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ぼっちから始まる異種族交流!  作者: 水汽 淋
序章 心霊の開闢
7/29

七話 覚悟

「やあ、久しぶり。どうだった? 七日間の修練は」


 リリ達と別れて八日後の夜。グリーティの愉快な仲間達で、既に席についていたケンヤが声をかけてきた。

 テーブルには皆も席についていて、その上には様々な料理がところ狭しと並べられている。

 ケンヤとイリトが並んで座り、向かいにリリとアリナがニコニコと笑いながらこちらを見ていた。

 その笑顔だけで心が満たされたような気持ちになった。

 席を開けてくれたケンヤの隣へと腰かける。

 そして七日間を思い出してはぁとため息をつく。


「死ぬかと思った……」


 本当に、死ぬかと思った。修練の内容は、テーザーを扱いこなせるようになること……ではなく、主に体術や小刀での戦いかたを学ばされた。さらには体力作りと称して山のなかを走り回されたりと、厳ついおじいさんと一緒だった七日間はとても濃く心身が疲れきっていた。

 そんな俺の表情を見てリリがクスクスと笑って頷く。


「やっぱ皆そんなもんだよね。私を担当してくれた司祭様は女の人だったんだけどすごい厳しくて。もうドーンでギューンでバンバンだった!」

「なんでそんな擬音が多いのよ。神官がそんな音出すときなんてあるの?」

「あるよー! もうボコボコにされたもの!」

「意味わかんないわ……」


 アリナが頭を抱えてはぁとため息をついた。

 それにはんとイリトが鼻で笑う。


「そんなの才能がねえからそう感じるだけだ。俺は担当してくれたチェン先生に見込みがあるって言われたからな」


 イリトが得意気にそう語る。イリトは、あまりがっしりとした体つきではなくどちらかといえば細身だ。口は悪いが、実力はあるのかもしれない。


「そうなんだ。俺は何も言われなかったな。ただ時折悲鳴と叫び声が聞こえてきたんだけど、イリト、何か知らない?」


 ケンヤが悪戯っぽく笑うとイリトが慌てて詰め寄った。


「なっ、お前それ言うなって! ケンヤの方こそ……大して何も聞こえなかったな……」


 ケンヤがにこやかに笑って誤魔化す。

 そうか。イリトくんも、頑張ったんだな……。

 どうやら皆同じような思いを乗り越えてきたらしい。

 そこで思い出したようにケンヤがこちらを向いて、手元に置いてあったジョッキを取った。それを見て他の皆も手にとる。


「ツヅリが来てくれたんだ! 今日は一杯食べよう! 明日からの活躍を願って!」


 あまり期待はしないでほしい、と言おうと思ったが皆が嬉しそうにこちらを見るものだから、笑ってジョッキを取った。

 おおー! という声と共にジョッキ同士が打ち震える音が響いた。







 天気はやや曇り。遠くに黒い雲が見える。このままだとこちらにきて雨が降るかもしれない。

 雨宿り出来そうな場所はないかと辺りを見回すが、ここらは廃墟ばかりで朽ちた建物しかない。


 ここはサンソン廃墟地帯。エンフォートレスから十五キロほどの場所にある。山から降りてきた時に入った門ではなく、そこから街を真っ直ぐ突っ切った先にある門をでて十五キロだ。俺達が通ってきたところは強固で堅牢。さらには少し見上げなければ全体を見ることができないほどの高さを有していた。

 思わずおお……と言ってしまったらリリ達にドヤ顔をされてしまった。作ったのリリ達じゃないだろ……とは思ったがしっかりと黙っておいた。空気が読めるのはいいことだ、


 ここは前は人間の町だったらしい。だが種族間の戦争が激化。人間は隅へ隅へと追いやられ、ドワーフやエルフなど近隣の種族達と協定を結ぶことで、どうにかあの砦を守っているらしい。

 人間の国はエンフォートレスではなく、また違う場所にあるらしいが、こちらからはそう簡単に行くこともできないらしい。

 いわゆればエンフォートレスは人間最後の希望と望みを託された出張砦。本当の意味での人間最後の砦なのだ。


「いたぞ。ゴブリンが二匹。俺とイリトであいつらを倒す。アリナは挟み撃ちにしてくれ。無理に戦わなくていい。足止めをするくらいの気持ちで頼む。ツヅリはリリの護衛だ。よし、行くぞ!」


