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「円城寺様いらっしゃいませ。絵里花様のお部屋へ御案内します」
天道家の執事に案内され、私は天道絵里花様の部屋へと向かった。
天道絵里花様は祐輔様の婚約者である。彼女は小さな頃から心臓病で最近アメリカで臓器提供を受け手術をし、日本へ帰ってきた。日本の病院にしばらく入院していたが退院して現在自宅療養中である。
祐輔様とは従姉妹の関係で、小さい時から入退院を繰り返していたため幼いというか人を疑うことを知らない無垢な少女だった。
発育も遅れていてとても高校生には見えないだろう。下手したら小学生に見えるかもしれない。
彼女は手術をしたため休学中の扱いであるため同い年であるが学年は下になると思う。
そんな無垢な少女だからか、祐輔様の女嫌いも発動していない。とても庇護欲をそそられるタイプのため、祐輔様は守ってやらなくてはならないと思っていて、とても二人の関係は良好であった。
絵里花様は優しいお兄様と慕っている。まだ淡いものであるけれど…。
「絵里花様お加減はどうかしら?今日は絵里花様がお好きな焼き菓子をお持ちしたのよ」
私は満面の笑顔で話しかける。
絵里花様はまだ顔色は白いけれど頬のあたりがだいぶふっくらしてきた。
「沙耶様~。いつもありがとうございます。沙耶様が持って来てくださるお菓子が美味しすぎて絵里花は太ってしまいました」
ニコニコしながら絵里花様がそう答える。はぁ~。癒やされる~。小さい子はいいわ~(同い年だけど)
かわいすぎる~。私がずっと愛でたい。
ひとしきり絵里花様を愛でる。頭をイイコイイコして頑張っていることを誉める。しばらく撫でる。そうすると絵里花様は気持ちよさそうに目を細めていたが急に我に返ったような表情になった。
「沙耶様。祐輔お兄様はどうされてますか?」
少し不安そうな顔になる。これは、あのことが耳に入ったのかも?
「どうかされました?祐輔様ならお元気ですよ」
しばらく言うか言わないか迷っていたみたいだけれど、私の目を見つめてきた。
「この前のお茶席で祐輔様が綺麗な人と一緒でとても親しそうだったとお茶席に参加した叔母が言っていたので…。沙耶様は何かご存知ですか?」
他の婚約者達に比べて、余りにも無垢すぎて祐輔様を信じているこの少女が一番私は心配している。
まだ恋というにはあまりにも淡すぎて、でもこのまま順調に育っていけば愛に確実になるだろう思いを傷つけないように今のうちに諦めるようにすべきなのか?
少女が大人になるための階段として乗り越えていけるように支えるべきなのか?
絵里花様がまだ見た目のような年齢だったら前者であろう。
でも彼女はもう16歳となる。無垢なままではいられない。
私は正直に話すことにした。
「…というわけで、最初はお母様へのあてつけみたいでしたがミイラとりがミイラになったみたいですわ」
一気に説明して、じっと彼女を観察する。
しばらく唇を噛み締め俯いていたが意を決したように顔をあげた。
あぁ!今のあなたは年相応に見えます。
「沙耶様…私その方に負けません。きっと祐輔様を取り戻してみせます。応援してくれますか?」
そこにいたのはもう可愛い少女ではなく一人の女がいた。
「えぇ!もうあなたは健康になったのだから何でも挑戦できます。勉強も運動も…そして恋も…今までみたいに一歩ひいた態度なんかとる必要なんかないのだから」
私は彼女の初恋を応援する。




