第1話 微笑む闇
小説初投稿です。
思いつきで書いたものですので続くかどうか私にも分かりません。完全に見切り発車です。
私はとても気まぐれなので、「書きたいときに書く!」という感じです。
マイペースにやって行きたいなと思っております。
自己満足な作品なので、テスト投稿だと思っていただければ幸いです。もしかしたら続くかもしれません。
こんな駄文でよろしければどうぞ、暇つぶしにでも読んでいってください。
俺は嫌いだ。嫌いだった。あいつのことが憎たらしくて仕方がなかった。
ずっと昔からそう思っていた。俺の邪魔をしてくる、嫌なやつだと思っていた。
あいつは、悪者だ、と。
そんな子供じみた考えのまま、俺はいつの間にか大人になっていた。
「司令官、客人がお呼びです」
ノックの後に扉の向こうから若い男の声がした。
俺はその声にハッとし、咳払いをひとつした。
「ああ、今行く」
俺は返事をしながら立ち上がり、軽く服の皺を伸ばしてから部屋を後にした。
廊下に出ると、先ほどの声の主であろう若い男が立っていた。部下の 間藤だ。堅苦しいスーツに身を包み、ピンと姿勢が伸びている。顔つきは悪くないが、吊り上った眉が彼を真面目そうな印象にさせている。
「間藤、客人は通しているのか?」
俺が彼に呼びかけると、少しビクリと怯えたように小さくなったような気がした。
「はい。すでに部屋に通しております。どうぞ、こちらへ」
しかし、いつも通りにハキハキと話す間藤。今のは俺の気のせいだったのだろうか。
彼が案内をしてくれるので、大人しくその後を付いていく。
広くて長い廊下を歩き続ける。壁や床は白で統一されていて、どこを見ても埃一つなく、いつもピカピカに磨かれている。壁には、誰が書いたとも知らない風景や花の絵画がところどころに飾られていて、ここは王族の城かと言いたくなるようだった。
歩いている途中で、そういえば客人の名前を聞いてなかったことに気付いた。
「ちなみに客人は誰なんだ?」
普通に聞いただけなのだが、俺の前を歩く間藤は一瞬立ち止まった。が、何事もなかったように歩き出した。
「……答えた方がよろしいですか」
少しの間があってから彼はそう言った。
「そりゃあ、当たり前だろう」と笑い飛ばそうとした。
けれど、真面目な間藤がこんな冗談を言うとは思えない。彼とはかれこれ5年の付き合いだ。まだ若くて未熟ではあるが、根は賢くていいやつだ。
こんなわかりきったことを聞いてくるなんて。と思っていると、気がついたらもう応接室の前まで来ていた。
タイミングがいいな、とちらりと彼を見やると、慌てたように「中で客人がお待ちしています。それでは、失礼します」と言い放ちその場を去った。うまく逃げたな。
はあ、と短くため息をついて、仕方ない、と応接室に入ることにした。
普段なら客人が誰か教えてくれるというのに、今回は教えてくれないなんて随分だな、なんて思いながらドアノブを握る。
それにしても、あの真面目な間藤が名前を言いたくないなんてよっぽどのやつじゃないか――
俺はそこまで考えて、嫌な考えが浮かんだ。
いや、そんな、まさか、
ドアノブをひねりながら押す動作がこんなにもゆっくりに感じられたのは初めてだ。
脳裏に浮かぶのは、思い出すのも嫌な憎たらしいあいつの顔。
変な汗が背中を伝うのがわかった。
ゆっくりといつもより重く感じる扉を開けると、そこには、高級そうなソファに座る体格のいい男が紅茶を飲んで待っていた。
――俺の予感は的中した。
「やあ、浅賀くん。待っていたよ」
俺は嫌いだ。嫌いだった。その子供のような作った笑顔が憎たらしくて仕方がなかった。
馴れ馴れしく俺のことを浅賀くんと呼ぶ彼が、彼こそが俺の、宿敵だ。
「……琴山」
俺がそいつの名前を口にすると、奴はにこりと笑った。
琴山は愛想のいい笑顔を浮かべているにもかかわらず、どこか冷ややかだった。こいつの笑い方はいつもそうだ。
俺は気を取り直し、琴山を睨み付ける。
「用件は何だ」
「まあ、座ってよ」
扉の前に立ったままだった俺は琴山に促されて仕方なく彼の前のソファに座る。
琴山とは敵対している組織、まあ、国、と言った方が良いだろうか。
この世は昔と比べて冷酷になった。日本の借金が膨大に膨れに膨れ上がって、欧米などの外国にかまっている余裕がなくなった。その結果、日本というひとつの国が国内でばらばらになってしまったのだ。日本国内で組織という小さな国のようなものが次々に作られ、資源や金を巡る組織同士の戦争が勃発したりしている世の中になってしまった。現在、日本は不景気を通り越して貧乏という状態である。
俺は俺たちの組織の最高司令官であり、琴山は俺たちの敵対している組織の最高司令官なのだ。
そんな組織のトップが自ら敵陣営の本拠地にのこのことやって来るなんて、自爆行為に等しい。何をされても文句は言えない状況だろう。
それなのに、そんな状況で余裕の笑みを浮かべる目の前の男に俺は眉を顰めずにはいられなかった。
「今日は、別に戦いに来たわけじゃないんだからそんな怖い顔しないでよ」
目を細めて微笑んではいるが、その目は笑っていない。
「…じゃあ、」
何しに来た、という前に琴山のほうが先に口を開いた。
「僕たち、手を組まない?」
「……は?」
やつの口から出た言葉の意味を理解するのに少し時間がかかった。
彼の顔は相変わらず微笑んでいる。
俺はまさに開いた口がふさがらないという状態だった。きっと、琴山から見たら間抜け面で愉快だったことだろう。何という屈辱。
「僕の組織と君の組織とで力を合わせるんだ。二つの最強組織が協力したらもっと強くなれると思うんだよ」
「自分で最強とか言うかよ」
「いいじゃないか、だってそうだろう?」
机に肘をついて両手を組み、その上に自分の顎を乗せて、開き直った琴山。
確かに、こいつの言うとおり、俺と琴山の組織は国内最強組織である。
しかし、どちらとも同じくらい強いので、俺たちの間ではそれが問題となっている。だからこんなにも俺たちはピリピリしているのだ。
「とにかく、お前が俺と手を組みたいことはわかった。…だが、目的は何だ」
たとえ、琴山の組織が俺以外のほかの組織を襲撃するのなら別に俺の組織と手を組む必要もないわけだ。
俺が鋭い目つきで先ほどと変わらない顔の琴山を見つめる。睨むともいう。
琴山はゆっくりとした動作で紅茶を飲む。カチャと静かに音を立てながらカップをソーサーに戻すと、足を組んでその上に両手を置いた。
そして、いつもの微笑を浮かべた。
「君と僕のためだよ」
彼の口は不気味に弧を描いていた。