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「絵里花様、顔色も良くてお元気そうですが、体調はどうです?」
今日は天道絵里花様のご自宅にお邪魔している。
絵里花様は、一年遅れて高等部へ入学した。
自宅療養中は、まだまだ病人病人していたけれど、かなりふっくらして顔色も良く心臓の手術をしたようには見えなかった。
「まだ体育は見学ですけれど、ウォーキングしたりして体力をつけているところですわ」
儚げな雰囲気だった彼女が、かなり逞しくなっている…。
「ふふふ。あまり無理なされないようにね」
二人で微笑み合う。
一通り笑ったあと、ふいに絵里花様が表情を引き締め、堅い口調で話し出す。
「沙耶様がお見えになったのは、祐輔様のことですよね?一年にも、生徒会役員と女生徒との噂は広がっていますわ。それだけでなく、各家の対応にも注目が集まってます。祐輔様も後継者の地位を排除されるのではないでしょうか?」
ふわふわした砂糖菓子のようだった絵里花様がこんなに変わるなんて…すっかり大人になって…思わず親戚のオバチャン目線になってしまったわ。
「そうですわね。確かに外されるでしょうね。これは祐輔様だけではないでしょうが、再教育はされると思います。それにより、また這い上がってこれるかどうかは彼ら次第ですわ。各家も自分達の今までの教育が間違っていたという負い目もありますから、彼ら次第では返り咲くチャンスは与えられると思います。与えられるべきですわ。
ですから今、各家に働きかけている所ですの」
私の考えと現在の状況を伝える。
すると彼女は、すこし表情が柔らかくなった。
「すこし安心しましたわ。チャンスも与えられず排除されるのではないかと思いました。そういう噂が流れていますもの」
「彼らは日本有数の企業の御曹司ですから、トップとして間違いなど本来なら許されることではないと思います。でも、まだ彼らは学生ですもの。やり直すチャンスがあってしかるべきだと思いますわ。それを活かすことが出来なかったら本当に排除されると思います」
「私は、祐輔様が心から愛されている人と結ばれてお幸せになれるなら身をひこうと思いました。以前は、こんな身体の者と婚約してくださる優しい方ですから、相応しくあろうと思っていたのです。手術までして胸に傷がありますから、もう祐輔様しか私と結婚してくださる方はいないと思って、すがりついていたのだと思います。
私の幸せより祐輔様の幸せを考えなくてはと思っていたのですが…。他の方とも噂になられていることを知り、私は諦めないと思ったんです」
「絵里花様…。手術の傷を気になさってますのよね?心臓の手術の時、形成外科のドクターに縫合をお願いされましたよね?」
「えぇ、沙耶様の仰った通り、形成外科の世界的権威であるドクターマーティンにお願いしました」
「でしたら、傷はかなり綺麗ではありませんか?」
「確かにうっすらピンク色の線みたいですが…胸の中心にあるので胸元の開いた服は着れません」
「その線も時間と共にもっと薄くなると思いますよ。ドクターマーティンが縫合していなかったら、永遠にドレスは着ることが出来なかったかもしれません」
「私ったら命が助かっただけでも幸せなことなのに、傷のことにこだわってなんて贅沢なのかしら。バチがあたるわ」
「女性ですものそんなことありませんわ。まだまだお洒落したいですし、水着も着たいですわよね?
好きな人に見て欲しいですもの、贅沢ではありません」
「沙耶様色々聞いていただいてありがとうございます。私は祐輔様を諦めません。きっと目を醒まさせます」
若干赤くなった頬を引き締め、決意を込めた眼差しをこちらに向けてくる絵里花様。
「絵里花様がその覚悟であるなら、祐輔様の目を醒ませ立ち直るサポートを全力でさせていただきましわ。再教育はもしかしたらかなり厳しいことになるかもしれませんわ。それでもですか?」
そう告げると決意を秘めた瞳を見つめる。
「はい。沙耶様見守ってくださいませ」
絵里花様のお幸せは祐輔様と共にあることなのね?
できたら祐輔様と絵里花様の未来のために全力を出させていただきます。




