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冬のある日

side鋼

stageトリスタの屋敷「庭」


「おぉー!スゲー!」

「ふふん」


朝食後、屋敷の縁側でお茶を飲んでいると外で何やら騒がしい声がした。

見ればそこにいるのは妙に目をキラキラ輝かせているあの馬鹿と何処か自慢気に口角を上げる猫人の雪が何やら雪で作った像らしきものを作っていた。


雪だるまとか氷像でもなくて、雪像というところが新しい、とでも言えばいいのだろうか。

細かいところまでよく作られていた。

ちなみに像は何処かでよく見た猫の立ち姿だ。


「30分でこれほどの力作が魔法で作れるとは…凄い器用なんだな」

「ふふ…それほどでも」


馬鹿は凄い凄いって言いながら、雪像に触れたり、撫でたりしていた。

猫の像は雪像だからか作りが繊細で、少しでも触れるとそこが潰れて形が崩れてしまうようだったが、雪が魔法で作っているからか手を離すとまるでクッションみたいにふわっと雪が膨らんで元に戻っていた。

あの馬鹿はそれが面白いのか何度も押したり離したりを繰り返していた。


ふと、横からきしっきしっという古い木の床が軋む音が近づいてくるのに気付いた。

ここの床は誰が歩いても軋むらしく、前にトリスタが夜中にスーパースロームーブをしていたときも軋む音がしたらしく、シルフィに怒られていたのを聞いたことがある。


そろそろ張り替え時かもな…。

そう思いながら、茶を飲みきった。


「鋼」


慣れ親しんだ高いソプラノボイスが横から聞こえた。

振り向かなくても誰だか分かる。


「横に座るくらいなら別に聞かなくてもいいぞ、シルフィ」

「ふふ、じゃ横に座るね」


そう言ってシルフィが俺の隣に座る気配がした。

俺は庭を見つめるだけで特に何もしないし、何も喋らない。

シルフィもそこからは俺と同じで何もせずにただリラックスしているようであった。


気まずいとかそういう雰囲気ではない。

ただ俺と彼女にあるこの沈黙が二人の暗黙の理解を示しており、その空気には居心地の良さという暖かさがあった。


ほぅ…。

横からそんなほっとしたような溜め息が聞こえた気がした。


庭を見ると、庭にファンプとレトアが雪玉を転がしていて、馬鹿と見神が雪の塹壕らしきものを作っていて、雪はまた何かの雪像を作っているようだった。

庭にいる奴らは皆どこか楽しそうで、笑顔があった。


「久し振りね」


ふと、横からそんな声がした。

久し振りとは何のことだろうか。

そう思い、なんの気無しに隣にいるシルフィの顔を見る。

彼女は柔らかな笑みを浮かべて前を向いたまま続けた。


「こんな風に皆がいる休みの日って」


言われて確かにと思った。

普段は忙しいはずの俺やトリスタですら特に仕事がなくこうしてゆっくりしている。それは確かに久し振りで、珍しいことであった。


「そうだな…」


最近はトラブル続きで、日帰り出来ないことがよくあった。

そのせいで、屋敷にいる奴らに心配を掛けたりハラハラさせっぱなしなところがあった。

今日に限ってそういうことがないのはいいことだ。


俺は適当に足を高く上げて、何処からともなく降ってきた雪玉を蹴り落として、体を伸ばす。


「こうやって伸び伸び出来るのも久し振りだ」

「そうね…くすくす」


まあ、こうしてゆっくり出来るのも、午後までだけどな。

午後からは仕事がある。


「鋼ー! 昼のおかずを掛けて勝負しようぜー!」

「……」

「……」


前言撤回。あいつがいるのにゆっくりなんて出来るわけがなかった。

どうせ断っても無駄だろうし、やるか。


「ウォーミングアップくらいにはなるんだろうな?」

「ウォーミングアップどころかバテバテにしてやるぜ」

「ほう…そんな戯れ言をほざいていいのか?」

「お前に無策で仕掛けるほど俺も馬鹿じゃねぇぞ?」


馬鹿がニヤリ顔でこちらを挑発している。

このくらいの挑発を受けなくても問題はないが、これほど自信に溢れているということはそれだけ自信があるのだろう。

少し興味が湧いた。

シルフィがそこで半分膨れながら俺に話し掛けてきた。


「もう少しゆっくりしててもいいと思うよ?」

「いつまでもゆっくりしてても体がなまるからな。クエスト前に解しておきたい」

「そうかしら? 鋼ならそんなことしなくても大丈夫だと思うけど…」

「悪いなシルフィ。俺の勘が言ってるんだ。この先にある不幸が俺を手まねいていると、な」

「そう…ちょっと残念だけど、仕方ないわね。気が済むまで遊んだら?」

「ああ、出来の悪い雪だるまが出来るまで遊んでやる」


俺は強気な笑みを浮かべて、勝負を受けた。


「じゃあ、昼まで雪玉合戦じゃー!!」


勝敗がどうなったのかは秘密だ。

ただ教えられるのは庭には2体の雪だるまがあったことだけだ。

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