋がった家族とはいえ、母親と双子の女三人と住むのは、女嫌いにとっては環境が悪すぎる。それでも別居しないのは、世間体を気にしてか。

 ラグもギラルディン家は有名だと言っていたし、これ以上、家の事情を外に知られたくないのかもしれない。

「とにかく、今は本当に大変な時期なんだ。送ってやるから、大人しく家に帰れ」

 アルスがいいかと確認するような視線を向けてきたので、私は頷いた。10歳でも、この可愛さなら、不審者を警戒するのは当然だ。

「お兄様、そちらの方は、お兄様の恋人ですか?」

「叔母様以外の女性と歩いているなんて珍しいわ」

「こいつはリィナ・ランブルってやつで、今日からここに住むんで、送って行くところだったんだ。恋人じゃない」

「期待させたのなら、ごめんね」

 言いながら、私はとんでもないことに気付いた。


 アルスと結婚できたら、この可愛い双子が私の妹に!?


「おまえ、今、ろくでもないこと思いついただろ」

「え、わかる?」

「俺の勘をなめるなよ。獲物を狙う目ぐらいわかる。簡単に落とせる男だなんて思ってほしくないね」

 台詞的に怒っているようにも思えるが、目線が私から外れていて、少し戸惑っているようにもみえる。

 最初からフレンドリーで攻略しやすい思ったら裏に重すぎる秘密があったりするキャラなんて、乙女ゲーではもう定番だ。攻略に簡単なんてない。

「簡単に落とされたくないのなら、これからは疲れた顔なんてみせないでね。頼まれなくても、何度だって治しちゃうんだから」

「……やる気ありすぎだろ。ちょっとは大人しくしとけよ、発光癒し人」

「あ! その呼び名は使わないでよ!」

 何も知らない子どもの前で言われるのは、さすがに恥ずかしい。

 恨みを込めて拳を脇腹に当ててやったが、アルスは全然痛くなさそうだ。本気じゃなかったとはいえ、少しは痛そうにしてほしい。

「二人は仲良しなのね」

「羨ましいわ」

「私たち、お兄様が大好きなの」

「だから、お兄様が好きな人は、私たちも好き」

「「私たちとも、仲良くしてくださいね」」

 繋いだ手を離し、双子は私の左右に立って手を取り、微笑んだ。

 ケモミミ美少女で両手に花をやれる日がくるなんて、異世界転生最高だな!

「こら、リィナは友だちで、好きとかじゃないからな」

「お兄様、嘘ばっかり」

「私たち、お兄様の妹だもの。お兄様の気持ちなんて、全部お見通しよ」

 アルスは言い分を得意げな顔ですぐに否定されて、ばつが悪そうだ。小さな妹に押されている姿は、ちょっと可愛い。

 そう思っているのに気付いたのか、アルスはむっとして口を尖らす。

「おまえ、あんまり俺を惑わすなよ。仲良くするなら、俺じゃなくてリックにしてくれ」

「何でそこでリックが出てくるの……」

 前にも同じことを言われたので、今度は疑問を口に出した。

「リックと仲良くできる女なんて、この先、他に出てこないかもしれないだろ」

 お見合いおばさんかな?

 ちょっとよさそうだからくっつけようって、絶対リックの許可を取っていない話でしょ。

 私の気持ちも無視されているので文句を言ってやろうかと思ったのだが、アルスはスッと背を向けて、先に行ってしまう。

「あ、待ってよ! 歩くの早い!」

「早くしろよー」

 角で一度振り返ってから、アルスはまた先に行ってしまう。

「もー、こっちはひとりじゃないんだからね」

「お兄様、困ってしまったから逃げ出したのよ」

「いつもそうなの。私たち、追いかけてばかり」

 あなたは逃げないで、と言うように、私の手を握る力が強くなる。

 安心させようと口を開きかけたとき、落ちるような感覚が私を襲った。

 何もみえない。動けない。

 落ちているようなのに飛んでいるような、私は、これを経験したことがある。


 私、死んだの?


