武闘大会当日
それから日が経ち、フューゼ達は特訓を重ね大会当日を迎えていた。
「遂にこの日が来たな。」
「そうじゃな。やれる事はやった。あとは各々次第じゃな」
モナを見るリヴィア。
「みんな色々ありがとう…。モナ頑張るよ」
「ヴァンドラの力を見せつけるいい機会です。私も学んだ事を生かします」
「気合い入ってるねぇ!頑張れシルビー!」
「おはようございます。ヴァンドラ様。」
前方に目を向けると名無しの男が現れていた。
「いつも世話になってるな。」
「いえいえ、さて本日は出場者にお変わりはございますか?」
「いや、変更は無い。俺、シルビア、モナ。この3人が出場者だ。」
「全員の御参加ありがとうございます。では…」
腰から剣を抜く名無しの男。
「何をっ…!!」
ナイフを取り出そうとするシルビア。
それを止めるフューゼ。
「大丈夫だ。これはギルドランドの激励だと思うぞ。」
「激励…?」
「御説明していませんでしたね。申し訳ございません。ヴァンドラ様の仰る通りでございます。」
そう言うと剣を掲げる名無しの男。
「彼の者に敵を討ち滅ぼす力を。正しきを見誤らぬ眼を。王の加護あれ。」
「おーっ!かっこいいー!」
拍手するアリス。
「それにしてもシルビーが知らないことをフュゼ様が知ってるなんて!なんで知ってたのー?」
フューゼを見るアリス。
顎に手を当て考えているフューゼ。
「フュゼ様?」
「あー俺はランスロットに会った時に彼がしてくれたから知ってたんだが…違和感があってな。」
「副頭領にお会いになっていたんですね。…恐らくは最後の部分が違ったのでは無いですか?」
「確かにランスロットは王の加護とは言ってなかった気がするな。」
「彼の者に敵を討ち滅ぼす力を。正しきを見誤らぬ眼を。…猛る戦神の加護あれ。と副頭領は仰っておりませんでしたか?」
「それだ!なんで違うんだ?戦神…もしかして先代のギルドランド王が関係してるのか?」
「ご明察の通りです。元々ここで言う戦神は先代頭領の事では無いのですが…先代頭領の異名は戦神…。その名を使うのは不謹慎だと民から声が上がっておりまして…。」
「そうだったのか…。何故ランスロットは変えてないんだ?」
「頭領がそこの判断は各自に任せるとしているため特に制限は無いのです。副頭領には過激派と衝突するのを避けるため何度か激励については進言したのですが…。」
「過激派…?」
「先代頭領を恨んでいる民ですね。副頭領を慕っている者が多く先代頭領を明確に敵だとしている者が多いのです。」
「…大変そうだな。何かあれば言ってくれ。」
「ヴァンドラ様からそのようなお言葉を頂けるだけでも身に余る光栄です。では…会場へと案内致します。」
案内を始める名無しの男。
「ねぇフュゼ様、ホープ君は大会見にこないでいいの?」
「あー…確かに参考になる点はあるだろうし見た方がいいのかな…。応援もしてほしいしな。」
「船を放置する訳には…」
「シルビアの言う事ももっともだが…。」
「ヴァンドラ様。私でよろしければ1つよろしいでしょうか?」
口を開く名無しの男。
「なんだ?」
「ヴァンドラ様の船にはガルルグルが大量に居るんですよね?」
「まぁそうだな。」
「噂によるとなんでも統率がとれており意思疎通が可能だとか…。」
「…ガルルグルに船を任せるって言いたいのか?」
「そうですね。少なくともギルドランドの民は大量のガルルグルがいる他国の…ましてやヴァンドラ様の船を襲う気にはならないかと…。」
「そうなのか?」
「ガルルグルが大量にいるだけでも警戒しますが統率もとれているとなると…。さらにはヴァンドラ国を敵に回す恐ろしさは理解していますからね。」
「……シルビアどう思う?」
「ガルルグルに…船を任せる…ですか……」
考え込むシルビア。
「ホープに判断させればよいじゃろ」
口を開いたのはリヴィア。
「ホープに?」
「あやつが今数日ガルルグルを管理していたんじゃ。ホープが大丈夫だと判断するかどうかに委ねるのはどうじゃ?」
「なるほどな…。ホープの判断に任せるか。」
「…では私が行ってきましょうか?」
「いえ、それには及びません。」
シルビアを制する名無しの男。
「出場者に御足労おかけする訳にはいきません。船の下から私がお声かけ致します。」
「いいのか?」
「もちろんです。ただし船に乗り込む訳にはいかないのでお声かけして気づかれなかった際はご了承ください。」
「構わない。彼に頼んでいいか?」
シルビアに質問するフューゼ。
「ヴァンドラ様のご判断に従います」
「わかった。じゃあすまないが頼まれてくれ。」
「承りました。会場に入りましたら指示がありますので出場者と観戦者はそこで別れることになります。ヴァンドラ様御一行には特別席を御準備しておりますので会場では案内にお従い頂ければと…。」
不安そうな名無しの男。
「わかった。会場では指示に従う。…みんなもわかったな?」
各々返事をする一同。
その様子を見て安堵する名無しの男。
…やっぱりヴァンドラを相手にするのは相当大変だと思われてるんだろな。
というか今までのヴァンドラどの国に対しても態度酷かったんだろうな。
「…心労かけてすまないな。」
「い、いえ!!そんな事は…!」
慌てる名無しの男。
「そういえば海神竜様にこちらを…。」
綺麗に畳まれた布を手渡す名無しの男。
「なんじゃこれは」
「ローブでございます。ギルドランド1の職人に作って頂きました。」
「ローブ…?何でこんなものを?」
「スノーフィスの方に気付かれると大変な状況である事は理解しておりますので…。」
「…なるほどな」
畳んであったローブをふぁさりと開くリヴィア。
淡い紫に輝くローブ。
「魔鉱石も生地の仕立てに利用しておりますので多少は海神竜様の魔力を隠す事が出来ると思われます。良ければお使いください。」
「…使わせてもらうぞ」
ローブを着るリヴィア。
「確かに気心地もいい。職人はいい仕事をするようじゃな」
満足気なリヴィア。
「気に入って頂けたようで光栄です。」
「こんな上等な品貰っていいのか?」
「もちろんです。ヴァンドラ国の参加だけでも当国からすれば喜ばしい初の快挙…。さらにヴァンドラ様直々に御参加頂けるのです。出来ることは何でもお申し付け下さい。」
その言葉を聞き満足気な顔のシルビア。
「そうか…。助かる。じゃあホープの事は任せたよ。」
「承りました。」
そう言うと駆け出す名無しの男。
こうしてフューゼ達は会場へと足を踏み入れた。