 ケンヤが指差す方向に、そのゴブリンと呼ばれた生物がいた。


 そんなに遠い距離じゃない。俺達は物陰から隠れてそのゴブリンの様子をうかがっているので、まだ見つかってはいないだけだ。四十メートルくらい? なんにせよ走れば届く距離にいる。

 そしてそんな近い距離にいるために、そのゴブリンという生き物の風貌が良く見えた。


 背は低く姿形は俺達と同じで、二足歩行に二本の手が付いてある。かなり小柄だ。俺のへその部分よりすこし背が高いくらい。そしてなんと、その体表は緑色だった。耳がながく異様に尖り、髪の毛の無い頭。そして口からのぞく鋭く醜い牙にしわくちゃの顔。ぼろきれを腰にまとい手には棍棒のようなものを持っているだけの質素な装備だが、その見た目の醜悪さからいざ面と向かうとなると尻込みしてしまう気がする。というか絶対する。


 ゴブリン達は廃墟の瓦礫跡に座り込み、生意気にも談話しているようだった。

 ケンヤとイリトがゴブリン達の背後を取るように廃墟を回る。俺達はその場で待機。ケンヤとイリトが現れた瞬間に一緒に出て行くのだ。


「ツヅリくんよろしくね。ちゃんと守ってよー?」


 リリが冗談ぽく言う。


「努力するよ。俺はでなくていいの?」

「まさか。アリナちゃんの援護に回ろうか。さすがに盗賊一人で二人相手するのはしんどいよ」



 一匹は棍棒だが、もう一匹は片手剣だった。剣とはいってもかなりボロボロで切れ味は無さそうだ。

 間近でみると、やはりとても気持ち悪い。ミラルみたいなのばっかか。ここは。


 リリが肩を叩き、口元に指先を押しあて静かにという合図をする。見ればアリナもケンヤ達も陣取れたようだ。

 俺も懐に手を入れ、テーザーの準備をする。ああ、ドキドキだ。心臓がばくばくと激しく音を立てているのが分かる。修練ではミラルなどの小動物にしかテーザーを使ったことはないから、人型の生き物にこれを使うのは初めてだ。


 ゴブリン達はまだ気付いていない。ゲッゲッゲと楽しそうに笑っていた。

 そして、ケンヤ達が飛び出した。


「ギギィッ!?」


 ゴブリン達は突然の談話相手に慌てたらしくあたふたとしながらも、ケンヤ達に向かいあった。


 ゴブリン二匹の得物は棍棒と片手剣だ。剣といってもボロボロで切れ味悪そうだ。どちらも盾すら持っていない。対してケンヤは鎧に身を包み両手持ちの長剣を振りかざす。そしてイリトはケンヤよりかは身軽に動けるような鎧だ。全身を覆うような鎧じゃなくて胸や腕など大事な部分だけを守り、後は動きやすいように間接周りにゆとりがある。そして片手の長剣を突き出すように繰り出した。


 片手剣はケンヤの長剣をとっさに受け止めたが両手剣とでは力の差が違う。「うぉぉぉぉぉ!」とケンヤが叫び、力任せに剣を振り下ろした。

 肩口にばっさりと剣が入り込み、ギェアアアア!! というゴブリンの叫び声がこだまする。


 イリトと向かいあっていた棍棒持ちは突きを右に避けた後、耳長の悲鳴を聞き、棍棒でイリトの長剣を振り払い踵を返して逃げ出した。

 仲間をこうも簡単に見捨てるとはひどいやつめ。

 だが、そっちにはアリナがいる。


「アリナ!」


 ケンヤが叫ぶ。


「わ、わかってるわ! ひっ、キャアアアア!!」


 どうにか逃げてくる棍棒ゴブリンの前に立ったアリナだがどうみても腰が引けている。

 短剣を構え、突進してくる棍棒に振り下ろすがかすりもしない。

 そのままアリナが突き飛ばされゴブリンは俺達へと向かってきた。

 俺は、とっさに前に出てゴブリンの後を追いかけてしまった。いや、悪いことじゃない。アリナに怪我をさせたこと、後悔させてやる。


「待て……!」


 ゴブリンの前に飛び出る。「ちょっと、ツヅリくん……!?」というリリの声も聞こえてきたが棍棒は俺にしか注目していない。

 恐らくリリに向かうことはないだろう。というか俺がここで倒せば向かえるはずもない。


 テーザーを左手に構え、一直線に向かってくる棍棒に打ち出した。バシュッという音と共にテーザーに込められていた硬鉱石の糸が打ち出され、その先についた刃が、ゴブリンの右下腹部に突き刺さる。そしてすぐに上のボタンを押す。

