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優しさの証 中編

sideファンプ

stageトリスタの屋敷


「ほら、作ったぞ」

「え、もう出来たの?」


お昼ご飯を食べた後、私はトリスタに「ちょっとこっち来い」と言われて来たらトリスタから、その銀色の編み棒を手渡された。

思った以上に軽い。

これほど軽いとまた折れるんじゃないかと不安になる。

そんな風に思っているのが顔に出ていたのかトリスタは笑い飛ばした。


「心配しなくても、簡単には折れない。なんたってミスリル銀で作られた編み棒だからな!」

「ええっ!?」


ミスリル銀って伝説の魔法金属じゃないですか!

なんだってそんな高価なものを編み棒にしちゃったんですか!?

驚いた私は開いた口が閉じなかった。


「まあ、そこら辺はあまり気にすんなよ」

「は、はい」


でも、ちょっと緊張するなぁ…。


「…なんだよ。もしかしてまた壊す気なのかー?」

「そ、そんな訳ないですよ!」

「うんうん、そうだろ? なら、ありがたく大切に使ってろ」

「はい」

「んじゃ、俺は行くよ」

「私の編み棒、作ってくれてありがとう!」

「はは! ユアウェルカム!」


私は早速部屋に戻り、マフラーを編むことにした。


「…………」

あみあみ…


さっき手渡されていたときには気付かなかったけど、この編み棒かなり手に馴染む。

これがトリスタの言う「おーだーめいど」とか言う奴なのだろうか。


「…………」

あみあみ…


何だか少し心が落ち着いていくような気分がする。

まるで私の中に小さな灯火が灯ったような不思議な感覚。


「あ……」


糸がほどけてる…。

もしかして、糸が切れた?


「むぅ…」


難しい…。棒はミスリルだから普通に握れるけど、糸は普通の店売りだ。糸が切れた感触すら分からない私はやはり不器用なのだろう。


「もう一回」


私は1からこのマフラーを作っているわけではない。

何度も何度も糸が切れては結んでを繰り返して作っている。

そんなマフラーは店売りのマフラーよりかは見映えは絶対悪いだろう。

だから、トリスタに結び目が見えない結び方を教えてもらった。

すんごく難しかったけれど、それでも何度も繰り返せばやがて慣れてくる。


「………」

あみあみ…


そんな不器用な私のハリボテマフラーは日を重ねるごとに少しずつ少しずつ形になってくる。

糸が切れて63回。棒が折れて13回。刻んだ失敗が結び目の数で、折れた棒の数が私の諦めようと思った想いの数。

そんなにも失敗をしたのにそれでもやり続けたマフラー作り。

流した涙も悔やむ心もそれでもと諦めきれなかった根性悪さも募った編み物作り。


「…………」

あみあみ…


私はマフラー作りで壊すことしか出来なかった手でも直せることを知った。

私はマフラー作りで苦手な怪力の手加減と向き合った。

私はマフラー作りで馬鹿な私がマフラーではないなにかを作りそうになって、リセットさせられた涙が爆ぜる想いをした。

とても嫌なことばっかりでとても苦しいことばかりだった。

それでも、ようやく形になってきた。


「…………」

あみあみ…


トリスタやシルフィさんはこんな細かいことをいつも簡単そうにちょいちょいっとやってみせる。

私でも出来そうかと思ったけど案外難しくて、思った以上に大変だった。


作るのって厳しい。

でも、それだけに作れるのって凄い。


本当に凄い。

私はマフラー1つ作るだけでもこんなに苦労しているのにこの屋敷にいる人達はマフラーよりも難しい作業をやってのける。


「…………」

あみあみ…


羨ましかった。

私にはトリスタみたいな器用さはない。シルフィさんみたいな知識もない。鋼さんみたいに戦闘が得意なわけでもないし、レトアさんみたいな一途さもホルルトさんみたいに何かを追い求めている訳でもない。


私には何もなかった。

私にあるのはろくに制御もできない怪力と鬼の再生能力だけ。


「あ…」


まただ。また切れた。

切れたなら、またここから結び直して始めないと。


ぽろぽろ…

「…あ、あれ?」


何故だろう。胸が苦しくて、何だか涙が出ちゃったよ。


編み物は苦手だ。

手先が器用じゃないし、何より向いてない。

だから、嫌い。

辛いし苦しいし惨めな気分になる。


「それ、でも…!」


やると決めた。

作って見せると誓った。


何度糸が切れたって

何度棒が折れたって

私が決めた。

誰でもない私が決めて作るって決めたんだ。

ここまで諦めずにやったんだから、最後まで諦めたくない。

諦められない!


