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side story  作者: enzymes
第1章 春の彩り
3/4

第3話


………………。

ぼくは、こうしてひとりでいた。

この光の差すことのない、プリズムの落ちた灰色の空の下で。

いつも、こうしてひとりだった。

でも、昔からそうしていたからか、なにも思わなかった。

ぼくひとりだけがとりのこされた世界のような気もしていたからだ。


ある時、初めてぼく以外のひとを見つけた。男の人だった。

顔はよくわからない。よく覚えていないだけかもしれない。

ただ、その人はとても落ち込んでるような、辛そうな、とても暗いようだった。

ぼくはどうしてだか、ほっとけない気持ちになって、

『どうしたの?お兄さん。どうしてここにいるの?』ときいてみた。

すると、その男の人は顔を上げ、少しの時間をかけて、ぼくの顔を見つけた。

その男の人は、なにかハッとしたようにぼくを見つめた。

しばらくして、優しい顔をしながらその人は言った。

『君こそ、どうしてここにいるんだい?』

『わからない』とぼくは言った。

『そうか…そういうことなのか。』

そう男の人はつぶやいた。なにかを確かめるかのように…。

そして、ぼくに言った。

『君にどうしても話したいことがあるんだ。聞いてくれるかい?』

ぼくは、よくわからないけど、その話を、聞かなくてはならない気がして、うんと頷いた。


その話は、とても長い話だった。

少し難しかったけど、たぶんその男の人の昔話なんだろうとわかった。

楽しいこと、悲しいこと。その全てだった。

けれど、ぼくはその話を聞いて、とても悲しいような、懐かしいような、そわそわする気がしたんだ。


気がつくと、その話は終わっていた。

そして、その人は最後にぼくに聞いた。

『君は、幸せになりたい?』

『うん。』ぼくはそう答えていた。

そんなこと、いままで一度も考えたことがなかったのに、そう答えていた。

『そうか。…よかった。』

その男の人はニッコリと微笑んだ。

そして、最後にこう言った。

『じゃあ、君は見つけに行かなくちゃ。幸せを。そして、叶えるんだ。

だから、ここから抜け出していくんだ』

ぼくはよくわからないままだった。けれど、その男の人は話し続け、

『さぁ、君は幸せになるんだよ…。』

何かが起きた。

辺り一面に、光が降り注ぐ。

そのまま、、、

……………………………。





……………………………。

ふぅ。

「本当に気持ち悪いな…。」

俺は目を覚ました。

いつも通りの変わらない朝だ。


俺はこの夢を、よくわからないままに見続けていた。

そして、いつも同じ場面で目覚めていた。

「変なおとぎ話じゃあるまいし…。

気にし過ぎてるだけなんだろな。」

チラっと、時計を見る。

…………。無情にも8時を過ぎている。

朝ドラ始まってるな…って、違う。

「ぬぁぁぁぁぁ!8時過ぎてるっっっっっ!遅刻だぁぁぁ!」

俺は急いで家を出た。


…なんとか登校時間には間に合ったようだ。

俺は自分の席に着く。すると、さっそく永瀬が飛んできた。

「おはよ、遥也。遅いじゃねぇか。」

「まだ春休み気分が抜けてないんだよ、…眠いわ。」

「遥也、広末さん来てるぞ。」

がくっ。ちょっと待て。

「…なんでお前はそんなに執着してるんだ。」

「あれ?遥也くーん、生徒手ちょ…」

ごんっ。面倒だからとりあえず殴ろう、はい。

「うるせーな、掘り起こすんじゃねぇ。…恵に知られたら拡散どころの話じゃ。」

「私がどうかしたって?」

「「ふえぇっ!」」…恵が現れた。

(もはや奥の手を使うしか…)

