表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

月光の宿る日

作者: ろくろく

 おい。今日の月は「何月」だか分かるか?

 何月かは訊いてねえよ。月の形だ、訊いてんのは。

 わかんないですじゃねえよ。分かんないなら自分の目で確認しな。今の時間だったら月も見えるだろ。

 …………わかったかい? 

 なに? 見えないです?

 そりゃそうだろうな。今日は新月だからな。見える方がおかしい。

 騙しましたねって、お前、カレンダー見ればよかった話じゃねえか。いくら今の時間帯で月が見えるからって月を見つけられるとは限らねえしな。カレンダーで確認するのが一番手っ取り早い。

 ああもう、うるせえな。お前を騙した騙さないはどうでもいいんだよ!

 今日お前だけを呼んだのは、うん、入社試験だな。

 お前、不思議じゃねえか? うちの会社、いくら「なんでも屋」だとしても人数がもっといてもいいと思わねえか?

 それよりも事務所の奥の部屋が気になる? うるせえな! 確かにあの部屋の中はお前には見せたことはないが、今はその話じゃないだろうが!

 とにかく、今では兄貴……ああ、お世話になっている探偵事務所の所長だよ。義兄弟なんだ。今知ったのか? まあいいや。

 兄貴の事務所は業界でもなかなかデカイ。県一と言ってもいいかな。関東とまではいかないが。その兄貴のところの仕事がこっちにも舞い込んで来るからうちもとっても忙しい。それはお前も知っているよな? じゃあなぜ、ここのを人数を増やさないのか?

 なんでも屋っていうのはそれなりのノウハウもいるが、やっぱり才能なんだよな。常人では無理という事がある。お前にはいまだ任せていないが、殺人現場の後処理というのがたまに来るんだぜ? そういう血生臭い仕事の他にも、常人には理解しがたい仕事がほんのたまに依頼される。『なんでも』屋だからな。ろくなもんじゃないぜ? そういう仕事は。本当に。

 さて、そういう仕事をするもんだから才能、じゃないな、やっぱり。適性かな、が必要になって来る。なかなかそれがある奴がいないんだな。だから、ここの人数が増えない。

 分かるだろ? お前にそれがあるのかどうかを試験する。

 お前、舐めているようだが、この試験のおかげで今までこの仕事を止めた奴はいない。すごいだろ? いくら給料が安定しているっていっても、なんでも屋っていうのは結構人がクルクル変わるもんなんだぜ?それだけ試験の精度が高いっていう事だ。身を引き締めろ。まあ、身を引き締めてもどうにもならないけどな。

 ……急に話は変わるが、俺がどうしてこの仕事を始めたかを話しておかなければならない。そうじゃないとお前がこれからの試験に耐えられないかもしれない。

 どういう試験なのかを今のお前に言ったって仕様がねえよ。どうせ信じないからな。

 信じさせるために、俺の身の上話をするんだ。

 ……まず、俺と兄貴は泥棒だった。

 信じてねえな? 証拠だってあるんだぜ? これから話すことにも。

 まあ、とにかく泥棒だったんだ。俺たちは。それなりに金になりそうな所にたくさん侵入して、盗った。

 お前まだ信じ切れてないようだが、俺や兄貴が刑務所に入ってたなんて話がないのは警察に捕まってないからであって、泥棒なんてやっていなかったからじゃないからな。優秀だったんだ。俺たちは。

 そんな優秀な俺たちが大仕事をすることにした。その日盗みに入ったのは、お前も知っているであろう○○の別荘だ。

 ……どうせそんなことだろうと思ったよ。○○は芸術家さ。高齢のおじいちゃんだ。最近亡くなってニュースになっていたからお前も知っているだろうと思ったんだが。まあ、作品が売れ出したのも十年くらい前だしな。覚えてないんだろう。

 俺達が盗みに入ったのも十年くらい前。そう、注目されていたから盗みに行った。それだけさ。

 別荘は山奥にあったから、それ程緊迫感みたいなのは無かったな。○○も海外で展覧会があったから日本にいないはずだし、人もやって来ないだろうということで車の荷台にどんどん積めていこうってなった。

 作品がいっぱいあった。俺は正直驚いたね。なんでって、別荘だろ? そういう作品は実家の方にたくさんあるんじゃないかと思っていたから、作品が廊下にも所狭しと有るのには驚いた。きっとあの別荘はアトリエだったんじゃないかと思う。

 別荘は二階もあった。二階に風呂やキッチンがあったから二階で生活していたんじゃないかな。二階には見たところ作品は無かったから俺たちは一回上がった後はもう行かなかったよ。

 一階に一部屋だけ開かない部屋があったんだ。俺たちはその時、たまたま人が通って、なんだか不審だぞって思われて警察を呼ばれることがただただ怖かったから、後で時間があった時に開けることにしたんだ。

 その日は新月だった。

 別荘の中はなぜか一階に電気が通っていなかったんだ。二階には電気は通っていたさ。○○が一階に電気を通さなかったんだろう。芸術家っていうのは本当に意味が分からない。

 だから、一階は真っ暗だった。懐中電灯がなければどうしようもなかったなあ。階段のところの電気を点けてどうにか明るくしようとしたんだが、駄目だったね。どうしたって一階の部屋は真っ暗になる。明り係と運搬係に分かれるしかなかった。