「…頑張らないと」


そして私は今日もマフラーを編む。

編み終わる最後の日を夢見て。





stage「トリスタの屋敷」

sideトリスタ


「なーに、考えてんだが」

「そっとしてやれ。あいつは今自分と戦っている」

「そりゃ俺でも見りゃ分かるよ」


てか、鋼の奴珍しいな。戦闘以外で相手の考えていることが察するって。

今のファンプを見て、感化されたか?


「それよりどうすんのさ」

「どうするとは?」

「お前、マフラー使うの?」


鋼は少し考えるように上を見上げた。

まあ、考えてることは分かるぜ。お前は基本戦闘重視だもんな。

料理も如何に美味しいかよりも如何に早く食べられるかとか如何に食べやすいかしか考えてないくらいだもんな。

あのファンプが一生懸命に編んでいるマフラーだって、鋼はきっと使えるかどうかしか見ないだろうな。


そう考えているうちに何か答えが出たのか口に出そうとして…視線を俺へと移した。


「…お前には関係ない」

「なんだよ、照れてんのか?」

「俺にはあれを使いこなせない」


……わけわかんねー。

たまに思うがこいつはたまに話が別次元になるよな。


「使いこなせないねぇ…。マフラーなんて首に巻いて使う以外に使用方法なんてないと思うけどねぇ」

「…俺は使用方法が分からないわけではないのだがな」

「…ほーん?」


使用方法は分かるのに使いこなせないってどういうことだよ。

刀やナイフを扱う訳でもないだろうに。

…いや、そういうことなのか。


「…マフラーを使ってくれるわけじゃないのか?」

「…冬は寒い。凍傷には気を付けなければならない」

「素直に使うって言えよ」


俺がニヤリと笑って見せると、鋼は上を向いて溜め息をついた。

あれ…? なんか思ってた反応と違うな。


「…使うには使うんだろ?」

「………」

「なぜ黙るのかねぇ…」


まぁ、なんとなしに察しはするが。

こいつは運がないから生き残るためなら手段を選ばない。

だからマフラーをボロボロにしたらファンプが泣くんじゃないかとかいまっさらなこと考えてんだろ。たぶん。


変な気の使い方をしてるよな、と俺は思ってる。

ハガネは別に一生懸命作ってくれたものに対する恩を知らないわけではない。

だけど俺もシルフィもハガネのそういう仕方ないところについては諦めている。いや、諦めざる負えん。

物より命の方が大事だから。

だから俺は使い捨てに出来るものしかこいつに贈らない。その方がこいつの気も楽だし俺も理解してる分プレゼントしやすい。


だけど、その覚悟も出来てないであろう自分と近しい人物から贈られたら。

それは困るだろう。

でも、自分の命を無くす方が馬鹿げていると知っているハガネはきっと躊躇わない。

だからこそ、せめてどう使ったら役に立つか考えているんじゃないだろうか。


それがハガネの『優しさ』であり、せめてもの『誠意』でもある。

事情を知らないものから見たら酷い男だと言われても仕方ない。

だけど、そんな酷い男でどんな困難にも乗り越える気概を持つこいつだからこそ、どんな酷い結果になっても向き合おうと考えるのだろう。


まぁ、俺はあのマフラーが簡単にちぎれたりボロボロになるとは思ってないけどな!

それはそれだけあいつの想いが強いとかじゃなくてもっと物理的にだ。


あのマフラー一見、ほわほわしているように見えるが俺には分かる。

あのほわほわ感は…ただのムレだ。


え?なぜ分かるかって?

見れば分かったから。

鋼は気付いてないけど、あのマフラー…マフラーという形をした色が付いた短いロープと変わらないんだぜ?


ファンプめ…編み方を勝手にアレンジしてやがったな?

糸が千切れまくって失敗したのそんなに堪えたのか…。

でもそれじゃあマフラーになんないわー。

残念なくらいにマフラーの形をした硬いロープだわー。


鋼が思うような無謀な使い方しても全然問題ないから結局は良いんだろうけどさ。

あ、だからシルフィも何も言わなかったのか?

じゃあ俺も何も言わないことにしようそうしよう。


鋼が無くさない限りあのマフラーはほぼずっと使えるし。

ファンプも使ってもらえて嬉しいだろうし。

もしかしたら冬だけでなく夏も使用する可能性あるけど。

別に問題ないよね!


ファンプはマフラーを冬じゃなくても使うものと思ってないだろうけど、別に訂正する必要ないよね!

だってそれマフラーじゃないし。

しかも無駄に長いから、マフラーより腹巻きとかの方が合うかもね。

それどころか大きな荷物とか運んだりするのに使えてもおかしくないかもね。


あ、やばい。これ以上ここにいたら、笑う。

それはあかん。立ち去ろう、今すぐに!

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