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ぼっちから始まる異種族交流!  作者: 水汽 淋
序章 心霊の開闢
1/29

一話 襲われるのは唐突に

 「ぐぅっ! はぁ、はぁくそっ……! まだ、ついて来るのかよ……!」

 

 巨大で苔むした樹木達をよそに、ひたすらに走り抜ける。

 裸足で柔らかい土を踏みしめながら、草木に絡まぬよう足元を見て、前を向いてを繰り返しながら駆け抜ける。

 この森の神秘的で見とれてしまうような空間は、落ち着いてみれば相当に綺麗なのだろうが、生憎と今はそんな余裕は無い。


 一体なにが俺をそこまで駆り立てるのか――。


「ギュエッギィッ!」


 気持ち悪い叫び声をあげながら追ってくるこの白い生き物から逃げるためだ。


「くっそ! しつこいな!」


 悪態をつきながらも走り続ける。一瞬後ろに目を向けて、姿を確認。一匹だけだ。そいつは大きさ的に言うと小動物。体、というか体毛は白く、ピンとたった長い耳はなんとも愛嬌を誘う。前よりも長い後ろ脚を駆使しながら、ピョンピョンと跳ねる姿は可愛らしいのだが……。


「なんで目と口あんなに醜悪なんだ! あれのせいでその他の可愛いさがマイナスだ!」


 目はくりぬかれたかのように空洞で、口からは不揃いで鋭く尖った牙が覗き、二枚に別れた舌が激しく自己主張をしていた。その醜悪な顔面にひっ、と声が漏れる。

 しかも涎を垂らしながら追ってくるので、叫びたくなる衝動をこらえ必死に逃げ惑っているというわけだ。


 とりあえずの目標はこの白い生き物から逃げきること。だが、できそうもない。先に体力がつきるのはこちらだろう。そして、追い付かれたら噛みちぎられそうな自信がある。嫌な自信だな、と自分で嘲笑する。

 だがいきなり噛みぎられるよりは、立ち向かって生き残る選択にかけたい。だって死ぬのは怖い。何も出来ないままに食い殺されるのも。

 とにかく迎撃をする。だが武器になるようなものは何も持っていない。ならば――。


「おらぁっ!」


 と、手頃な枝をようやく見つけ、それを拾い、振り向き様に薙ぎ払う。その一連の行動の合否をを頭の中で問う。もし当たらなかったらどうしよう。避けられて、体に食いつかれたら一巻の終わりだ。

 幸い当たることは無くとも牽制にはなったようだ。白い生き物が後ろに飛んで俺から距離をとった。心の中でほっと胸を撫で下ろす。

 しかし、この白い生き物――呼びにくいからシロにしよう――は、


「ギェギィア!」


 という鳴き声をあげると、後ろ脚で地面を思い切り蹴りつけて上に跳んだ。と、直後片足を折り曲げ、もう片方の足をピンと伸ばした蹴りを、その場から俺に向かって放ってきた。どこかで見たことのあるような、そんな蹴りだ。


「うわっ!?」


 体をひねって避けようとするも、肩に鋭い痛みが走る。思わず地面に倒れこみ、シロは宙返りをしながら地面に立った。

 肩の痛みに、発狂しそうになるほどの不安感が俺を襲った。シロは俺の様子をみている。

 大丈夫だと無理にでも思っていないと、本当に体が動かなくなる。俺はシロを見据え深く深呼吸した。


「はぁ……はぁ、ふぅ……」

「ギィ!」


 痛みを我慢して立ち上がる。いまだ追撃はせずにしてくれているようだ。


 肩がズキズキと痛む。折れてはいなさそうだが、無理に動かそうとすると痛みが襲ってくる。

 幸いなことに利き腕がそうなったわけではない。まだ棒はふるえる。大丈夫だ。


 シロと相対し、棒を握り直す。じりじりと近付いていって、振り下ろす。それを避けて、左に回られた。慌てて左に薙ぎ払うと、さらに左に避け後ろに飛んでまた俺から距離をとる。