「…実はな、永瀬がお前の下着の色を見たそうだ。」

ごんっ。がりっ。どてっ。ぐきっ。

もはや言い表せられない。

「嘘嘘、冗談だよ。ガチでなんでもないから。」

「そうならそうと言ってよね。」

「…僕に謝罪はないのか。」

永瀬は相変わらず痛そうだが、まぁ気にしない。

「で、あんたクラス委員になってくれるのよね?」

「…ん、まぁな。」

「じゃあ海浜祭の出し物、考えておいてね。」

…あー。忘れてた。

海浜祭。この学校では合唱祭と並ぶ年間行事である。いわば学園祭。

クラスごとに出し物をするんだっけ。

調理をするクラス、演劇に徹するクラスなど様々である。

俺はゲンコツから復活した永瀬に聞いてみた。

「永瀬、いいアイデアないか?」

「合コン!コンパ!お見合い!」

…恵とアイコンタクト完了。

ごんっ。 ごんっ。がつっ。

「…遥也、わざと俺に掛けただろ。」


多目的時間はすんなりと流れた。

俺と恵が予定通りクラス委員長になり、俺は去年に引き続き生徒会に入ることができた。

「…では、海浜祭でやりたい出し物を、明日までに決めてきてください。

よろしくお願いします。」

恵のシメの言葉で、今日の学校の活動は終わりだ。

明日からは、平常授業に戻る。

俺は永瀬と、食堂で昼飯を済ませた。

「遥也、帰ろうぜー。」

「悪いな永瀬、俺、街寄ってく。お前も来るか?」

「…ふーん。ま、俺はいいや。」

「そうか、じゃあな。また夜に。」

「今日はゲームやるぞ。」

「…勝手にしろ。」


俺が街へ行くと言うときは、塾の他に、とある行きつけのレコード店があるからだ。

俺は基本的に最近の音楽は好きではない。なぜか、四半世紀位前のJ−popが好きなようだ。父親がよく聴いていたからか…?

その店では、今では見かけなくなったmdや、一世代前のcdが中古で大量に置いてある。しかも、そこらのリサイクル店より綺麗に研磨されているので、俺的には重宝している店なのだ。

そこは、古い量販店の4階にあった。


「…。いらっしゃいー。」

入店センサーの音とともに店主が声をかける。

店主とはこの1年でだいぶ顔見知りになってしまった。

会計のたびに、「今時の若者でmdを買ってくのはあんたくらいだよ」と、言われる…。まぁ確かにそうだよな。

まず俺は、54円均一で売られているmdの入ったカートを見る。なにかお気に入りのものがあれば買うが、最近はもう少なくなった。


(相変わらず客層は年配ばっかだな…)

レコード盤や、洋楽コーナーにいる大抵がお爺さん世代の人たちである。

…すると、誰かに声をかけられた。

「あれ?…池田くんだよね?」

新しいクラスにいた気がする…。

確か…

「えと、筒井、だっけ?」

「そう、筒井琴子。32番だよ、よろしくね。」

「あ、ああ。…てか、どうしてここにいる?」

俺はこの店で学生という学生は見たことがなかったから聞いてみた。

「え、私のお父さん、あの人だよ?」

…びしっ。指差した方向は、間違いなく店主だった。

「…まじか。」

「そうよ。いつもお父さん、『たまにこの店に物好きな学生が来る』って言ってたから、誰のことかと思ったら池田くんだったんだね〜。」

…変な目で見てこなかったので安心。


その後、筒井に父親を紹介された。

思ったより気さくな人間だった。

どうやらマジで俺くらいしか学生が来ないようだ。…これがホントのジェネレーションギャップってやつ?


「また、来てくれよ。娘も待っているから。」

最後に店主親父からそう言われた。

後半のメッセージは間違ってる思いますよ、ハイ。


…まぁいいか。夕飯の買い物したら家に帰ろう。


「そういえば。今日は広末の顔も見なかったな…。」

帰りの短い車中で、俺は思い出していた。

広末に言われたことを。

『明日も、ここにいますか?』

…思わず頬が赤くなるのに感づく。

「ホントにいるのか?まさによくある釣り見たいな感じだけど…」

よくあるよ、男を引っ掛ける…的なやつとかじゃないだろうな。

俺は躊躇いながら、結局自宅へ戻ってしまった。

時刻は、4時半を過ぎる頃だった。

…………。

(なんで俺は広末を気にしている?

あいつがいるいない関わらず公園に

行くくらいしてもいいんじゃないのか…?)

…………。

時間が過ぎていく。

……。

「まぁ、行くか。」

俺はもう駆け出していた。なぜだろう、呼ばれているような、そんな気がした。

(俺は何を思っている…?)

