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優しさの証 前編

stageライトウェルの町

sideファンプ


「はぁ…上手くいかないよ…」


私の手元にはぐちゃぐちゃになった手編みのマフラーの残骸があった。



【優しさの証】


マフラー。それは寒い冬の季節に編んで、大切な誰かに贈るのに最適なアイテム。

私は日頃の感謝を込めてあの人のためのマフラーを編んでいた。

だけど、私は鬼人の落ちこぼれだからなのか力の制御が上手くいかず、編み棒を折ったり、編み糸を引きちぎったりと編む編まない以前の問題になっていた。

幸い、屋敷には編み棒も編み糸も自作出来る人がいたから直してはもらえたけど…。


「あ…」

ポキン。


気を緩めたらつい、握り締め過ぎて折れてしまった。

今でもかなり手加減してるんだけれど…これじゃあ…。

また修理して貰わなきゃいけない、かぁ…。

迷惑掛けたくないんだけどなぁ…。


私は溜め息をひとつ吐き、項垂れた。





「おろ…? こんな時間にどうした?」

「トリスタ、その…」


この人はトリスタ。

この屋敷の家主で、私のような身寄りのない子供や年寄りなんかを拾って一緒に育ててくれている恩人の一人。

彼は優しくて明るい性格の持ち主で一緒にいるだけで、些細な悩みも吹っ飛ばしてくれる。


「ん…? ああ折れたのか。ちょっと見せてみろ」


私は折れた編み棒をトリスタに渡した。

「んー?」などと言いながらトリスタは編み棒を視る。


「あー…こいつぁもう駄目だな。新しいのを作った方が速い」

「そ、そんなぁ…」じわぁ

「な、泣くなよ…」

「だって…トリスタのもの、また折っちゃったんだもん」

「あー…そりゃ気にすんなってのが無理か」


私は少し頷いた。

ダメダメだなぁ私。


「…そもそも編み(こいつ)は弱っちい人間用の道具なんだから、力のつえー亜人が使えばそりゃ折れもするのは仕方ないだろうがよ」

「それでも、私が折ったのは事実。事実なんですよぉ!」

「わぁーったわぁーったから泣くなって!」


背中を優しく撫でられて、励まされる私。

情けない…。

でも、どうしよう…。編み棒買わないといけないよね…。

でも、そんなお金は持ってないし、働くにもこの冬のなかではそんな働き口もそう見つからない。

つまり、編み棒を作るしかないのだけれど不器用な私じゃ満足にその道具も作れない。

うわーん!


「とりあえず、もう夜だ。部屋に戻って寝るといい。編み棒の件は俺が何とかしてみるから」

「はい…」


私はトリスタに言われるまま部屋に戻って寝た。





sideトリスタ


「…しっかし、やっぱ折れたか。これでも結構硬い木使ってるんだけどな…」


机の上には握り潰されて木っ端微塵にされた編み棒があった。

流石は鬼人だな。あれでもまだ幼いというのにこれほどのパワーを持っているとは…。


「戦闘種族とまで言われた鬼人の一族の力…侮ってた訳じゃねぇけど、手加減してこれか…」


こりゃ、かなり頑丈な素材で作らねぇとまた折れるな。

しかし、鬼人が使っても大丈夫な編み棒なんてどう作れば良いのだろうか。

鉄とか鋼とかで作った棒…いや駄目だな、あの怪力だ。たぶん曲がる。曲がれば、編み物のような繊細なものを作るには向かないだろう。


となると、鉄とか鋼とかよりも頑丈で折れにくいのがいいよな…。

それに…恐らく編み糸も千切れてんだろうなあの様子じゃ。

困ったな…。あいつ専用の道具作ってやろうと思ったが…思ったより難易度高そうな予感がしてやべぇ。

でも、作らないとあいつ落ち込むだろうし…。

はぁ…マジでどうすっかな…。

とりあえず、俺は理想の編み棒と編み糸のアイディアをあーでもないこーでもないと悩みながら机の上の紙に書いていった。




side流瀬 鋼


「…はぁ」


目の前に馬鹿が寝ている。

いつものことだ。いつものことなんだ。

例えこいつが寝るとき近くにあるものを抱き枕にして寝る癖があろうが、俺にとっては見慣れている。見慣れている、んだが…。


「ぐぅーるる……しゅっ…ぴぃー!」


なんとも珍妙な寝息があったものだと俺は思う。

だがそれよりもこいつは何故、何故…!


机の下から、コアラのように抱き付いて寝てるんだ!

いくら抱き枕癖があるにしてもそれはねぇよ!

しかも、腕が疲れるとかの理由なのか椅子を背にして寝てる上下に挟まれたサンドイッチ寝って…。

無意識か。無意識なのか。

それとも面白ければ何でもいいと思ってこんな寝方をしたのか。

後でバキバキになっても知らんぞ。

俺が半眼になりながらトリスタを見ていると、ふと机の上にあるメモに目がついた。


「これは……材料のメモ、か?」


二重線で消された後が多く、残った幾つかの材料の名前が見えた。

どれもこれも貴重な素材の名前だ。

鍛冶はシルフィがすることになっているみたいだ。

となると、集めるのは俺になるのか?

まあ、あいつのことだし、幾つかの材料は自分で取ってくるだろうがそれでも一人では無理なアイテムなら、俺に頼んでくるだろう。

となると、早めに集めておいて方がいいかもしれないな。


「…どれどれ」


俺はメモに書かれたアイテムリストから集めるアイテムを幾つか見当した。

ふむ…今はこれとこれとこれ…くらいか。

日帰りはキツいが、二日もあれば集められるだろう。

さて…ちょっとアイテム集めと行きますかね。



sideトリスタ


「あだっ!? やべ筋肉痛が…」

「だから、言ったでしょうが。寝るならちゃんと布団で寝なさいって」

「分かったよシルフィ! だから、もう少し手加減、手加減してくれぇぇーーー!!!」

「これでもっ!優しくっ! してるわよっ!」

「あだぁー!!!」


変な姿勢で寝ていたせいか物凄く身体中が痛かった。

だから、治してもらおうとシルフィのところに行ったところ魔法のヒールじゃなくて身体のツボを押したり伸ばしたりして治す肉体治療を受けさせられていた。

どうやら、鋼の脳筋に教えてもらったらしく、早速使いたくなったらしい。

だからといって俺を実験台にするな!


「大体、昨日どんな姿勢で寝たらこんな酷い筋肉痛になるのよ!」

「いぎっ!? …そ、それは…ぐぎゃっ!!?」

「身体中がばっきぼっきじゃない!」

「骨が…骨がぁぁーーー!!!!」

「安心しなさい。骨は折れないから。むしろ、硬くなった筋肉を解しているから」

「ヒール!ヒールを所望する!」

「これだけ硬いとそもそもヒールも効きにくいし、効率が悪いのよ!」


ーーベキボキッ!!!

がああああああああ!!!!!!!!!


本日の屋敷の朝の目覚ましは俺の悲痛な叫びだったという。




「まったく…ひどい目にあった…」

「自業自得でしょ?」


確かにそうなんだが、そうなんだがっ!

もう少し労りがあってもいいと思わないか!?

俺結構みんなのために頑張ってるだし、それくらいあってもいいと思うんだ。


「ところで、トリスタ。鋼知らない?」

「…知らねぇぞ?」

「そう…」

「なんかあったのか?」

「いえ、鋼がもうここに居ないから、どうしたのかなって」


鋼が朝飯も食わずに屋敷を出た?

あいつにしちゃ、珍しいな。

仕方ない探しに出掛けるか…。そのついでで材料集めに行くとしよう。



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