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ぼっちから始まる異種族交流!  作者: 水汽 淋
序章 心霊の開闢
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三話 昔語り

 まどろみのなか、歩みを止めずに、あるはずの一筋の光明をさがしだす。でも、泥々としててなんだか暗いから、光明が見えない。

 どこにあるんだよ、そんなことをぼやいてもやっぱり見えない。でも諦めるわけにはいかないから、探し続けて、何かに当たった。そこをかりかりと削ると、ぽろりと光がこぼれる。

 ああ、今日も見つけた。どうにか見つかった。これでまた今日という一日を過ごすことができる。

 その光の中へ入って――。






 閉じた瞼から朝の光が射し込んでくる。目をつむっているのに主張激しく飛び込んでくるそいつは、人の安眠を妨げる物であって他ならない。


「でも目覚めは良くなるんだよな。寝起きなのに眠くないというか……」


 窓に目をむけると、晴天が広がっていた。今日はとてもいい天気だ。そんなことをしみじみ思いながら、今日は何をしようかと考えていると、外から何か、カーンカーンと叩く音が聞こえてきた。


 泥がついたやや大きめの靴をはき、音がする方へと向かう。川へとでると、段々と音が近づいてきた。どうやら川下の方から音がするようだ。

 さらに歩いていくと小屋よりは小さいが、より頑丈そうな倉庫みたいなところへとたどり着いた。

 扉は半開きで窓は全開だ。その半開きの扉から中へと潜り込む。途端にむわっとした熱気が襲ってくる。


 そのまま進むと、工房のような場所に出た。アルドが真剣な表情で何かを打っている。真っ赤な棒に、金槌のような物を振り上げ、打ち付けて。

 どうやら俺には気付いていないらしい。かといって、アルドに声をかけるのもはばかられる。足を踏み出すこともできないまま俺はその場に立ち尽くし、アルドの情熱的なその作業にただ魅いるだけとなってしまった。初めてだ。全てが新鮮だ。


 カーンカーンと響く音の他には何も聞こえない。そこには俺もいるはずなのに、アルドとその打ち付けている物だけしかいないようだった。


「何してる」


 はっと我に返りアルドを見返す。いつの間にか作業をやめ、てぬぐいで額の汗を拭きながらこちらを見ていた。


「それ、何作ってるんですか」


 一番気になっていたことを尋ねる。わくわく感が俺を支配していた。珍しそうな物なら、それは出るだろう。わくわく感。


「駄作だ。大した出来じゃなかった。まあ、これでも街のやつらは喜んで買っていくんだがな」


 はっと鼻で笑い出来上がったばかりの両刃の剣を横の台座に置く。


「僕はしっかりとした物だと思いますけど」


 本心だ。他の剣は見たことは無いが、その剣は美しく感じる。


「素人が何言ってる。魂がこもってねえよ。これはな。ここにあるどれもがそうだ。どいつもこいつも魂が入ってない」


 アルドが壁に掛けてある無数の剣を見つめながら言う。短剣に刀身が歪んだ剣。さらにはアルドと同じくらいの大きさの大剣もあった。剣だけではなく、槍も置かれてある。

 魂が入ってない? どういう意味なのだろうか。気になる。


「どうしてです?」

「ああん?」

「どうして魂がこもってないもの作ってたんですか?」

「ああ?」


 アルドが立ち上がる。その口調には苛立ちが混ざっていた。今にも人を殺しそうな視線で俺をいぬきながら、チッと舌打ちをする。

 俺にはその動作の意味が理解できない。だからわかろうとする。次に出てくる言葉を考えて、その表情には一体どんな理由があるのか。


「当たり前だろうが。俺はこんな死ぬための武器を作りたくはないんだよ」

「死ぬためって、なんでですか?」


 街のやつらは買っていく、と言っていたことから考えるに、恐らく街が近くにあってアルドはその街でこの剣を売っているのだろう。

 では、なぜ? 死ぬため、とは?


「うるせえな。関係ないだろお前には」

「ありますね。俺もアルドさんと同じ場所にすんでるんですから。なら俺とアルドさんの間に秘密はなしです」


 そうだ。理由は気になるから。単純にそれだけだが、秘密は無しだとも思っている。だって俺は全て打ち明けたのだし。


「なんだその理屈は……。はぁ。そういや放浪者だったか。道理で変なやつなわけだ」

「関係ないでしょう。ほら、教えてくださいよアルドさん」


 アルドはふぅ、とため息をついた。


「何でだよ……ったく。お前ドワーフって種族知ってるか?」

「知らないです!」


 俺は元気よく答える。話してくれそうだ。そのままアルドは話を進めていく。


「だろうな。現れたばかりの放浪者は、なぜか常識がねえ。その上何も知らないやつらばかりだ。ドワーフって言う種族はな、簡単に言うと戦闘狂いだ。こいつらは年がら年中武器作って色んな国へと輸出してるわけだが、なんでそんなことをしてると思う?」


