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9月になりました。
久しぶりに会長こと宮脇康孝会長に会った。
「ごきげんよう、宮脇様。お忙しいようですね」
「沙耶か…。久しぶりだな。美由から色々相談に乗ってもらっていると聞いている。これからも美由のことを頼む」
「まぁ!あの康孝様が私に『頼む』だなんて…。大人になって」
ニヤニヤしながら言うと、照れたようで
「同い年じゃないか?からかうな」と少しむくれたように言った。
攻略対象者とその婚約者達とは所謂お馴染みの関係である。
オムツをしているころから知っている。
前世を思い出してからは性格矯正に勤しんだが…少しは改善出来たのかな?
これからどうするのか聞いてみよう。
「康孝様はこれからどうなさるおつもりですか?綾乃様とのことです」
綾乃様とは神宮寺綾乃様…康孝様の婚約者である。
元々才色兼備であったけど宮脇家との婚約が決まってからは以前にも増して語学や経営などの勉強を頑張っている。
「真実の愛を知ってしまったんだ。美由だけが俺をただの康孝にしてくれる。綾乃には悪いが婚約は解消させてもらう。俺は美由がいないと駄目なんだ…」
苦悩をにじませたような表情ですが…
「この結婚の意味はわかってらっしゃるんですよね?」
「もちろん。それはわかっている。しかし美由の居ない未来など考えられない」
「では、後継者は弟の孝義様に譲られるんですよね?康孝様は美由さんとの未来をと望まれているんですから…」
私の言葉を聞き顔色が変わる。
「なんで孝義に譲らなくてはいけないんだ。美由が綾乃に代わるだけだ」
馬鹿ですか?
宮脇と神宮寺の結婚はお互いの家が望んでいることなのに。
綾乃様とあなたが結婚しないなら孝義様が綾乃様と結婚すれば済む話。
あなたでなくても宜しいのよ。寧ろ孝義様の方が綾乃様は幸せになれるかもしれないわ。
後継者の地位と恋もだなんて欲張りすぎよ。
「美由さんは望んでないのではなくて?
地位など関係なく康孝様個人を見てくださるのでしょう?」
皮肉を込める。
「美由には苦労させたくないんだ。俺が宮脇の家を出てしまったら苦労させていまう。ただでさえ小さい頃から母1人子1人で苦労してるんだから」
「結局苦労させてしまいますよ。育った環境が違いすぎます。美由さんは大変苦労するでしょうね。
周りの反対を押しのけてですもの。周りも冷たいでしょうね」
冷たい言い方になってしまうけど『もっと現実見ろよ』である。
それに美由さんのことばかりで綾乃様の立場には何も触れていない。
綾乃様には何の落ち度もないが婚約破棄されたというと社交界では大変な汚点となる。次の婚約話にも影響があるはずだ。そこのところわかってるのかな?
この頭の中お花畑さんは。
「婚約破棄となったらあなたよりも綾乃様に傷がつくことになることわかってらっしゃいます?」
えっ?って顔をしない。
これはよくわかっていなかったな…。
「綾乃様に傷をつけることになるのですから、あなたも後継者を降りて謝罪すべきです」
忠告はさせていただきました。
今後あなたがどうなさるつもりか見極めさせていただきます。