 途端ゴブリンがグギッと言って、ブルッと震えながら動きがとまった。よし大丈夫だ。練習した通り。ゴブリンにもテーザーは通用する。


 腰に差していた小刀を抜きゴブリンの胸に突き刺す。ぐにっという嫌な感触とごんっという鈍い音がもろに伝わってきた。


「くそっ。くそっ! なんだこれ!?」


 未だ痙攣したままのゴブリンの胸に再び突き刺す。必死だ。思っていたよりも気持ちが悪い。ぐにっ。今度は上手くいったようでぶつかることなくさっと通った。

 テーザーを止めると、ゴブリンはぐたりとへたれてそのまま動かなくなった。立ち上がろうと脚に力を込めるも震えて立てなかった。

 情けない、なんて思うことは無かった。恐ろしさと罪悪感に包まれて立ち上がることすらもできなかった。


「ツヅリ、その武器なんだ? 狩人になったんじゃないのか?」


 俺に追い付いたケンヤが声をかけてきた。そしてケンヤが俺に手をさしのべ立ち上がらせてくれた。

 まだ足は震えているが、どうにか立つことくらいはできるようだ。


 ケンヤがいた方へと目を向ける。ケンヤと相対していたゴブリンは地面に転がっていた。とどめはさしてきたようだ。


 はぁはぁと荒い息を吐き、ケンヤを見た。そして俺は、ようやくケンヤの問いに答えた。


「いや……狩人じゃなくて、違うところに。そこで……もらったんだ」


 言葉が切れ切れになった。思っていたよりもゴブリンを殺したというショックが大きかったのかもしれない。

 俺は、それがなんだか恥ずかしくなって、ケンヤに特に気にすることはないよ、みたいに笑った。別に初めてゴブリンを殺しても俺はなんにも思ってないし? みたいな。


 いや、嘘だ。何とも思ってないわけがない。今心には罪悪感があふれでて止まらない。普通に笑いながら話してたゴブリンを俺は殺した。何も悪いことなんてしていないのに。

 その時がっと引き寄せられて抱きしめられた。


「ツヅリ。悪いことじゃない。どうしても気にしてしまうことは分かる。俺もそうだった。でも生きるためには必要なんだ。あまり気にしすぎるな」


 ケンヤが言った。そんな簡単に割りきれることではないとわかっていても、ケンヤの言葉に納得したいと思う自分がいる。

 ゴブリンという生き物を殺すことの正統性を見つけるために。

 そして離されるとリリに頭を撫でられた。


「よく頑張りました! ありがとね」

「ごめんねツヅリくん。私先輩なのに……」


 撫でられたことにドキドキしていると、アリナが落ち込んだ様子でそういった。

 

「いや、しょうがないよ。俺だってほら。恥ずかしいけど腰抜けてたし」


 そう言ってアリナに笑いかける。大丈夫、ではないけど心は楽になった。皆のおかげだ。


「ありがとう……励ましてくれて。結構楽になった」


 そういうとイリトが横から話しかけてきた。


「それにしてもなんだ。あれ。その剣もなんだよ。めちゃくちゃいいやつじゃねえか。どこで手にいれた?」


 イリトが無遠慮に聞いてくる。その目には疑問と疑いがありありと浮かんでいた。その武器はどこで手にいれた? まさか、盗んだんじゃ? とでも書いてそうな目だ。


 そんな疑いをかけられたくはない。別に隠すことはないのだが、珍しい物を一人もっているというだけで反感をかってしまう気がする。なぜだかそんな気がしていた。


「これはアルドっていう人からもらったんだ。狩人ギルドのところじゃなくて俺はその人から色々と教えてもらって。これはテーザーって言うんだけどアルドに使い方を教えてもらったんだ」