 常識もなくて何も知らないので、そんなこと聞かれてもわからない。だが、答えを求めてるわけではないのだろう。なら何か適当にでも答えておこう。


「金儲けのため、とか?」

「もちろんそれもある。俺らの国はそれで生きていってるんだからな。じゃあ何の武器を作ってるか知ってるか? 剣や槍とか直接やりあう武器ばっかりだ。あいつらドワーフは、そうやって自分で作った剣やら槍やらを持って戦争へと出向く。でも、まあ鍛冶技術は俺らの種族が一番だから他の種族からの露骨な敵対関係は取られていない。だから小競り合いとか嵐が起きた時は自分達で作った武器をもってその場へと向かう。そして、死ぬ」


 淡々とアルドは語る。苦しみをしぼりだすように悲痛な思い出を思い起こすように。

 語っているときの表情や、喋り方からこれは苦しみや恨みがこもったものだと思った。ああ、俺は知っている。この感情を。


「男どもはみんなそうだった。俺もそうだった。そこまではいい。男は勇猛でなければならん。でもな、女子供までがそうだったんだ。じゃあどうなるかわかるか? あいつらは女子供が横で殺されていようが自分達の闘いの快楽のために見殺しにして、女子供はそれでも闘いのために死ねたと笑顔で死んでいく。追いかけなくてもいい奴を追いかけて罠にはまり殺され、傷をおっているのにそれでも尚戦い続けて死んでいく。バカばっかりだ」


 横の台座から剣を取り出し振り下ろす。びゅんと風がなり、アルドは首を振った。そしてまた台座に剣を戻し先ほどまで座っていた椅子へと腰かける。

 確かに、それはバカだと思う。あほらしいと思った。ミラルに襲われて、俺は本心から生きたいと願った。

 願いは通じたのかわからないが、アルドが現れ、助けてくれた。


「そうして俺は妻を殺した。前へ前へと進んでいく妻を止めることが出来なかった。俺も一緒に楽しんで殺してたからな。終わった後に気付けば妻のぐちゃぐちゃな遺骸だけが残ってた。その時に初めて気付いた。俺はどれだけ阿保なのか、とな」

「それでも、作ってるじゃないですか」


 俺は確認するように聞く。本当に生きるためだけに、過去の苦しみを背負い続けながら作っているのか。

 まさか、生きていくために作っているのだ。自分には、それしかないから。


「だから甚だ不本意だと言ったんだ。生きるために作ってる。矛盾してるが、俺はそれしかできることがない奴だった。だから今もこうして無様に作り続けている」


 アルドは膝に手を置き、うなだれてからふぅーと息を吐いた。


「こっからはお前の問いとは関係の無い話なんだが、まあいいだろ。聞いてろ。それで、そのあと俺は武器を作った。できれば女子供に戦いはさせたくねえ。でもドワーフとしての性からは逃げられない。なら、少しでも危険を減らそうと俺は遠くからでも相手を攻撃できる武器を作った。深追いをせずとも倒せる武器をな。じゃあ今度は俺からの質問だ。俺はこの遠くから比較的安全に戦える武器を作って、女子供に渡した。これでお前達は安全だ。少なくとも剣をもって殺しあうときよりかはな。そう言って。じゃあこいつらはなんて言ったと思う?」

「……ありがとう?」


 それは、そうだ。命の危険がないなんて、一番いいことだ。俺ならば喜んでその武器を受けとるだろう。

 しかし、アルドは悲しそうな顔を浮かべた。


「だよな。俺もそう言われると思ったよ。でも違った。このバカなやつらはこう言ったんだ。『正面で相手と切り結ぶことができない臆病者の武器など使いたくはない』ってな」

「それは、おかしいだろ」


 つい口に出た。だって、おかしいだろ。少しでも生き延びるための手段を自ら棒にふって。

 ミラルとの戦いを思いだす。あれに楽しみなんて見いだせるものか。正面から戦わずにすむのなら、怪我をしなくてすむのならそれにこしたことはない。

 それなのに、なんでそんなことを。


 アルドは俺の呟きに満足したかのようににぃっと笑うと、調子よく話を続けた。


「ああ! おかしいだろ。笑えてくる。だから俺は自分の国をでて、放浪した。果てにはここに辿り着いたわけだ。まあそんなわけで老人の昔語りは終わりだ。これでいいか? お前が聞きたがってたこと全部は話してやったぞ」


 心の中にもやがかかったような気がした。なんだか苦しい。

 アルドは椅子から立ち上がり、首をこきこきといわせると、横の台座に手を伸ばし、剣を束ねる作業に移った。台座から剣を取り出し見聞して、いくつかの剣を抜き出し、  壁に掛かっている剣からも何本かを取り出す。

 それを十本ほどにまとめて縄で縛り、同じ物を二つ作ると俺を見た。

 

「街におりる。お前はそれもってついてこい。放浪者、事務所に連れていってやる」


 有無を言わせぬ雰囲気をまといながらアルドは俺にそう命令した。

 アルドに言いたいことはたくさんあった。それでもアルドのむなしい背中を眺めてしまうと、言葉が喉につっかえて出てこない。


「……わかった」


 出てきた言葉は、この一言だけだった。

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