第3話 生か死か
家に帰っても、テッドは暗い顔をしたままだった。アリシアはそんな夫の様子に気付いたのか何度も話しかけていたが、テッドは今は話したくないとしか言わなかった。
「俺が・・悪魔・・・・・か・」
先ほどまで黒くなっていた手のひらを見つめる。どうやって戻したのか、自分でもわからなかった。サミュエルはベッドに横たわり、天井を見つめた。
瞼の裏に、金髪の少女が浮かぶ。・・気のせいだろうか。金色の瞳をしていた少女の耳は、細長く、尖っていた。彼女は、神か天使の娘だったかもしれない。
考えても考えても、答えが見つかるわけでもなく、ただぐるぐると同じところばかり歩いているような感覚を覚えた。
しばらくそうしていると、アリシアが叫ぶ声が聞えた。耳を澄ますと、
「冗談でしょテッド!?あの子が・・・あの子が悪魔の子ですって!?じゃあどうして、どうしてアミリトスで教育を受ける権利があるのよ!!」
「わからない・・・。多分、気付いていないんじゃないだろうか。気付いていれば処刑されたはずだ。悪魔の能力は神と天使の中間。だから見抜くのは難しいらしいじゃないか」
と言い合っている声が聞えた。サミュエルは苦笑した。
「何だよ、気づかれてないのか・・。でも、時間の問題だな・・はは」
何をするにも気力が出なくて、しばらくベッドに横たわっていると、ドアが開いてテッドが入ってきた。テッドは椅子に腰掛けると、弱々しく笑った。
「サム、多分お前が処刑されていないのは・・」
「悪魔は神と天使の中間の能力。見抜くのは難しい。まだバレてない。けど、時間の問題だと思うよ」
テッドの言葉を遮るようにして言うと、テッドはああ、と言った。
「俺、死んだほうが皆に迷惑かからないよね」
一度言葉にすると、心にずっしりのしかかって来た。
「悪魔の子は死ぬはずだ。じゃあ今からでも遅くないじゃないか。どうしたらいい?どうしたら迷惑にならない?毒?水死?首吊り?それとも、手首でも斬る?」
「やめろ」
テッドは静かに、だが強く言った。
「サミュエル、お前は悪魔の子だろう。けど、見た目は違う。人間だ。通常はすぐそれと分かる。けど、お前は違う。人でもあり、悪魔でもある。・・お前なら、変えられるだろう。未来を。人でもあり、悪魔でもあるお前ならば、今後一人も悪魔の子が生まれないようにすることが出来るんじゃないか?」
サミュエルはしっかりとその言葉を噛みしめた。
「・・わかったよ。でも、どうすればいいんだよ?どうやればそんなことが出来るの?」
「アミリトスでは、悪魔のことも教える。悪魔について学び、魔界へ行くしかないだろう。そこからはわからない。けど、お前ならきっと答えを見つけられるだろう」
「魔界・・・」
魔界。悪魔の巣窟。人は行く事が出来ない世界。天使や神も、戦のときしか行かないような場所。でも、悪魔なら入れる・・・・・・・。
「・・そうだね」
テッドはサミュエルの頭をぽんぽんと叩くと、部屋を出て行った。
それしか、生きることを許される方法はない。けど、魔界に行くことは自分が悪魔と認めることと同じだ。
生きるか死ぬか。
それが決まる。
サミュエルの中で、覚悟はもう、決まっていた。