第8試合決着
ドゴォォン!!
凄まじい勢いで魔力が爆発する。
「な、なんという威力だぁ!!アニルのペースと思われていましたが一手で逆転か!?」
ざわめく会場。
煙が晴れていく…。
「びった…マジか……ひぐっ…」
目に涙を浮かべぶるぶると震えた姿を現すアニル。
「満身創痍だが立っている!アニル立っているぞ!!」
いいぞーー!!
クソ!くたばれ帝国のクズ!!
歓声や罵声が飛ぶ。
「直撃したのに無事ですか…。その魔法道具…回収しておきたいですね」
ジャッ!
新たなナイフを取り出すシルビア。
徐々に距離を詰めていく。
「はぁ……ひぅ…!はっ…」
魔力は何とか回収した…!
この魔力をスクラップハンドに流せば動かせる…!
けどこいつにスクラップハンドは通用しやがらねぇ…!
今のウチじゃ勝てねぇ…!!無理だ!!
「随分と大人しくなりましたね」
「ぴっ!?」
気付けばアニルの目の前にシルビアが立っていた。
「ラティルゴラゴのガントレットでしたか?貴様を倒して回収させてもらいます」
「回収…?だ…だめだ!こいつは渡さねぇ…!」
胸に抱え込むように籠手を隠そうとするアニル。
「帝国はヴァンドラ様の敵…。かける慈悲はありません」
ナイフを構えるシルビア。
「ま…待って…!ひぐっ…!待って…!!」
内股になり怯えるアニル。
「…最期に言いたい事はありますか?」
アニルの目をまっすぐ見るシルビア。
「さい…!?待てって!!ウチが…悪かったからぁ!」
「…さようなら」
くるりとナイフを回し振りかぶるシルビア。
「参ったぁぁ!!ウチの負けだぁ!!」
大きく叫ぶアニル。
シルビアを含めた全ての時がピタリと止まる。
無言で判定員を見るシルビア。
アニルの降参によりシルビアの勝利宣言を行う判定員。
「アニル…降参…!!勝者はヴァンドラのイグニ・シルビア!!圧倒的実力差を見せつけての戦意喪失だぁ!!」
ワァァァァー!
会場が騒がしくなり怒号が響く。
「降参…ですか」
ナイフを収めるシルビア。
「死ぬわけにも…このガントレットを渡す訳にもいかねぇ…」
「…この大会が終わればラティルゴラゴのガントレットを奪いに行きますよ」
「…っ!やめてくれ…!これはラティルゴラゴのガントレットじゃなくてプリズリアのガントレットなんだ…」
目を伏せるアニル。
「プリズリア…?」
ぴくりと眉を動かすシルビア。
あのモリナマコと同じようなぐにぐにした魔物…
「体からだす分泌液で魔鉱石を纏う軟体の魔物…奴の纏石で作ったガントレットなんだよ」
「…プリズリアの纏石は魔力を吸収すると聞いたことがありましたがそれで生地獄を…?」
「魔法撃たせてウチに全く効かないって絶望させるか消耗させて勝とうと思ったんだ!そしたら思った以上に魔法が強くて…その…根暗って言ったのも…悪かった…あんなに怒ると思ってなかった…」
「だから許せ、見逃せと?」
「た、頼むよぉ…帝国ってもウチは侵略なんて興味ねぇ。言えることは全部言った!なんなら褒めて撫でてくれよぉ」
「でも貴方…開発者ですよね?そのような開発を続けられて帝国に使われると厄介です。貴方を見逃せば貴方の開発で他の人が死ぬ事になるかもしれない」
「でも、でもウチ…!ウチ…!」
「………」
無言で近づき手を動かすシルビア。
「ひっ!?」
怯えるアニルの頭に手を重ねると優しく撫でた。
「えっ…あっ…」
あったかい…優しい撫で方…
「なぜ驚くんですか?…貴方が望んだことでしょう。ヴァンドラ様はお優しい方。今ここにいれば貴方をこのように撫で、生かすでしょう。だから私も今回は見逃します」
「おぅ…。ひひっ…!」
顔を赤くしにやけるアニル。
「ただし、ヴァンドラ様に報告はします。そして奪えと言われれば奪いに行きますし殺せと言われれば殺しに行きます」
「お…ぅ。わかったよ…」
撫でるのをやめるシルビア。
「あっ…」
残念そうなアニル。
「ヴァンドラ様に感謝し、敬い、敵にならないようにする事ね」
そう言うとくるりと背を向け歩き出し退場するシルビア。
こうして、シルビアVSアニルはあっけない終わりを迎えた。




