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飛ばしてもOK

澄み渡る晴れ空の下、少年はそれとは対称的に沈鬱な表情を浮かべていた。

市街地にそびえ建つ地上40階の高層マンション。

その屋上中央に少年は立っていた。


吹き付ける強い横風に、備え付けられている貯水槽が煽られぎしぎしと悲鳴を上げている。

少年は風に足を取られながら、鉄柵の方へと向かう。

胸元ほどの高さの鉄柵に手をかけた少年は、力を入れて体を持ち上げる。

死線の高さが上がることにより飛び込む景色に思わず腕が震える。

そのまま力が抜けてしまわないように、少年は視線を手元に移して堪える。

その勢いのまま、今度は高所に震える右足をよろよろと持ち上げ鉄柵にかける。

最後に残った左足も地面から離し、身体を鉄柵に載せる。

風が弱くなるのを待ってから、少年はびくつきながら体を下ろした。

背に回った鉄柵を両手で掴みながら、少年は顔を上げれば再び少年の身体を震わせた景色が視界一杯に広がる。

住宅やビルで埋め尽くされている景色の奥には、少しだけ海も見える。

少年が生まれ育った町だ。


思い出したように強くなった風を全身で受けながら、少年はみっともなく震える体を叱咤し、覚悟を決める。


この身を投げ打つ覚悟を。


部活動も上手くいかず。

好きだったクラスメイトへの思いも叶わず。

勉強も、友達も、趣味も。

何もかもがうまくいかない。


そんな、よそから見れば大したこともない理由で少年はここに来た。


苛め抜かれて悩んだわけでもない。

身内や知り合いが死んだわけでもない。

病気で余命を宣告されたわけでもない。

全くくだらない、薄っぺらな理由。


少年は自嘲する。

自分は、些細なことで自分の命を放り棄てるクズ野郎であると。

確かに、とるに足らない些末な悩みしか少年は抱えていない。

しかし、少年はそれ以上に退屈だった。


特に夢や希望もなく。

ただ漠然と日々を過ごし。

やがて大人になって働き。

大した活躍もせずに衰えて。

やがて死ぬ。


そんな人生に意味なんてあるのかと、少年は毎日自問自答していた。


「生きてさえいれば何とかなる」

「夢はいつか見つかる」

「生きることこそが人生だ」


有名人や先生たちは皆そう言う。

少年がもう少し、身も心も大人であったならば、その意味も分かったかもしれない。

しかし、今の少年の心には何も響かない。

いくら考えても時間の無駄であると、少年は思考を止める、


同時に鉄柵を掴む手の力も抜けて、あっさりと、少年の身体が宙に放り出される。


重力に従い落ちていく少年。


それに比例して近づく地面。


ようやく芽生えた死への恐怖とともに、少年はこの世界から消滅した。


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