 まるで挑発されてるみたいだ。


「くっそ!」


 棒を投げつけ、シロがまた左に――そしてそこには地面を滑りながら蹴りだした俺の右足があった。慌てたようにシロはまた上に跳び、再び俺にあの蹴りを仕掛けてきた。そこを。


「グギィッ!」

「よっしゃ当たった! まぐれだけどよし!」


 滑り込んだ先にあった投げた棒を拾って、蹴りを繰り出すシロに向かって振り払う。シロはそれにもろに当たった。

 ブギッと鈍い音を立て、シロが地面に転がる。そして立ち上がるまで待つ……という余裕は俺にはない。

 今の内に息の根を止めなければ。鼓動がはやまり、シロに飛びかかる。そうして棒をシロに打ち付けるが、もう一度、と振り上げた隙に悲痛な悲鳴をあげ、横に転がって避けられた。逃がしちゃだめだ。慌ててシロの上に覆い被さるようにとんで耳を掴むと、「ギイェアッ! ギェェア!!」といいながら俺の手を噛みちぎりそうな勢いで暴れだした。だが、それでも離さない。離して、たまるものか。


 棒をめちゃくちゃに打ち付ける。胴体を殴っても動きは止まらない。俺から逃れようと、さらに動きが激しくなる。俺もそれに合わせるように激しくなった。

 胴体だけでは止まりそうもないので、棒を逆手にもった。そして頭を狙い、突き刺すように、無茶苦茶に、刺す。刺す。刺す。


 しばらく無我夢中で棒を振るっていた。気付けばシロの動きは止まっていて、荒い息を吐きながらゆっくりと手を離した。

 耳は真ん中で折れ、俺の手には自分の指のあとがまざまざと残っている。シロの顔には棒がめりこんだ跡があって、見れたものじゃなかった。


「うっ。ぐえ、うぉえ……」


 胃液だけが吐き出され、中に何も入っていなかったことを確認する。見ていたらまた吐き出しそうになったので、シロを掴んで立ち上がる。口の中に残る気持ち悪い感触を吐き出しながら、近くの木に寄りかかった。


 震える体を抱きしめ長い息をついた。殺した。感触はあまり覚えていないが、それでもこの手に握りしめているこいつは俺が殺した。

 正当防衛だ。俺だって殺されかけた。死ぬと思ったから本気で抵抗した。だから、申し訳ないとは思えど後悔はするまい。逆に、お前は今から俺の栄養になるんだ。感謝しろ、とそんな気持ちでいたほうがましなのかもしれない。


 はぁはぁはぁ、ふぅ……とため息をついたあとパンと頬を叩く。よし、大丈夫だ。遊びで殺したわけじゃない。生きるために殺したんだ。罪悪感は無い。

 やけにぐったりとした心持ちで顔をあげ、再度この不思議な空間に目を向ける。


「で、どこなんだここは……」


 周りを見渡すと、若々しい緑の葉がついている植物に囲まれていることに気がつく。天を見上げると、樹の葉っぱが折り重なって天井となり、緑色の光となって地面を薄く照らしていた。

 しかし、この光景に見覚えはない。この神秘的な空間を見たことがあるのなら、決して忘れることはないだろう。


 というよりももっと大事なことがある。この場所に対する記憶はないが自分に対する記憶も無い、ということだ。

 目覚めたらこの場所にいて、シロを見つけて捕まえようとしたら、目があって悲鳴をあげてしまった。あの顔を見たら誰でもそうなる。するといきなり襲いかかってきたのだ。

 それで今までずっと逃げ惑っていた。なぜここにいるのか、考えている暇なんて正直なかった。というかあの空洞の目を見たショックで忘れていた。


「訳分からなさすぎて吐きそう。というか不安で死にそう。ああもうどうすればいいんだよ本当に……」


 両膝に顔をうずめながらはぁと嘆息する。右手は、シロが冷たくなってきているのを伝えていた。どうしてもこの生き物を手放すことも、見る事も叶わない。


 しばらくの間そうしていると、手がペロペロと舐められている気がした。チロッと舐められた。

 以前顔は膝にうずめたままだったので少し顔をあげて、

 