 真っ暗なだけじゃないぞ。○○は人形作りなんかもしてたから、人形がそこらじゅうにあった。人形が冷たい瞳で暗闇の中、こっちを見てくるんだ。人形が視界に入るとビクッてしたね。まあ、それも、乗せられるだけ乗せていったんだけどな。

 日が登る前に退散して拠点まで戻ろうってなったんだが、めぼしいものを全部運び出し終わった時、かなりの時間があった。そこで、さっきの開かずの部屋さ。開けようってなった。

 兄貴が工具で開かずの部屋のドアノブの部分を壊して、扉を開いたんだ。

 中は殺風景だった。一面コンクリートさ。正面に窓があるくらい。月の明かり窓から部屋の中を照らしていた。

 その時、兄貴がうおっなんて頓狂な声を上げた。

 続くように俺もその存在に気付いて同じく声を出したね。

 そこには壁に寄り掛かってだらんと座っている白いワンピースの女の子がいた。

 俺たちは女の子に驚かされた後なんだ人形か、なんて思っていたから、女の子が声を出した時は腰が抜けそうになったね。急に

 「あんたたち泥棒?」

って聞いてきたんだぜ?

 俺たちは何とか答えられる状態になってそうだって答えたんだ。

 女の子はさらにその後、

 「泥棒は止めた方がいいよ。向いているけど、別の事でも絶対に生かせるし、そっちの方が生かせる」

 何故分かるのかと訊くと、

 「光が見える」

 そう言ったんだ。

 「あんたたちの中にそういう『光』が見える。確かに『光』があるよ。だけど、泥棒は止めた方がいい」

 俺たちは混乱してしまってね。開かずの部屋だと思っていたら女の子がいるし、しかもその女の子に突然泥棒を引退しろって言われて、なんだか納得いかなかった。

 それより大変な事がある。俺たちの姿を見られてしまった事だ。これは大変なことだぞ。泥棒やっている時に姿をはっきり見られてしまったんだからな。警察なんかに通報してこの姿の情報を渡されちまったら、確実に逮捕される。俺たちは女の子を殺そうと決めたね。

 だけど、なんか引っかかっていた。女の子のさっきの言葉さ。なんで、あんなこと言ったのか、気になった。俺たちは本当は泥棒なんてやりたくなかったからな。なんとなくやっているだけなんだ。きっかけがあれば止めたかった。

 だから、俺たちは女の子に証明しろと言った。泥棒を止めた方がいいちゃんとした理由を言え、そうすれば乱暴はしない。そう言ったよ。

 女の子は証明したよ。

 どうやって? 俺たちの長所短所を的確に言い当てたのさ。俺たちの知らないところまでね。俺のはどういうだったかなんて言わねえよ。恥ずかしい。人の長所短所さ。彼女の言っていた『光』っていうのはそれなんだと思う。

 女の子は最後に言った。

 「『光』を見る限り、あんたたちは泥棒として優秀だよ。優秀すぎて、限界が分からない。大事な物を盗んだあともっと大事な物を、ってなっていくよ。そうやって盗み続けているうちに、いつか捕まる時が絶対に来るんだ。それは大変な事をしでかしたときだ。その後はもう自由にはならないよ。一生檻の中だ。絶対にそうなる。泥棒なんてしていたらね。そういう『光』だ。あんたたちは生きているんだ。人生をそうと決まってゴミにするより、楽しい方がいいと思うよ」

 その後すぐ別荘から退散した。女の子には何にもしなかった。○○の作品はその道の奴に売った。それで終わった。俺たちは女の子の言うとおりにした。泥棒を止めたんだ。俺たちは俺たちの『光』に合っている職業に進んだ。その結果が今の俺達さ。

 なんだお前、納得していないな?

 もちろんこれだけじゃない。俺達があの女の子を信用したのにはな、もっとちゃんとした理由があるんだ。

 ……女の子はやっぱり人形だったんだよ。

 なんでわかるのかって? 

 瞬きをしていなかったんだ。あの場で俺たちと向き合ってから、ずっと。

 ありえないだろう? 人間だったら瞬きは絶対にするはずなんだ。一回すらしなかった。瞬きをたった一回すらしなかったんだ。

 それに、さっき部屋の中を月の光が照らしていたって言ったよな?

 おかしいんだ。その日は新月だった。月の光なんてあるはずないんだ。だが、確かにそういう光だった。ライトじゃない。月の光だよあれは。

 そうとしか思えない。そうだったからこそ俺たちは信じたんだ。

 あの部屋にはあの晩、なにか不思議な事が起こっていたんだ……。

 …………まだ、信じていねえな。

 まあ、いいや。大体、分かっただろ。そういうことだ。奥に移動するぞ。

 なんだ? もしかして、まだ分かってねえのか?

 なんで俺の身の上をお前に話したのか、なんで事務所の奥の部屋が開かないのかも、まだ分からないのか?

 苦労したんだぜ? ○○の作品はみんな超高値だからな。

 今日は新月だ。


 小説を書き始めたばかりなので、ところどころにおかしな箇所があるかもしれません。そこんところご了承お願いします。(>_<)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