わからなかった。それでも、俺は高台を駆け登っていった。

公園に着くと、夕日はさらに大きくなって、今にも光量は最盛を迎えて水平線と同じになろうとしていた。

その強い光線の中央に、俺は1つのシルエットを捉える。

…それは広末だった。

俺の気配に気づいたのだろうか。

俺が声をかけるより先に、こちらを向いた。

「…。」俺は言葉が出なかった。

すると広末は、昨日と同じように、俺に微笑んだ。

「来てくれたんですね。池田くん。」

…俺はとっさには言葉が出なかった。

「…あぁ、まあな。…その、俺も結構、ここ来るから、さ。」

「…私がここにいるって、思ってくれましたか?」

「え…?」

「私、その、人に話しかけることが苦手で、怖くて…伝えられてても信じてもらえるかなんて、わからなくて。」

なにか安心したような、不安を込めたように俺はその言葉を受けた。

(俺が言えることは……。)

思うより先に、俺は言葉が出た。

「できた、じゃないか。」

「え?」

「人に伝えるってこと。俺は、広末の昨日の言葉、忘れてない。」

「池田くん…。」

「だから、その…俺も信じたし、こうして守れた。…俺も、疑り深い性格なんだけど…な、こうしてお互い様じゃないかな?」

ぐちゃぐちゃだが、俺は言い切ってみた。

俺は救われたような気がしていた。

自分の気持ちが晴れたような、なんというか…。

それは、広末も同じのようで、

「…よかったです。」

また、微笑んでくれた。

…正直俺は引っ込み思案みたいな奴が嫌いだ。自分がそうだからだ。けれど、広末は違うような気がした。その弱さを自ら露呈しても、俺に伝えられた不思議な強さを感じた。


俺らは、徐々に言葉を交わし始めた。

「いつも、ここで何をしてるんだ?」

「…えっとね、本を読んだり、こうして夕日を見てたりしてます。」

「俺も、同じような感じだよ。たまに音楽を聴きながら、ぼうぅと…ははっ、暇人だろ。」

「私は立派な趣味だと思いますよ、それも。ひとりでも、楽しくいられることは、良いことですよね。」

「…そうだよな。俺にとってこの場所にいられることが、1番幸せだったりするかな。」

それは俺の本心だった。心の中で、昨日の言葉が繰り返されるようにー。

「私も、ここにいられれば幸せです。あ、もちろん学校や、お家でもですけど。」

「広末の家は不動産屋だったよな?」

「はい。今度遊びに来てください。」

「不動産屋に遊びに行ったことなんてないけどな…。」

「確かに、そうですよね。」

俺らは同時に笑っていた。お互い、楽しい笑いができたように思えた。

広末は、俺が思っているより無垢で、純粋で、ホントに素直なやつだった。

こうしていることが楽しかった。

…気がつけば、あっという間に辺りは暗くなり始めていた。

「じゃあ…そろそろ、帰ろうか。」

「そうですね。帰りましょう。」

俺らはまた、一瞬に帰り始めた。

「じゃあな。えと、その、また明日。学校で。」

「はい。…そうだ、池田くん。」

「ん、どうした?」

「私、海浜祭、楽しみにしてます。クラス委員長、頑張ってくださいね。」

広末はそう言って微笑んだ。その笑顔は、周りの暗闇を取っ払うほど明るく見えて、

…俺はつい見つめてしまった。

「…はっ。あ、そう、だな!俺も楽しみにしてるよ。」

(狼狽えてる俺、恥ずかしすぎだろ)

軽く手を振り、俺は広末と別れた。

……手を振るなんて。

俺はついニヤけてしまった。なんたるニヤけ顔だろうか…。

「あ、6時過ぎてる…やべぇ永瀬が来てるな!」

俺は急いで家に戻ろうとした。

「…っと。」

でも、足が進まなかった。

さっき広末と過ごした時間の余韻に浸るかのように、俺はすっかり暗くなった夜空を見上げながら、歩いていた。


案の定、家に帰ると永瀬がいた。

俺は万が一のために合鍵を渡してある。

「…ただいまー。」

「腹減ったぞコラ。はよ飯〜」

「だからお前はこの家のオヤジかなにかか…。」

ふぅ。確かに俺も腹減ったな。夕飯作らねば。

「お前、どこにいたんだ?」

「え、いや別に…」

「誰かと一緒にいたのか?」

…相変わらずなぜ鋭い。

「いやな、暇だから高台公園にいたら、思ったより時間が経ってた、それだけだ。」

…バレバレ?