 前世の最期と同じ、突然の出来事。

 隣にいたあの子たちはどうなったんだろう。

 あぁ、もう意識が――。



『ボクがついているんだから、君は死なないよ』


『早くボクをみて、ボクを愛してほしい』


『ボクはずーっと、君のそばにいるよ』


 意識を失う前に、私が知らない誰かの声を聞いた気がした。




 お酒を飲んでもいないのに、頭が痛くて、クラクラする。背中に人を乗せているかのように、全身が重い。

 数回瞬きをしてから、一回深呼吸。

 地面に布を敷いただけの場所に、三人そろって転がされていたようだ。

 まだ二人は目覚めていないので、今のうちに話を聞いておきたかった。

 同じように、誘拐された女性たちに。


「私は、牛族のメリジェーヌ。こっちはネズミのレッカ」

 巨乳で、ふわっと広がる茶色の髪のお姉さんが、隣にいる小柄な女性を紹介してくれた。

 ネズミだから小柄なのは生まれつきで、私よりも年上なのかもしれない。

「そっちの双子、ギラルディン家よね。信じられない……」

「こんな子どもまで連れてくるなんて、最終的に私たちを人間に売るつもりなのかしら」

 二人とも、元々着ていたとは思えない大きなシャツ一枚しか着ていなくて、説明されなくてもどんな状況にあったのかわかってしまう。

 病棟にいた人たちのように接しやすいが、直視するにはきつくて、私は少し目を逸らす。

「んん……」

「……リィナ、さん?」

 目を覚ました双子はよくない事態に巻き込まれたとすぐに察知したのか、不安そうに私にしがみついてくる。


 そうだよね、急にこんなことになって、普通はびっくりするよね。私は、予想できていたから冷静だ。

 この世界はゲームじゃないと思い知ったくせに、長年のゲーム脳のせいで、王様から話を聞いてすぐに、私はひとつの可能性に気付いた。


 これ、私たちが事件に巻き込まれるフラグが立ったんじゃない?


 いや、思うよね。これ絶対に私たちが事件解決しなきゃいけない流れだよね、と依頼を受ける段階で思っちゃうよ。ゲーム脳だもん。

 そして現実にこうなっているのだが、対策は何もない。

 立ったフラグはそう簡単には折れないのか。ひとりで帰らなきゃ大丈夫だと思ったのに……。

 

「薬を使われているようだけど、気分が悪かったりしない?」

「……体が重い気がします」

「診察のときにもらうお薬でしょうか」

 身体能力が高い獣人もいるので、暴れる危険があるときには力が出ないようにする薬が、病院にはあるらしい。

 魔法も使えなくなる薬なのだと、レッカさんは言う。

「……リィナさん、その目」

「さっきは青かったのに、今は真っ黒だわ」

「え?」

 思わず手を顔に当てたが、鏡がないので確認はできない。

「そんなに時間が経ったのかな……」

「あら、あなたは連れてこられて、すぐに目が覚めていたわよ」

 そういえば、目覚めてすぐに感じていた異常が、今は何ともない。私の個性が、体を健康な状態にまで癒してくれて、そのせいで異物である目薬の効果は消されてしまったのかもしれない。同じように薬を飲まされていたのに、どうして私には魔法が使えるのか、という疑問は残るけれど。

 元は黒目なのだと説明して、今なら私の個性で薬の効果を消せると言ったのだが、メリジェーヌさんたちは首を横に振る。

「あなたたちも連れてこられたときに経験したと思うけれど、人を土に変えられる個性を、犯人たちの誰かが持っているわ。それを何とかしない限り、私たちは逃げられない」

「犯人のヤローをぶん殴ってやろうとしたときに手を砂にされたけど、切断されたほうがマシってくらいに気持ち悪かったね。地面に散らばった砂の一粒一粒が、自分の手だって感覚だけはあるんだ」

 死んだと思ったあの瞬間に、私たちは砂にされていたのか。

 私はもう知っているからいいが、幼い双子にはこんな経験させたくなかった。

 犯人たちが何を望んで誘拐をしているのかはわからないけれど、自由に動ける私が何とかしないと!




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