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side story  作者: enzymes
第1章 春の彩り
4/4

第4話

珍しく二度寝から復活できた俺は学校へと向かった。


『今日の1位は獅子座のあなた♪

落とし物が見つかって安心!ついでに見つけ主とそのまま恋に落ちよう!

ラッキーカラーは、レェッッド‼︎』

到着した駅前のカラービジョンが盛大に声を張る。真面目に聞いてる人などいるのだろうか。というか、最後のセリフって確か…(ry


ポンポン。

…ん?右を向く。ぐさっ。指が刺さる。

俺はこの瞬間誰が横にいるか理解。

「おはよー、相変わらずしょげてるねぇ、遥也。」

「おはよー恵。…って地味にひどいこと言うなよ。」

恵は、方面こそ同じだが、路線が違うため実質的に会うとしても学校の最寄り駅から。今日はそこで会ったというわけで、

「ねぇあんた、ちょっとは海浜祭のこと、頭にあるわけ?」

「あるよ、昨日は珍しく永瀬と考えてたんだ。」

「ふーん。ま、どうせくだらないから聞かないでおくわ。そうねぇ…最後なんだから、やっぱりパーッと明るいような、思い出になれるようなこと、やれるといいわ。」

「…お、案外永瀬と同じようなこと言ってるぞ、恵。」

「なによそれ、いかにも私がバカみたいじゃない。」

「さぁな。ご勝手にー。」

「ったく、あんたらはホントに…。

というか遥也、昨日からなんだか元気じゃない?」

「さっきしょげてるって言ったのは何処の誰さんですかね…。」

「違う違う、表情よ。表情。」

(え?なにも変わらんだろ…。)

「なんかいいことでもあったの?ひょっとして女の子に告られた?」

「はっ、そんなことがあったら恵の噂レーダーで周知されてるだろ。」

「そうかもね〜。ま、そーゆーことがあったら自ら名乗りでるように。」

「そーゆーことってなんだよ。大体、なんでお前に関係あるんだ?」

「えっ、いや…。さ、さぁどうでしょうねー。要するに自首がオススメってこと。わかるわよねー。」

…いやわかんねぇよ。てかなんで口ごもったし。

気がつくとすでに学校は目の前だった。俺たちは校舎へと入っていった。



「ほぉ〜相変わらず幼馴染とラブラブ登校ですかぁ?」

「違うわよ!ただの話し相手じゃない!からかわないでよー。」

…。クラスに入るにいなや、恵は通称‘イツメン’女子の輪へ入っていった。

俺はそんなことはお構い無しに、こちらも通称‘定位置’に腰掛ける。

「おはよ、遥也。今日も寝ぼけてんのか?」

「いや、今日は寝ぼけてねぇぞ。」

(いつもだがお前のほうこそ寝癖なんとかしろ…)

「ねーねー遥也、あんた好きな女子ができたっての本当?」

ふぁっ?…っといつの間にか恵がそこにいた。

「はぁ?どこからそんなデマが。」

「デマじゃないのよねぇ〜線路沿いの公園であんたらしき人と女子を見かけた〜っていうのが、噂になってるわよ。」…恐るべしイツメン女子網。

「恵、説明しよう!」は、永瀬…?

