異世界の技術
動かない両者。
「……ヴァンドラ様空手でよろしいのですか?」
構えたまま声をかけるシルビア。
「あぁ、構わない。」
「炎剣は使わんのか?」
横から声をかけるリヴィア。
「あれは制御が難しくてな。シルビアに怪我を負わせる可能性があるからな。」
「御心遣い感謝致します。しかしそれでは訓練に…」
「魔力が切れたり封じられたら炎剣は出せないんだ。素手での訓練も必要だ。それに…」
「それに?」
「自信はあるんだ。遠慮しなくていい。」
ニヤリと笑うフューゼ。
「…承知致しました。では…」
一瞬姿を消すシルビア。
「なにっ…!?」
落ち着いて目を凝らすと低い姿勢で突っ込んできているシルビア。
魔力防壁があるから受け止めてからの反撃でもいいが…。
ここはロングソードのような相手だと仮定して避けることに集中しよう。
右手のナイフを振るうシルビア。
フューゼもそれを躱す。
勢いそのまま回し蹴りを放つシルビア。
ガァン!
フューゼが蹴りを左手で受け止めるも衝突音が響く。
「…すごい威力だな。」
「お褒めに預かり光栄です」
身を翻し距離を取るシルビア。
着地と同時にまた急速接近する。
苛烈で早い攻めだ…!
だが…!
またもナイフを同じように振るうシルビア。
見据えたまま躱すフューゼ。
少し大振りに斬りかかるシルビア。
躱そうとするフューゼを見てナイフの持ち手を左手に切り替える。
切り替えて直ぐに喉元に向け下から突きを繰り出すシルビア。
「…ここだ!」
突きに対し重心を横にずらし躱すと同時にシルビアの右脇下から手を差し込むフューゼ。
そのまま腕を回し腰から抱き込む。
「えっ…!///」
怯むシルビア。
そのままシルビアの左手を掴み腰をいれるフューゼ。
「しゃぁっ!」
シルビアの足を払うフューゼ。
シルビアの身体が宙を舞う。
「ほぉ…」
「シルビーが飛んだ!」
「……!」
左手を引き上げ威力を殺すフューゼ。
すとんと地面に落ちるシルビア。
「…くっ!」
立ち上がろうとするシルビア。
すかさずフューゼが左手首を極める。
「くぅぅぅ……!?」
地に伏せるシルビア。
「関節が人間と同じつくりみたいで良かったよ。」
そのままシルビアを抑えるフューゼ。
シルビアは抵抗を試みるも痛みで動くことが出来ない。
「動けんのか?小娘」
「ぐぅぅ…!!」
顔を赤くするシルビア。
「…それまでじゃな」
リヴィアが止めに入る。
解放するフューゼ。
「あのシルビーを一瞬で…!フュゼ様すごい!」
目を輝かせるアリス。
「ありがとうアリス。俺も技がシルビアに通用して安心したよ。」
ぽんとアリスを撫でるフューゼ。
そしてシルビアの方を見る。
「…小娘立てるか?」
「え、えぇ…」
リヴィアに声をかけられ立ち上がろうとするシルビア。
「シルビア大丈夫か?」
歩み寄り手をとるフューゼ。
「あっ…ありがとうございます…!」
立ち上がるシルビア。
「接近戦には自信があったのですが…お強いですね…」
「フューゼ…さっきの技…なに?」
興味津々のモナ。
「あれはな、少し変形したが払腰って技だ。」
「はらいごし?」
「俺が元いた世界の柔道っていう武道での技の1つだ。」
「ほぉ…面白い、異世界の技術ということか。だがヴァンドラよ、少々技としては優しすぎんか?小娘に投げ自体ではダメージが無さそうじゃが」
「訓練だからな。最後投げる時威力を殺したんだ。思い切り地面に叩きつければ威力は桁違いに強くなるぞ。」
「そうか…。組技ゆえ極端な接近戦に持ち込む必要があるが威力があるならなかなか強そうじゃな」
「…確かに先祖返りでも情報が無い技ですし掴まれてからは一瞬でしたね」
「…小娘の戦闘スタイルと相性が良さそうじゃな。ヴァンドラは小娘に技自体を、小娘はヴァンドラに接近する技術を教え合えば化けそうじゃ」
「…なるほど確かにシルビアの接近技術は高い。油断すればもう目の前にいるからな。」
シルビアの方を見るフューゼ。
「ありがとうございます…!わ、私は訓練の内容に関してはヴァンドラ様にお任せ致します」
「よし、ならリヴィアの提案通りにしよう。」
「ある程度慣れてくればヴァンドラには私様が水魔法での移動を2人きりで教えよう。これでばっちりじゃな!」
「なっ…!何故2人きりなんですか!」
反応するシルビア。
「水魔法を扱えるのは私様とヴァンドラだけじゃからな!」
「だ、だからと言って2人きりである必要は…!」
「小娘、特訓するにしても時間が無いんじゃぞ?限りのある時を無駄にする気か?それに訓練内容はヴァンドラ様に任せるとか先程ぬかしていなかったか?」
ニヤリとするリヴィア。
「ぐっ…!貴方って人は…!」
2人が言い争いを始める。
「またあの2人は…。」
「フュゼ様!あの2人は大丈夫!すぐにネモーネで解決するよ!」
アリスがそう言ったタイミングでネモーネの声が響く。
「ね?」
「あぁ…そうだな。」
「それより!払腰だっけ?私にもして!」
「えぇ!?」
「痛くなくできるんでしょ?飛んでみたい!」
「あ、あぁ。」
「お願いフュゼ様♡」
くねりとお願いするアリス。
アリスに頼まれると何だか断れないな。
「わかったよ。じゃあいくぞ?」
手を回すフューゼ。
「きゃん////」
小さく声をあげニコニコするアリス。
「へ、変な声だすなよ…。じゃあ投げるぞ!」
ブンと投げるフューゼ。
喜びながら地に落ちるアリス。
「ほんとだー!痛くない!楽しいー!」
きゃっきゃはしゃぐアリス。
「モナも……!」
そして抱きついてくるモナ。
特訓が再開されるまでの数十分
フューゼは投げ続け
シルビアは嬌声を響かせていた。




