訪れる敗北
「行くぞ!ランスロット!!」
手を振り炎剣を召喚するフューゼ。
「くっ…!受けてたちましょう!!」
バチりと音を立てながら剣を構えるランスロット。
両者がぶつからんとするその時だった。
ドォン!!
闘技場上空で爆発音が鳴り響く。
「なんだ!?」
闘技場内の全員が空を見上げると、空には煙のようなものが漂っていた。
サァァァ…!!
そして雨のように液体が降り注ぐ。
「水…?」
闘技場内がざわつき出した所に明るい声が響く。
「さぁさぁ皆様!!ギルドランド副頭領ランスロット様VS夜王ヴァンドラ様の大一番!決着の時が近づいているのではないでしょうか!!観客席の皆様も体が火照っていることでしょう!!」
「…スイング?何を…。」
怪訝そうな顔のランスロット。
一方フューゼはランスロットを睨んだまま考えていた。
…ただの水じゃないとは思うが…。
俺の火を消そうとしているのか?
その程度の水で妨害しようとしてるのか?
グッと炎剣を握り込むフューゼ。
炎剣が大きくなりメラメラとひりつく。
「ギルドランドの名産!ヴェグルの天然魔素水ポーション風味!火照った体にかけてよし!飲んでよし!皆様に大サービスです!本来は魔力回復用の魔素水として通用するようにしているのですが、試合中なのでその成分は抜いてます!要するに、ポーションっぽい冷たい水です!悪しからず!!」
気が利くじゃねぇかー!
観客席から喜びの声が響く。
何だかスーッとするが…。
これがただの水だと…?
ふざけるのも大概にしろよ…!
「何を勝手なことを…。」
少し困惑したような表情のランスロットが視線をフューゼに戻す。
ボッッ…!!
「っ!!」
チリチリと音を立てかすかに燃えるランスロットの前髪。
フューゼの炎剣は喉元を掠め空を切る。
「試合中に余所見とは余裕だな!あぁ!?殺されたいのなら叶えてやろうか!!」
「ヴァンドラ様…!?」
「あぁーっと!ヴァンドラ様の炎の剣がランスロット様を掠めたぁぁ!今のは危なかったぞー!!」
…ランスロット様には申し訳ないが観客に被害を出す訳にも、副頭領が毒を使った事を知識が無い者たちにまで知られる訳にも行かない…。今動けるようになったようだしまた毒にやられる前にランスロット様を…!
ぐっと拳を握り込むスイング。
「毒だの謎の水だの…ギルドランドはいい戦い方するなぁ?えぇ?」
首を傾けながら詰め寄るフューゼ。
「……っ!!」
明らかに様子がおかしい…!
それに毒で満足には動けないのではないのか…!?
「ギルドランドは帝国と繋がってんのか?永遠の中立国が聞いて呆れる。」
ブンッ!!ゴォォッ!
歩き詰め寄りながら炎剣を振るうフューゼ。
目にも止まらぬ斬撃がランスロットを襲う。
「ぐぅっ…!!」
重く…速い!!
力を流して受けなければもっていかれる……!
腰もいれずにこの重さ……!!
忌み嫌われし国の夜王はここまでか…!!
ガブリ
「ぐぁぁぁぁぁ!!」
ランスロットの首に激痛が走る。
フューゼの牙がランスロットの首に深々と突き刺さっている。
「初戦のように噛みつきが決まったぁ!!」
剣を振りフューゼを振り払うランスロット。
「スキル情報無し…か。この程度で副頭領とはな…。」
ごぽ…びしゃっびしゃ!
肉片を吐くフューゼ。
「あぁぁぁ!!」
イラついたように天を見上げ叫ぶフューゼ。
「あ?」
少し間を置きランスロットに目を合わせると炎剣を振りかぶり走り出す。
「毒は効いている…!今しかない!!」
バチィ!
消えるランスロット。
「始雷一閃黒雷!!」
ギィン!
フューゼの炎剣が宙を舞う。
「決まりまし…た?」
剣を弾かれた刹那に懐に潜り込みランスロットの襟と袖を掴んでいたフューゼ。
「かかったな。終わりだ…。」
ボゥッ!
フューゼの足に炎が宿る。
スパッ――
綺麗に足を払うフューゼ。
軸足のばねと腰を使いランスロットの体は宙へと舞う。
…一体何が…?
目をまるく開くランスロット。
まるで無重力かのように地を離れた彼はまるで浮かんでいるかのように、全ての感覚がふわりと、ゆっくりと感じていた。
その時パシッと頭に感覚が宿る。
その添えられた手にかつてアーサーに武を褒められ、撫でられた時の思い出が脳裏をよぎる。
あぁ…。父上…私は…
「獄落…!!」
ガン!
大きな音ともにランスロットは何も聞こえない暗闇へと誘われた。