「遥也にはな、生き別れた妹がいたんだ!そして!あらゆるバーチャルワールドをくぐり抜け、仮想世界から抜け出した2人は、あの場所でついに再会を…。」

ごんっ。んなわけあるか。てかその設定はダメなやつだろ…。

「…っと、とにかく、噂だろ、そんなの。第一、俺はそんな場所わざわざ行きたくないっての。」

…はっ。しまった。つい声を張ってしまった…。広末に聞かれてしまっただろうか。今の言い方は誤解を招きかねない。

「ふーん、ま、遥也がモテるわけないし、ロマンチストでもないからありえないわねー。そんじゃ〜」

一件落着、か…。恵はなんでそんなことを聞いてくるのだろうか。

「遥也…いまのゲンコツは朝から頭に響いたッッ…!」

涙目の永瀬。あれ、弱めにしたはずだってけど…まぁいいや。

ともかく朝からだるい授業だった。

もう3年目となると、皆教師陣に新鮮味はなく、お互い期待することもないためか、『今年度の初授業』でも淡々と授業も進んでいった。


3.4時間目は家庭科の実習だった。

去年に引き続き、頭から裁縫の実習があった。

おのおの、家庭科の教科書ノートに加え、裁縫箱とやらを抱えて、教室を移動し始めていた。

「…永瀬、お前大丈夫か。」

この男、生きている気配無し。先述のように、永瀬はガチな家庭科オンチ。

針の穴に糸を通そうとして気を失って運ばれたのは、我が校の伝説に入るレベル…だとか。

「…。裁縫箱で家庭科室縫い付けられないかな。」うわマジ嫌がってるし。

「針の穴に糸通せない奴がなーに言ってるんだか。」

すると、移動する生徒の前方から恵の声がした。

「遥也、あんた教室のカギ閉めてきてよねー」

あー。そうか、クラス委員長だから閉めねば…って恵、あんた俺を駒にしやがって。

「…はぁ。まぁ閉めてくるわ。」

「遥也、予鈴に遅れて掃除罰もらわないように早く来いよー」

「おうおう。」

…俺は廊下を小走りで戻り、教室を閉めに向かった。

移動教室の際は、盗難や問題発生を防ぐために、カギを閉めるのが我が校の鉄則だった。

「…っと。誰もいないよな、、。」

俺は教室を見渡して……

……広末がいた。

「「あ…」」

お互いの声が重なる。

……。

「えと、…鍵閉めるからな。」

「…あ、その、…鍵置いといてください。ちょっと物を探してるから…。」

たしかに広末は自分のロッカーをガサゴソしていた。

俺はちょっと気まずいのを逃れようとして、

「どうした?裁縫箱忘れか?」

冗談めかく言ってみた。すると、

「あはは、そうじゃないんですけど、、、実は針の刺した針鉢だけを忘れちゃったみたいで…困っちゃいました。」

照れ笑いながら答えるも、その返事には弱く聞こえた。

そこで俺は自分の裁縫箱を空け、

「…これ、使って。」

俺が差し出したのは、赤い小さな針鉢…。

「え、でも池田くんのは…。」

「いや、俺のはあるんだ。まぁちょっとした理由で、いつもそれ、持っててさ。…だから、ほら。」

語尾が変になった。なぜだ。

「…えと、じゃあ、、。ありがとう。

…私、ホントに抜けてますね。」

また、微笑んだ。俺もつられてニヤけてしまった。


♪キーンコーンカーンコーン♪


「やっべ、予鈴鳴った…っ。掃除罰喰らうから早く行くぞ!」

「あっ、はい!……えっ⁇」

「あっ…。」

気がつくと俺は広末の手を引いていた。その、細く白い手を。

…。

「あっ、いや、その、…ごめん。」

「いえ……。」

………。

「…、ほら、い、行こう!」

…これって変態行為?


俺らは教室の外へ急ぎ、俺は鍵を閉め、家庭科室へ向かった。

…案の定間俺だけ掃除罰喰らった。押し付けたくせに笑うな、恵め。

(まあ、広末が居残りにならなくて済んだならいいか…はあ。)