「うっ……!」


 すんでのところで叫び出すのはこらえる。そこにはついさきほどまで、俺を追いかけていたシロが、手をペロペロと舐めていたのだ。

 まさか生き返ったのか? と思うもまだ右手には冷たい感触が残っている。横目でちらりと見てみるがやはり死んだままだ。


 ということは、こいつは、シロの仲間なのだろうか?

 もっとじっくりと観察するために顔をあげ、即座に後悔する。ペロペロと俺の手を舐めているシロの後ろに何匹ものシロがいた。そこから横に視線を移動させるとさらにたくさんのシロが……。

 このシロの群れは俺を取り囲むように並んでいた。そしてその目は全てくりぬかれたかのように空洞だ。

 全てのシロの目が空洞のように見えるということは、そういう目をした生き物なのかもしれない。なにそれ怖い。


 だが、そんなことは関係ない。ただただ今俺を支配しているのは、絶望と諦めだった。なんでこうなった。なんでこうなるんだ。もう、ダメじゃないか。

 そんなことを考えていると、手をペロペロと舐めていたシロと目があった。悲鳴を、外に漏れないように必死で飲み込んだ。

 キョトンとした顔で小首をかしげるシロ。それにひきつった笑顔で返す。と、


「ギョエギュイギョリィィィィィィィ!!」

「ギョエギュイギョリィィィィィィィ!!」

「ギョエギョエギュイギョリィィィィィィィ!!」


 発狂したかのように叫びだすシロ達。発狂したいのはこっちだ。

 まだ叫んでいるだけだからいいが、いつ襲いかかってくるかわからない。というかなぜ叫んでるんだ。愛想笑いで返したからか。そういうの敏感なのか。


 叫び声によって弾かれるように立ち上がる。襲われる前に逃げ出したい。この群れに襲われたら絶対に死ぬ。できるだけシロ達に目線を合わせないよう意識しながらそろりそろりと足を踏み出した。と、同時に叫び声が止んだ。心臓がとまった気がした。シロ達は一斉にこちらを向き、直後飛びかかってきた。


「ぐっああああああああ!?」


 腕を噛まれながら振り回される。足がえぐられる。腹が噛まれる。肉が、裂けるのを感じる。痛い。痛いなんてもんじゃない。死ぬ。これ、死んだ。

 壮絶な痛みに、苦しみに気が遠くなる。シロの叫び声と俺の叫び声が重なりあってもはやどっちがどっちかわからない。

 その時何かが当たった。とても匂いのきついそれに獣達が一瞬離れる。


「おい。その手に持ってるのを捨てろ!」


 手に……? 手を放す。シロの死骸をまだ握ったままだ。そして空いた右手を強く引っ張られる。ずぼっ、と獣達の塊から解放されると抱きかかえられ、その人物が走り出した。涙が出ていた。血が目にしみて見えなくなってしまったので、誰が助けてくれたのかはわからない。でも、きっと、多分、俺はあのシロ達の群れから逃れおおせることができたのだ。

 歓喜の悲鳴をあげようとしたが、声がでない。その代わり嗚咽と涙が流れ出て、きっと口は笑っていた。


 俺を気遣いながら走るその様子に深い安心感を覚えた。その姿を確認することは出来ないけれど、この人はいい人に違いない。

 全身を預け意識は深い闇の中へと落ちていった。

作中で主人公の外見描写はほとんどありません。主人公視点で進むので自分の外見とか性格をわざわざ言わないと思うので。

なのでここでやろうかと。

身長は170中盤体重は65前後。見た目はかっこいいか不細工かで問われるとまあかっこいいよね、ってくらい。

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