「…バレバレだ。わざわざ高台公園に行って1人で夜までいることないだろー。…広末さんだろ。」

なぜわかるし…さすが永瀬。

「…うるせぇな、たまたまだよ。」

「たまたまな訳あるか。なんか約束でもしてたわけで?」

「…うーん。まぁ、いいだろ、ほっといてくれ。」

「ほーん。で、お前は広末さんのこと、どう思ってるん?」

「別に何も。ただたまたま話し相手なだけだ…。っホラ、飯できたからはやく食べるぞ。」

「…早いね。」

俺の本心は俺自身もわからないようだ。ただ、今までとは違った感情で、接していたというか、その、…誰か代弁してください、はい。


「お前さ、ガチで海浜祭どーすんの。」

永瀬がいきなり聞いてくる。

食後の俺らは、テレビ前に鎮座して、サッカーゲームをしていた。

「そう言われてまな…。

まぁ俺自身も考えてなかったっていうか…。」

「僕ら今年で高校生活も終わり、つまりこうしてバカやっていられるのも今のうちってことだよ。なんか、こう、できればパーっとなるようなこと、したくないか?」

「…意外と真面目なこと言うな。」

「うるさいねぇ!まぁ、僕だって毎年、海浜祭くらいは楽しみにしてるよ。」

「そうか、パーッと、か。…悪くないよな。」

「そうそう、だからそのノリで海浜コンパ!」

ごんっ。

…ははは。

ホントに、こうしてバカやってられるのも今のうちなのかもな…。

「食品系はどうか?ホラ、お前の女子リストとやらに家庭科得意なやつくらい載ってるだろ。」

「…うーん。それなんだよねぇ。」

「どうかしたのか?」

「いやさ、うちのクラスは比較的家庭的な女子は多いんだろけど、1つ問題があってねー。」

「問題って?」

「毎年、運動部がの有志団体独占してんだ、食品系は。」

「…そうなのか。」

「そそ。それでさ、なんか暗黙のルールじゃないけど、クラス団体は演劇か最悪ポスターセッション。うちの学校の海浜祭が不人気な理由がそこにあるんだけどね…。」

1人で喋り続ける永瀬。その微妙な鋭さをどこかに生かせないのか?

「…。遥也、聞いてるか?」

「ああすまん。…もしも、演劇だとしたら、何がある?」

「終わってしまった世界の女の子が主人公の…。」

「それ、ゲームのパクリな。」

「なら、夜の街で不良との恋に落ちる少年少女たちの…。」

「それ、ウエストサイドストーリーな。」

「かわいい女の子がたくさん出てくるやつ…。」

「それ、ただのギャルゲーな。」

(もはや演劇にならねえって…。)

まぁ俺らじゃ答えは出るわけない。

「とりあえず、恵と相談だな。」

「そうだな。よし、永瀬、お前をクラスのイベント係にさせるわ。」

「…今日、俺を飼育係にさせたのはあんたでしょうが。。。」

(広末にも、聞いてみようか…。)

「広末さんにも、聞いてみろよ」

「ふぇえ?」

…このやりとり何回目だ。相変わらず鋭い。

「全く、遥也はわかりやすいねぇ。」

「うるさいな、ただ一個人の意見を聞いてみるに過ぎないだろ。」

「そーだねー。」オイ棒読みすんな。



…。朝になった。あれいつの間に永瀬帰したっけか。

俺は今日もあの夢を見てしまった。

そして、また同じところで目覚める。

「…勘弁してくれよ、ってか。」

今日は金曜日、塾の日だった。

上辺だけ予習した塾の問題集と、ノートをカバンに追加した。

「って、まだ6時か。」

おはよう日本レベルに起きたのか。

(朝も、あそこにいたりするんだろうか…。

…。

ぶんぶんっ。

「寝よ。余裕で1時間あるし。」

俺はまだ春の暖かさに寝ぼけているだけだと、自分をたしなめるようにして、再びベットへ潜り込んだ。



謎の夢、ここで登場させて頂きました。

読んだ方は、この冒頭部分にクエスチョンマークがついたことと思われます笑。

…えっとですね。これからもちろん、ここの内容に触れるので、待っていてください。(^.^)

次話以降も読んでいただけると光栄です。これからもよろしくお願いします(^^)

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