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涼しくなって来ました。
「円城寺さん。高橋祐輔君がお茶席に招待してくれたの。もちろん手伝ってくれるよね?」
登校早々にヒロイン様より告げられる。
なんか私が手伝うのは決まりみたいな言い方に少しカチンとする。
「美由さん、お茶のお作法は習ってらっしゃる?お着物はご自分で着れますか?」
私の言葉にムッとした表情をする。顔に出すなんて他者につけこんでくださいと言っているようなものですよ。
「そんなの出たことあるわけないじゃない。着物だって着たことないわ」
まぁ、普通お茶でも習っていないなら出る機会とかないよね。着物も一生に数えるくらいしか着る機会はないから着せてもらう方だろうね。
「お茶席はいつですの?着物はお持ちですか?」
「お茶席は来週の土曜日よ。着物なんて今まで七五三くらいでしか着たことなかったからないわ」
そんなに時間がないわね。高橋様ったら美由さんと接点を持とうとされて焦っているのね。
美由さんのこと考えてらっしゃいます?
「ではそれまでにお作法と着付けの特訓ですわね?」
にっこり微笑むと美由さんは唖然とした顔をしたあと猛然と私に食ってかかってきた。
「そんなの貴方が一緒に行って教えてくれればいいじゃない。着物だって貴方が着付けてくれれば…というかプロに頼めばいい話でしょ?」
私の予定の有無とか丸無視ですか。確かにプロに頼めばいいと思います。でも着崩れしてきた時周りにプロが必ずしもいるとは限りませんのよ。自分で着付けが出来るほうが微調整が細かく出来ますしね。
「ある程度お作法は練習しませんとぎこちなさで他の方に不慣れなことがわかってしまいますのよ。
着付けもプロの方でもよいですが自分で着付け出来ますと微調整が出来て長時間着ていても苦しくないですし、着付けの練習をするうちに着物に着慣れてくるというのもありますわ。着物の時に普通の歩き方などしたら裾から着崩れてきますわよ」
あらあら、めんどくさいって顔をしない。玉の輿に乗るぞっていう方が…。
お茶席なんて頻回にあるんですよ。特に副会長様相手なら。
副会長こと高橋祐輔様のお母様のご実家は茶道の家元だからお茶席は数え切れないくらいにはあると思います。
「高橋様のお母様のご実家が茶道の家元なのですよ。もちろんこのお茶席にもお母様はいらっしゃると思いますわ。多少は嗜んでいると思われるくらいには練習された方が宜しいわ」
「私…祐輔君に断ってくる」そう言って教室をヒロインは出て行った。
一度は承諾したのに断るなんて…余程努力が嫌いなんですねヒロイン様。
それにしても高橋様は女性不信という設定だったはずですが…たしかそのお母様が結婚前に好きな方がいたのに政略結婚で高橋様のお父様に嫁いで高橋様を産んだけれど、子供に対する愛情が持てず放置。いくら高橋様が母親を求めても拒絶して、高橋様は年配のお手伝いさんに育てられて、その頃のお母様と同じくらいの女性が嫌いというか、もう憎悪レベルまでになってしまったという設定だった。
その高橋様を惹きつけているんだから、さすがヒロイン様。
でもそこまでの憎悪の深さ故に執着心も強くて副会長はヤンデレではなかったかしら。
副会長を滑り止めにするなんてヒロイン様チャレンジャーだったのね。
さてさてお断り出来るのかしら?
今日は敬老の日。