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side story  作者: enzymes
第1章 春の彩り
2/4

第2話


『あ、明日もこの場所に来ますか?』

『え…』

『私、この場所が大好きなんです。何か、いろんなこと忘れられて、すごく落ち着くんです。だから、その、、、池田くんも一緒にいてくれると嬉しいかなっ…その、思います。』


…ゴボゴボ。

「ぬぁぁぁぁぁ!パスタ沸騰スルゥゥゥ!」

…夕方の出来事を思い出していたせいか、俺はボケっとしていた。

「はぁ…俺も大概に気持ち悪いな。」

なぜだろう。広末と会話することにあまり抵抗がなかった。彼女が素直だったからだろうか。

「…まぁ、生徒手帳返せたし。」

ふう。ため息をつきながら、俺は夕飯を作っていた。

すると、インターホンが鳴る。

いつものことだ。1人暮らしをしている永瀬は夕飯を食べに来るのだ。

俺は幸い、料理を作ることが好きだったから、こうやって1人暮らしできているが、永瀬は包丁の1つも握れないほどの家庭科系のオンチだから、しょうがない。まぁ、永瀬の家庭の事情を顧みれば、俺がどうこう言える事ではないし。

永瀬の両親は、すでにいない。

永瀬がまだ幼い頃、事故で亡くなったそうだ。たまに親戚が家に来て世話を手伝ってくれる程度らしい。

ああやって明るく、バカをしている永瀬だが、よく考えてみればよく1人でよくああやっていられるな、とつくづく感心している。


てなわけで、…永瀬がやってきたということだ。

「よ、夕飯できてるか。」

「お前は仕事終わりのオッサンかなにかか…。」

「ふぃー、この家は落ち着くぜ。」

「なおさらオッサンみたいだな…。」


食卓に夕飯を並べ、俺らはテレビを見ながら食事を始めた。

「お前、まだ生徒手帳あるか?ちょっと見せてくれよ〜秘めたるなにかが、入ってるかも。例えば、永瀬くんへの愛のラブレターとか!」

「んなもんあるわけねぇだろ。というか、そのことなんだが…。」

「なに!今夜のオカズだから離したくないって?なら仕方ないか…」

「夕飯の中に毒入れるぞコラ。」

「んはは、冗談だよ。んで、その事ってどうしたんだ?」

「ええとな、あの後さ、広末に会ったんだわ。」

「は?どうやって…はっ。まさかお前、『この生徒手帳が欲しくば今すぐここで…』とか脅したのか?」

ごんっ。まぁとりあえず殴ろう。

「シバくぞコラ。そんなふうじゃなくて、ガチでたまたま会ったんだよ。」

「どこで?」

「◯公園だ。」

「んで、渡して帰ってきたわけで?」

「ああ、それだけだ。」

(その後の事は恥ずかしくて言えねぇよ…)