 アルドと言った瞬間にイリトがびくりと震えた。ケンヤも目を見開いてこちらを凝視しているし、アリナも口に手を当てていた。リリは一人だけ小首を傾げていた。


「アルドって……あのアルド?」


 ケンヤが恐る恐るという風に俺に尋ねる。


「そうだよ」


 イリトががっと俺に近付いて肩を揺さぶってきた。頭が揺れるからやめろ。


「な、なんでお前がそれ持ってんだよ! アルドの剣って俺達みたいな初心者が最初に持てるドワーフの剣だろ! アルドの剣を買えてエンフォートレスでは中級者ってくらいだ。それを何でお前が!」

「い、いや。俺が最初に会ったのがアルドで。というかなんでアルドの剣を持てたら中級者なんだ?」


 アリナがじっと俺を見つめながら答えた。


「ドワーフが作った剣っていうのはすごい高いの。他のところが作るのに比べて圧倒的に質がいいから。それをアルドさんは他のドワーフと比べて圧倒的に安く売ってくれるんだけどそれでも初心者が買うにはちょっと高くて。だから普通私達が最初に目指すのはアルドさんが作った武器を買うこと。ドワーフが作った武器は一番質がいいから一流の遊撃兵は皆ドワーフの武器を持ってるの」


 そうなのか。やはりこれはいい武器なのか。ゴブリンに刃があっさりと貫通するくらいだからそうなのだろうが。

 それを聞いたケンヤがはぁとため息をついて言った。


「ツヅリは運がいいね。俺達は草原ぽいところで拾われたよ。行商人にエンフォートレスまで連れていってもらったんだ。その行商人とは特に会話もなくて送ってもらってそれきりなんだけど」

「あのときは誰かと会話する余裕なんてなかったもんね。皆他の人の顔をうかがうようにしてるばっかだったし」


 リリがくすりと笑う。


「俺達って……皆同じ場所で現れたのか?」

「うん。そうだよ。ツヅリくんは一人だったの?」

「一人だったな。森の中で目覚めて襲われて……」


 ミラルに襲われたことを思い出すとゾッとした。七日間の修練でミラルを何度か殺したがそれでもやはり慣れることはない。


「そうなんだね。普通は多人数で現れるらしいんだけど。そう考えると不安だったろうね」


 ケンヤが同情のような優しい視線をかけてくる。いいやつだ。


「確かに不安だったけどそんなの考える暇も無かったからな」

「私一人だったら多分泣いてたな。リリがいたからどうにかなったんだけど! きゃー! リリ可愛い!」


 アリナがぎゅっとリリを抱きしめ頬擦りをする。リリはやめてよぉと言いながらもされるがままだ。

 目のやり場に少し困る。ケンヤとイリトは普通にその様子を見てて、こんなのは茶飯事なのだと重い知らされた。慣れ、恐るべし。


「でもな、武器に頼ってばっかだといざというときになんも出来ねえぞ」


 イリトが吐き捨てるように言った。


「だな。気を付ける」


 確かにそうだ。テーザーは便利だがもしもテーザーの痙攣が効かない相手だったら俺はどうすればいいのだろうか。この小刀も安心はあるが、充分じゃない。

 俺の答えに面食らったような顔をして、イリトは慌ててあるきだした。


「お、おい! 早く次のやつらを見つけに行こうぜ。まだ二匹倒しただけなんだからよ」


 歩きだすイリトにケンヤがちょっと待ってと声をかけた。


「すこし休憩しよう。ツヅリも疲れただろ。体験みたいな形で今日はやる予定だったんだから。思っていたよりもツヅリがすごくて俺はびっくりしたよ」


 ケンヤが笑う。それにリリとアリナがうんうんと頷く。


「だね。ツヅリ君のその相手の動きを止める武器って何にでも使えるから。いいなぁ。私もそんな武器欲しいや」

「うん。私も早く罠とかを覚えてみんなの役にたてるよう頑張ります!」


 アリナが拳を握って元気よく宣言する。それにイリトがはぁとため息をついて頭を横にふる。

 ふとケンヤに目を向けると俺が倒したゴブリンが身につけていた袋を剥ぎ取り中身を確認し、何個か取り出してまた戻していた。


「何を取ったんだ?」


 ケンヤが顔を上げ俺の顔を見つめて笑った。


「ああ、これはね。戦利品だよ。ゴブリンはあんなでもキラキラしたものとか珍しそうなものを拾うと自分の袋に入れて集める癖がある。中には銀貨が入ってたりするときもあるんだ。俺達はそれを売って生きていく」

