第一章はじまり
見渡すかぎり木々が生い茂り、人の気配が皆無な森の中、一人の男がさまよっていた。
(うむ、どうしたら街に行けるのだろうか。悩むな、間違った方向に進めば遭難は確実だな。というか、すでに遭難しているような状況だけど………はぁ、考えるだけ時間の無駄か…………本当にどうすればいいのだろうか………というか俺、診断だよな………異世界転生ってやつか…………というか俺、女になってるんだけど…………だって胸が明らかに膨らんでいるし)
<解、東に5㎞ほど進むと街があります>
(誰だ、オレの頭に直接、声をかけてくるのは?)
<解、私はユニークスキル「大賢者」です>
(マジで便利なスキルだなぁ。まぁ、信じて東に向かうとしよう。大賢者の言葉を信じるならば5㎞ほど進めば街があるはずだ…………しかし、街に入るのに金が必要だろうか。必要ならばどうすればいいのだろうか?)
<解、この世界では街に入るためには入場税が必要になります。また、金銭を獲得するためには魔物や魔獣を狩ることをお勧めいたします。>
「魔物や魔獣狩りかぁ………」
(今まで日本に産まれて、日本に生きて、動物の一匹も殺したことのない俺が、この異世界で魔物や魔獣の命を奪うことができるだろうか。この手で、生き物を殺めることが本当にできるだろうか。おそらく、この異世界は元の世界から比べると、文化などが遅れているだろう。そうなれば、手に職も持っていない俺は生きることができない。何の取柄もない俺には魔物や魔獣を狩って何とか生活基盤を築いていくしかない。やるしかない、殺るしかない。)
「大賢者、このあたりに手ごろに狩れそうな魔物か魔獣はいるか?」
<解、直進方向に200m進むと魔獣名“フォレストウルフ”がいます。>
(う~ん、いきなり狼か。魔獣となると通常の狼よりも強いんだろうな)
<告、前方から“フォレストウルフ”がきます。>
目を凝らすと前方から緑色の普通の狼よりも大きな巨体を持った狼が現れる。
「グルルルルルゥ」
(まずい、非常にまずい。どうすればいいんだろうか。戦えるんだろうか、本当に自分に戦えるんだろうか。)
<告、エクストラスキル蒼炎を使用することをお勧めします。>
(やるしかない…………やるしかないんだ…………でも、できるんだろうか? 本当に自分にできるのだろうか)
「くそっ、蒼炎」
蒼炎の名を呼ぶと、手に蒼い炎が灯る。
「グルルルルルゥルゥ」
フォレストウルフは牙を剥き出しにしながら、じわじわと距離を詰める。
あと少しで飛びかかれる距離まであと少しだ。
「蒼炎を、この狼を焼け」
蒼い炎が宿った右手を振り払うように、フォレストウルフに炎を投げつける。
「グルゥアアアアアアアアアアア」
森中にフォレストウルフの断末魔の苦しみの声が響き渡る。
<告、フォレストウルフの生命活動が停止しました。魔石を採集することをお勧めします>
「んっ? 魔石ってなんだ?」
<解、魔物や魔石のコアとなっている石が魔石です>
(それじゃ魔石を持っていくか。なんか売れそうな感じがするしな。それにしても、この蒼炎は威力が高いな…………フォレストウルフが灰になったしな。毛皮なんかを手に入れるにも灰になっては意味がないしな)
(それにしても女性になってしまったんだし、名前はどうしようか。男の名前じゃまずいしな。う~ん、どうしようかなぁ………システィ…………カルミラ………ネメシア……名前はネメシアにしよう。苗字はアルストロメリアかな。ネメシア・アルストロメリア…………うん、いいな。これで行こう。)
<告、固体名をネメシア・アルストロメリアとして登録しました>
(もう少し、フォレストウルフを狩っていこう)
「大賢者、フォレストウルフの場所を教えてくれるか」
<解、フォレストウルフは右に300ⅿ先にいます>
(よし、この調子で狩っていこう)