「…あーあ、遥也、初っ端から掃除罰喰らうなんて、だっさいねぇ。」

昼休み。食堂で永瀬に煽られる。

「るっせーな。その、鍵の場所が、分かんなくてな…恵の奴が隠したんじゃ…ってくらい見つかんなかったんだよ。」

「ほーん。誰かと話してたりは?」

「…してないから。」

もちろん、本当の事など言えるかっての…。

「まぁ家庭科はめんどくさいねー。

今日なんか俺は何度針を指に…。」

「そんなに刺さるお前はやばい が…。」

永瀬の右手には、目視でもわかる傷跡がいくつもあった。

「ところで遥也、今日から塾か?」

「ああ。そうだ。だから、今日は家に入るなよ。」

「わーったよ。そんじゃ、俺はサブグラウンドに〜。」

昼下がりは多くの暇を持て余した男子が、ピロティ脇で比較的静かなサブグランドで寝そべったり、座り込んでいる。永瀬は、そこで少し昼寝をするのがルーティンだとか…。

塾の宿題やらねば。俺は教室へ戻ることにした。


5時間目の現代文を恩恵のごとく、内職と居眠りに使い、6時間目は鬼教師の有機化学に耐え、1日を終えた。

「じゃぁねー遥也。せいぜい掃除頑張れ〜。」

…恵にからかわれる。はぁ。

永瀬や他の奴らとも別れ、俺は一人家庭科室へ罰の消化へ向かった。

「じゃあ、ホウキで掃いて黒板綺麗にしたら撤収でいいわよー。」

家庭科の山田先生の言葉を受け、俺はせっせと掃き掃除から始めた。

…いつも気になるが撤収ってなんだ。

…。ふきふき。…。はきはき。

…あれ、誰か来た?入口を振り返ると、そこにいたのは、広末だった。

「…え、どうしたの?」俺は聞く。

「あの、これ、まだ返していませんでしたから…。」

針鉢だった。そうだ、俺は貸したまま忘れていた。俺はそれを受け取る。

「ああ、ごめん、そうだったな…。

あは、…俺も大概抜けてるな。」

「そんなことないです!私が、忘れていただけで…ごめんなさい。」

「いやいや、謝んないでよ、大丈夫だからさ。」

「…それに、掃除罰、池田くんだけに……。」

「あはは、運が悪かっただけだよ。」

「怒ってないですか?」

「え?」

「私が、その…手間取ってなければ…。」

「いや、そんなことないよ、ホントに。大丈夫だよ。」

「…本当に優しいんですね、池田くん。…ありがとう。」

「うっ…うん。」

俺はいつも、この笑顔にやられている気が…うんなんでもないな、落ち着け俺…。

「手伝います!」

「え?」

「手伝わせてください。」

「…じゃ、黒板、頼んでいいか?」

「任せてください〜」

俺は黒板に背中を向けながらホウキを掃いた。けれども、ときおり振り返ると…身長が低いながらも精一杯、広末は黒板の隅から隅まで綺麗にしていた。そんな姿を、つい見つめてしまう。

「…終わりました!」

「え、あ、ああ。」って速いな。

ゴーストバスターズかよ。

ものすごく綺麗になった黒板がそこにはあった。広末すげぇ…。

「ええと、それじゃあ山田先生に言っとくから、…えと、またな。」

「あ、…はい。また、です。」

…ん?広末は残念そうにしている?

いやいやいやいや、俺が勝手にバカな考えをしているだけ…だ。


掃除を終え、俺は駅とは反対側に位置する塾へ向かった。

ついでにいつものレコード店に寄り、少しの時間を潰して、塾へ入った。


今日の塾も、学校のように初授業だった。古典の苦手な俺は、迅さんに頼んで、去年から取っている個別の数学に加え、古典の授業を取ることにしていた。ありがたや迅さん。


「こんにちは!いつも元気な週末ヒロイン七色ミツーバーが大好きな、和田といいます。どうぞよろしく!」

えぇ…。面白い教師に出会った。歳は若くないのに元気に溢れているような人だった。幸いにも教え方は上手かった。

「それでぇはぁ!週末ヒロイン七色ミツーバープラスα和田ちゃんでした!see you next week!」

…はあ。テンション高いな。

退屈せずに授業を終え、帰ろうとしていると…

「あれ?池田遥也くん、だっけ。」

…誰かに話しかけられた。

「…あ、えと、上川だよな。」

上川凪葉。去年も同じクラスだった。

恵の、通称‘イツメン’の一人だった。

「あ、覚えてるんだ?…ここは初めて?」

「まぁ、去年は個別だけだったから。集団は初めてだな。」

「私、この先生の授業、去年から取ってるの。面白いけど、身になるのよ。

その、…わからないことがあったら私に聞いてね。」

「はぁ。そりゃご丁寧に…。」

…七色ミツーバーの事は教えなくていいからな。


俺と上川は帰り方面は同じだった。

「遥也くん、って呼んでいい?」

「…まぁご自由に。」

「えと、遥也くんさ、突然だけどさ。その…恵のこと、好き?」

…は?

「え?どーゆー意味… 」

「いや、その、…いつも2人、仲良くしてるから。てっきり、そうなのかなって。」

「…。いや、幼馴染だから何かと馬が合う、それだけだよ。どうかした?」

「え、いや、なんでもない。ごめん遥也くん、変なこと聞いて。」

「あ、ああ。別に…。」

俺が降りる駅で、上川とは別れた。

…最後までさっきの質問が分からなかった。

「はたから見れば、幼馴染同士のやりとりってそう捉えられたりすんのかなあ…。ま、恵とのことだから大丈夫か。」

幼馴染。それは深すぎる友人とも。

それゆえのシガラミに苦しむ日がいつか来ることもあると、どこかの小説で読んだような。まぁ今は気にしなくていいか。


恵。紛うことなき幼馴染。

あいつとは幼稚園からの付き合いだった。

いつか聞かされた話によれば、いつもままごとで恵が妻役、俺が夫役…のように、オシドリ芝居をしていたとか。

正直あまりよく覚えていない。

引っ越して以来、ここに戻るまで恵とは会わず仕舞いだった。

「恵、か…。思えばあいつに色々世話になった、ってことなのかな。」

かけがえのない幼馴染。いつまでもそのままでいられれば、俺はそれでいいと思っていた。

ここで、俺は考え事を思い出す。

(なぜ、そんな楽しかったはずの小さな頃の記憶が薄いのだろうか…。)

正直、幼少時代の恵も、若かった頃の父親、そして母親の事も、はっきり覚えていない。

もともと忘れっぽいというか、抜けているような、という性格だったとは思うが、何も記憶喪失みたいな感じまで……。

不思議だ。俺はそんなことをひとまず忘れたくて、尾崎を聴きながら遅めの夕飯を食べることにした。

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