第1話 不思議な力を持つ少年
「うわぁ~っ」
リザルト・レーンが目を輝かせてサミュエル・ハーストの作った空飛ぶ船を見つめる。船はサミュエルの周りをくるりくるりと回ると、風と一緒に何処かへ飛んで行った。
「やっぱ、すごいよ。サムは。どうやってるんだ?」
わからないよ、とサミュエルは肩をくすめて言った。
「ただ船を作って、ふーって息を吹きかけるだけだよ」
「そんなこと言っても、俺、できなかったけどなぁ」
リザルトはハハハッと笑いながら言った。リザルトはサミュエルの唯一の友達だった。皆サミュエルの船を見ると、「神の息子だ」だの「いいや、天使の息子さ」だの言って一気に態度を改めてしまうからだ。
エルザエルでは「神」とか「天使」とか「悪魔」が信じられている。サミュエルもその話を聞いたことがあるが、自分はそうでないと感じていた。普通そういったものの子供は耳が細長く、尖っているのが特徴だ。でも、サミュエルにはそれがなかった。あったらそういった子になってしまうので、サミュエルは丸い耳でよかったと内心では思っていた。
父のテッドと母のアリシアが遠くからサミュエルを呼ぶ声が聞えたので、サミュエルはリザルトに挨拶をしてから父と母の元へ行った。もし、これがリザルトと最後に交わす言葉と分かれば、サミュエルはもっといい言葉を残していたのかもしれない。
「サム」
母は期待と不安の入り混じった目を、父は喜びと悲しみが入り混じった目をしていた。
「どうしたの?」
サミュエルはどうもこれはおかしいぞ、と思い、慎重に聞いた。
「サム、神の子や天使の子は、エルザエルの外の永久に戦わず、ただ神と天使を信じる国、アミリトスに行き、教育を受けるのは知っているな?」
サミュエルは両親の目を見ながら頷いた。その続きは容易に予想できた。でもサミュエルは、その予想が外れることを心の底から祈っていた。
「サム、貴方は選ばれたのよ。神の息子なのか、天使の息子なのか、それはわからないけれど、とにかく貴方は選ばれたの。アミリトスで学ぶに相応しい者だと」
サミュエルは暗い穴の中に突き落とされた。これで普通のくらしとはさよならだ。好きな女の子が居たわけでないが、いずれできて、その人と結婚するというありきたりな幸せを知ることはない。ごく普通のわが子を持ち、その子の成長を見つめることもできない。普通に年をとり、病気になることもない。死ぬ時も、愛する人の名を呟くという普通の死に方もできない。神の子、天使の子として、国の操り人形となることを義務付けられたのだ。
サミュエルの苦痛が顔に出たのか、母は慌てて言った。
「すぐにって言うわけじゃないのよ?数ヶ月後の話。それまでどこかで思い出を作りましょう?ね?」
そうだ。家族も捨てなければならない。神の子、天使の子として、両親と戸籍上でも切り離される。神の子、天使の子は確かに栄誉だ。しかし、あまりにも代償が大きすぎる。
サミュエルは家へ着くと部屋に引きこもった。夕食の時間になっても、両親の声にも反応しなかった。ただただ、葛藤し続けた。その二つの植物を解こうとすればするほど、自分が巻き込まれてゆくのを実感しながら。