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冷たい涙

作者: 神崎真紅

庭の池も凍りついたままテレビのニュースでは連日異常気象の報道が響いていた朝。

頭痛のするうんざりした頭を抱えてふと、ケータイのディスプレイを見た。

午前7時。

今日は午後からのシフトで、こんなに早く起きる必要はなかったのだけれど、日曜日だとはた迷惑なほどにテンションの上がる夫の康に起こされた。


「さっきランドリーに行ったら五千円落ちてたんだよ」と、やたらに嬉しそうに話すけれど、京子は頭痛が貼り付いたままで気のない返事を返した。

「そう、よかったね」寝ぼけたまんまで虚ろに応えた。


「朝メシ食いに行かね?すき家に」

「いいけど」そう答えてもあまり気乗りがしなかった。起こされた時からおでこの部分に頭痛がへばりついていてとても早朝からすき家は重いな、そう感じたのだけれど。


言い出したら聞かない康に、仕方なくもう着ぐるみのまんまでいいやと、外に出た京子の目に飛び込んたものは……。

助手席に座る京子じゃない居候の女。

その時点でもうここから出ていこうと、京子は決めた。


LINEで「わたしここから出ていこうと思うの」と送信した。

慌ててその場を取り繕おうとしている康には悪いけど、私はもう決めたわ。そもそもこの同居生活自体ムリなのよ。だって何をどう考えても同じ屋根の下に若い女が同居してるのは変でしょう。


結局すき家に京子は行かなかったのにも関わらず康とその女ふたりで行った。何だろう、この気持ちは?


やるせない。


ぽろり、涙が頬を伝って手のひらに落ちた。そのままもう一度ベッドに潜り込んで声を殺してすすり泣いた。泣いたら余計に頭が痛くなって悲しいのも通り越してもう死にたくなって来た。


嗚呼、死ぬのが一番楽になれるのかな?


朝ごはんから帰って来た康は、京子に牛丼を買って来てご機嫌麗しゅうと、様子を伺っている。


京子はそんな物で私のこのやり場のない怒りの矛先が何処か別の場所に向かう筈ないじゃないの、馬鹿じゃないの、と心の中で毒付いた。


何だかもう、口を聞くのもうんざりです。だからそんなに体裁だけ取り繕っても無駄よムダ。


午前10時にセットしておいたアラームが鳴り響いた。京子は些か早いのだがここにいるより職場にいた方が健康上何かと都合がいい。


身支度をし始める京子に向かって「仕事12時からだろ?」と聞いてきたけどそんな分かり切った事すら気付かない康に、はらわた煮えくり返る思いで何も答えず頭痛が続いている頭を持て余しながら着替えて茶の間のコタツで暖まっていた。


目の前にはがん細胞宜しくあの女が座椅子にもたれかかって寝ている。

イラつく、もう存在そのものを全否定したかった。


仕事している間はなんて平和で楽しいんだろう。私は本当にここで働いていてよかった。気持ちのザラつきが消える。


それでも数時間後にはあの忌まわしき我が家へ帰らなくてはならないのか。


車に乗ったのを何処かで見ていたのかと思うようなタイミングで康から電話が掛かってきた。


「京子もう少しだから我慢してくれよ。谷口さんには義理があるからあの女の機嫌を損ねて面倒な事になりなくないんだよ」


「だったらもう少し私の気持ちも考えてくれてもいいんじゃないの?どれだけ私が嫌な思いしてるか分からない筈ないでしょ…」語尾は涙にかき消された。冷たい涙が頬を伝ってぽたり、ぽたりと零れ落ちた。まるで今の京子の心が零れ落ちているような悲しい涙だった。


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