第1話 アミリトス
サミュエルは一人列車に乗り込んだ。テッドとアリシアは来ていない。あれから数ヶ月が経った。親子の関係は、日に日にぎくしゃくしたものになるのを、サミュエルは実感していた。列車には仕事が目的だったり、旅行が目的だったりする人たちが乗り込んでいた。
サミュエルと同じくらいの年の少年が、両親に連れられて乗車した。サミュエルの斜め前の座席に、両親と共に座る。黒い髪をした人が珍しいのだろう。一家は何度もサミュエルの方を見てきた。サミュエルは帽子を深くかぶった。見たくなかった。幸せで平穏な家族を。目を開けていると涙がこぼれそうだったので、目を閉じた。しばらくすると列車はゆっくりと動き出した。列車のゆれを感じながら、サミュエルは短い眠りについた。
「←聖アミリトス」と書かれた看板が駅にたっていた。サミュエルのほかに三人の少年少女がそちらへ向かっていた。彼らは皆金髪だった。サミュエルは彼らについていくことにした。
「君も聖アミリトスに?」
肩にも届きそうな長髪の少年が話しかけてきた。
「あ、ああ。うん」
「へえ。俺はアレックス。アルって呼んでくれ。手紙に天使の息子って書いてあったよ。男なのに天使って。ヘコんだよ」
「俺はサミュエル。皆サムって呼ぶ。天使か神かはわからないみたいなんだ」
アレックスは驚いた顔をした。
「え?それって良いことじゃないか?確かそれはまだ力が覚醒してないってことだよ。覚醒せずに呼ばれたんなら、覚醒したら滅茶苦茶強いってことだろ?かっこいいじゃん」
「アル、迷惑がってるでしょ?」
声のしたほうを見ると、アバンのベランダで見た少女がすぐそこにいた。少女はサミュエルを見ると一瞬動揺したが、すぐにそれを押し隠した。
「はじめまして。私はルーイズ。ルーって呼んで。ちなみに、神の娘」
よろしく、とサミュエルは言った。ルーイズはサミュエルが悪魔だと知っているが、何食わぬ顔をしていた。
「ところでさ、サム」
アレックスが急に話しかけて来た。
「何?」
「あの前の女の子、かわいいと思わないか?」
アレックスが言っているのは長い髪をおろした少女だろう。ぱっちりとした目をしているので男受けはいいだろうなと思った。
「男に好かれる顔だと思う」
「ってことはかわいいでいいよな?」
「うん」
そう言うとルーイズが顔をしかめたのが視界にはいった。
「ほらな。あの子はきっと純粋で思いやりのある子なんだよ。うん」
「バッカじゃないの?何でわからないのかなあ。どう見たって猫かぶってるのは丸分かりじゃないの」
サミュエルは前を行く少女を見つめた。確かに男に好かれるが女からは嫌われるだろう。このような少女はよくいたので特にかわいらしいとも思わないが。
「でもよくいるよ?かわいいけど腹黒とか」
ほらみなさいよ、とルーイズが勝ち誇った顔をした。
「じゃあ聖アミリトスに着いた時に賭けようか?腹黒だったら俺に二人に30G金を渡すよ。でも腹黒じゃなかったら30Gずつよこせよ?」
「まあ素晴らしい。もう着くじゃない」
とたんにアレックスの元気がなくなったのを、サミュエルは見逃さなかった。