「く〜っ、つまんねぇなぁ。」

「何が。」

「住所とか、聞かなかったのか?」

「ああ、◯丁目の不動産のとこらしい」

「はえーっ。社長令嬢か!」

「かもな。言われてみればそうなるな。」

「これは玉の輿に乗るチャンス…」

「…ホント、お前の素早く汚い思考回路に合掌。」

夕飯を食べ終わり、たわいのない会話をし、あっという間に夜も深くなる。

「じゃあな、そろそろ俺も帰るわ。」

「ああ。寝坊すんなよ」

「おまいは親か。わかったよ。」

…ふっ。

「んで、お前は広末さんに恋したわけだな?」

「…は⁈ そんなわけないだろ」

「ほーん」

「だから勝手にストーリー伸ばして鼻の下伸ばすなよ」

「まぁまぁ。わかったよそんじゃまたな」

バタン。永瀬はそう言って帰って行った。

…相変わらず鋭い奴め。

は?いや違う、そんなわけ、

そんなわけない……。

「よし、おっさんのとこに野菜もらいに行くか…。」

気を紛らすように俺はおっさんの八百屋へ向かった。


俺も永瀬と同じく両親を亡くし、このように1人暮らしをしている。


もう10年以上前のことだ。

母親が、病気で死んだ。

もともと病弱で、入院暮らしばかりだった。

父親はひどく苦しんだ。

勤めていた会社を辞め、結局見つけた働き口が、離れた都市の運送会社だった。住み込みで働ける団地持ちだったからだ。

父親も、この街から離れたかったのかもしれない。自分の愛する人を失い、悲しい思い出が残るこの街から逃げるように。

父親は俺のために一生懸命に働いてくれた。昼夜を伴わず。

家に帰ってこれない日が何日も続くことが何年も繰り返された。

そして…。

父親も、母親のところにいった。

勤務中に急性心臓発作。そのまま帰らぬ人になったのだ。


もともと母親とは、病院で限られた時間しか過ごしていなかったため、親という親は父親だけだった。

そんな父親を失い、どうしようもなかったところを救ってくれたのがおっさんこと、迅さんだった。

おっさんは、この家の隣の八百屋だ。

父親とは高校時代からの親友で、ずっと仲良くしていたらしい。

おっさんは、俺を気にして、なんと親代りになってくれた。

そして、このアパートを借りてくれた。

だから俺は生活していられるのだ。


おっさんは、毎晩売れ残った野菜や果物を俺にくれる。

「お疲れ、おっさん。」

閉店後も店前で作業しているおっさんに俺は話しかけた。

「お、遥ちゃん来たか。ちょっとそこのタマネギの段ボール、とってくれるか。」

おっさんは本当に元気だ。おまけに町内会でも活躍とは、無尽蔵のスタミナがあるように思える。

俺は店の片付けを手伝い、おっさんから野菜を受け取った。

「きょうは良い春キャベツが来てるんだ、やるよ。」

「ありがとう。キャベツか…焼きそばにできるよな?」

「そうだな。てか遥ちゃん、料理作ること多くなったなぁ」

「まあね。そろそろ独り暮らしもマスターしないと。」

「ふん、大人ぶりやがって。守りたい人のひとりでもできたか?」

「ぶっ…なわけないよ。」

「冗談冗談。じゃあまた明日な。」

「うん、おやすみ。」

…なんだ急に。変なこと言われて焦ったじゃないか。


アパートに戻り、俺は溜めていた春休みの英語の宿題を終わらせようと、シャーペンを持った。

…何分か経った頃。

【和訳せよ】

’I want to eat peach made in Yamanashi‘

「えっと、…私は山梨産の桃が食べたい、か。」

カキカキ。

…桃。

「確か、広末の下の名前は‘モモ’カだっけか…。」って俺はなにを考えているんだ。集中集中。

…なんか、みなさん酷くないですか?


更に何分かして、珍しく携帯に電話が来た。恵からだった。


「よぉ、電話なんて珍しいな。」

「あんたがLINE見てくれてないからでしょ?どうせ宿題にでも追われてるわね?」

「さすが、よくわかるな…。

んで、どうかしたのか?急用か?」

「いやね、そういうわけじゃないんだけどさ。明日多目的時間あるじゃない?そこで係決めすると思うんだけど、あんたさ、私とクラス委員長やらない?」

「はぁ?どうして。」

「どうしてって、その…さ。あんたくらいしかまともな男子いないからよ。」

「いや、勉強できるやつとかにやらせときゃいいだろ。」

「そーゆの私は信用できないわー」

「ほーん、俺なら信用できる、ってか?」

「ち、ちがうわよ!あんたくらいしか駒にならないからよ。とにかく、お願いだから立候補しなさいよね。」

「…ま、どうせ生徒会も続けるし、兼任してればやりやすいか…。」

「じゃ、よろしくね。ふふふー」

「…お前ほんと人使い荒すぎ。」


…。恵との会話もいつもこんなだ。

幼馴染の恵とはどんなことでも馬があった。男女の関係なく、俺らはなんとなく、ずっとこうして来たからだろうか。俺も、そんな恵と会話したり、いろいろするのは嫌いじゃなかった。

むしろ、再転校してからはいろいほ世話になっている。

「思えばここに戻ってきてからちょうど1年か…。早いな。」

恵と再会、そして永瀬と出会ってから丸1年経ったことを実感していた。

(…今日はいろんなことがあったな。)

やべ、宿題早く終えないと月曜から夜ふかし見れないから早く終えないと。

俺は再び、宿題に向き合うことになった。

…LINE着信。 From永瀬。

『広末さんの夢を見ろよー』

うん、既読無視を実行しました。

「…それならまだマシだけどさ。」

俺は時折変な夢を見る。

幼少時代の俺のような姿と、そばにあるもう1人の影。それは、誰かわからなくて、けれども面影があって…。謎すぎて思い出したくもない。

何の関係があるのか、どこかに繋がりがあるのかも不明な夢だ。

「今日は安眠したい…。」

俺はそう思いながら、適当に終わらせた宿題をカバンに詰め、寝ることにした。


マイページに、登場人物を載せておきました。よろしければそちらも拝見お願いします^ ^

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