「でもそれってなんだか……」


 ケンヤは苦笑した。


「いいたいことはわかるけど、生きていくためだからね。綺麗事だけで俺達は生きていけないんだよ。っていうのは俺の師匠の受け売りなんだけどね」


 照れ臭そうに頭をかきながらケンヤは笑った。恥ずかしがらなくてもいいのに、と思う。

 受け売りでも自分で選んだ言葉なんだからそれは自分の言葉だ。


「そうだよね! 私もゴブリンがこう無惨に殺されるのを見てるとなんだか可哀想な気持ちになるもん。痛そうだなあって。あ、ツヅリくん怪我とかしてないよね? アリナはもう治してきたんだ」


 リリが手にもっている杖を地面にこんこんと叩きつけた。

 別に怪我はしていない。テーザーのおかげで相手の動きは止めれたから。でも聖職者が使うという光の奇跡には興味がある。


「大丈夫だよ。光の奇跡ってやつを一回受けてみたいけどね」

「私はまだその域にまで達してなくて……。せいぜいが切り傷を治すくらいなの。致命傷はどうにかすぐに死なないくらいにまでしか回復もできなくて。ご、ごめんね?」


 なぜかリリが上目遣いで謝ってきた。そんなことをされてもどうしようもない。

 許すしかなくなるじゃないか。


「謝ることじゃないよ。リリがいないなら多分このパーティーが安心して動けないんだと思う。しっかりと回復させることができるリリがいるからケンヤもイリトも身をなげうって戦うことができるんだ」

「ツヅリくん……」


 完璧な答えだ。これ以上の答えを俺は知らない。この後にべ、別にリリのためなんかじゃないんだからね! と言い出しても許される雰囲気がある。そんなことはしないけれど。


 アリナがまたもや後ろからリリに抱きつく。


「そうだよ! リリがいるから安心できるんだ。だからもっと頑張ります。驚かないように……」


 尻すぼみに元気が無くなっていくアリナに苦笑しながら、リリはアリナの頭を撫でた。


「しょうがないよ。怖いのは皆同じなんだから。だから頑張ろー!」

「目つむってんだよお前は。どうせ死なないんだからがっといけばどうにかなるんだよ。気にしすぎ」


 イリトがいつの間にか近くにまで来ていて会話に参加した。

 それにアリナはむっとした顔をつくるも、落ち込んだ様子で顔をうつむけた。


「だって怖いし……。今のだってあんなに必死な顔で襲いかかられたら腰引いちゃうでしょ? 普通」

「死にたくないからな。ゴブリンだってよ」

「わかってるけど……はぁ。よし! 次は頑張る!」


 アリナがパンと頬を叩いて拳を握りしめた。


「アリナのいいとこはそこだよね! すぐに気持ちを切り替えれるとこ!」


 リリがキラキラとした目でアリナを見つめ、アリナが嬉しそうに顔をにやけさせる。


「反省の気持ちも切り替えられたらたまったもんじゃないけどな」


 イリトが何でも無いような顔で言う。


「反省の気持ちはちゃんと残してますぅ! 落ち込む気持ちを切り替えてるんですぅ!」


 はいはいと適当に流すイリトにアリナがうきー! と言って顔を赤くさせた。

 どうやらイリトはうきー! と言ったことについては無視する方向性らしい。今時うきー! だなんて口にする人間の希少性をもっと考えてあげるべきだ。


「じゃあそろそろ行こう。次もツヅリの活躍を期待してるから」

「期待に沿えるように頑張るよ」


 ケンヤがそう言って俺は頷いた。頑張りたい。この気のいい仲間と一緒に。

 ケンヤはいいやつだし、イリトは少し口が悪いけど。アリナも活発で雰囲気が良くなることも多い。リリは、最初に助けてくれた。彼女がいなかったらこの仲間達に出会えなかった。

 曇っていた空からは青空が見えた。雲がぐんぐんと風に流されていってその向かいでは雲のない空がこちらに向かってきている。

 気づけば皆は歩きだしていて、一人遅れた俺を振り返って見つめている。


 ぱんと頬を叩いて手を振った。帰ったら今日もまたグリーティの愉快な仲間達で宴会でもするのだろう。

 俺は調子に乗らないようにと思い直してケンヤ達の後を追っていった。

 

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