第7話 死闘
洞窟最深部…
広い空間になった場所に禍々しい魔力が満ち溢れていた。
手前にゴブリン4匹。
その奥に 強大な魔力の発信源。
大きさや姿は人間に近いが 顔の中心に大きな一つ目があるだけで 後は全身が真っ黒だ。
その異様な姿に全員が息を呑む。
「ナイトメアだ…」
ゼクスが呟くが ロイには聞き覚えがない名前であった。
「ナイトメア?」
「かなりの強さを持つ魔物だが 希少種で その姿は滅多に見ることはできない魔物だ。まさか こんな所でお目に架かるとはな…」
ナイトメア。希少種で情報が少ないことから 戦闘方法等は不明である。
「オラオラァ!秒殺だ この野郎!!」
勢いよく飛び出していくフラッグ。
4匹のゴブリンが同時に飛び掛かるが 呆気なくフラッグによって 叩き潰される。
「次はテメェだ!一つ目ぇ!!」
フラッグがナイトメアに向かった その時…
全員の目が見開かれた。
激しい衝撃音と共にフラッグが一団の最後尾より 遥か向こう側に吹き飛ばされたのだ。
「なんだ!?何が起きた?ナイトメアは指1本 動かしてなかったぞ!」
さすがのロイも この状況に動揺を隠せない。
「…恐らく衝撃波の類いだろ。迂闊に近づくなよ?」
この状況でも ゼクスは冷静に状況判断していた。
ゆっくりと拳銃を引き抜き ナイトメアへと向ける。
そして 引金を引き 銃弾を4発放つ。
放たれた銃弾は真っ直ぐナイトメアへと向かって飛ぶ。
しかし銃弾はナイトメアの手前3mぐらいの距離で見えない壁に弾かれた。
「やはりダメか…」
ゼクスは悔しそうに 眉根を寄せる。
その背後から 白いコートに身を包んだ 赤髪がゆっくりと前へ出る。
「どいてろ。」
キルバインは腰から夢幻刀を抜き放つと 直ぐ様 煙を発動させた。
辺り一面に広がる 白い煙。再び現れる10人のキルバイン。
しかし ナイトメアは未だに動こうとはしない。
ずっと同じ場所から 戦士達を見つめるばかりだ。
キルバインは夢幻刀を構え 相手を誘うが それでもナイトメアは 微動だにしなかった。
キルバインは痺れを切らし 5人ナイトメアへ向かわせる。
ボンッ!!
激しい音と共に 5人のキルバインは 見えない壁にぶつかり 煙と化す。
「おい!あの男が全員いないぞ!」
「見ろ!あの魔物の後ろだ!」
残り5人のキルバインは いつの間にか ナイトメアの背後へと回っていた。
ナイトメアは気づいていないのか 余裕を見せているのか 振り返らずに前方を見つめたままだ。
その隙をついて 4人のキルバインがナイトメアへと突撃する。
しかし 同じように 4人は見えない壁にぶつかり 煙と化してしまった。
「なるほど…
これは衝撃波ではない!半径3m程の 円形の結界だ!」
キルバインが叫ぶ。
読みは当たっていた。ナイトメアは自分の周囲に強力な結界を張っていたのだ。
「結界か…この中に解除魔法を使える奴はいてないか!?」
ゼクスは周りを見渡す。
しかし 誰も名乗り出る者はいなかった。
結界を解くには解除魔法を使える者が必要なのだが この中には一人もいなかったのである。
全員の表情が曇りだす。
「何か他に方法はないのか!?」
ロイの問いに ゼクスは表情を曇らせたまま答える。
「もう一つ方法はある…
それは 奴の結界の魔力を超える威力の攻撃を ぶつけるという方法だ。
だが この中には それほど強力な攻撃を放てる奴はいないだろう。」
ゼクスの言葉にロイは沈黙する。
しかし 突然ロイが何かを閃いたような表情になる。
それを見た ゼクスは不思議そうにロイを見つめた。
「俺がやる!!」
ロイは一歩前に進み 大剣を構える。
ロイが閃いたのは 黒いオーラによる 攻撃力底上げの一撃。
しかしロイはまだ黒いオーラを 使いこなせるとは言えない。一か八かの賭けである。
ロイは目を閉じ 魔力を集中させる。
そして 目を開くと同時に 一気に魔力を解放させた。
「な なんだあれは…?」
「真っ黒なオーラ?」
ロイの体からは禍々しい黒いオーラが放たれていた。
それを見た 全員が驚愕し 呆然と眺めている。
しかし一番驚いているのはロイ自身だ。
初めて自分の意思で黒いオーラを放つことができたのだ。
「出た!!
よし…これを全て剣と腕に集中させるイメージ…」
再び目を閉じ さらに魔力を集中させる。
すると 全身から放っていた黒いオーラは 徐々に腕の方へ集まり 大剣と腕だけが巨大な黒いオーラを放っている状態となった。
「あれが レオの言ってた黒いオーラか…
なんて魔力だよ…」
ゼクスは黒いオーラを放つロイを見つめる。
「さぁ!勝負だっ!!」
ロイは叫びながら 大剣を振り上げ 走り出した。
ナイトメアに近づくにつれ ロイの魔力が段々と上昇していく。
気付けば 大剣から放たれる黒いオーラは洞窟の高い天井にまで達する程 大きくなっている。
ナイトメアの3m程手前 結界が張られていると思われる空間に ロイは渾身の力で大剣を振り下ろした。
ズドォォォォォ!!!
凄まじい轟音と共に眩い光が放たれる。
その光に全員の視界が一瞬奪われた。
パラパラと岩の崩れる音が響く中 瞼を開けると そこには目を疑う様な光景が広がっていた。
洞窟の奥の壁と天井が大きく斬り裂かれ 外の光が射し込んでいる。
地面にも長い大きな地割れが続いていた。
辺りは その破壊の衝撃から粉塵が立ち込め 視界の悪い世界が広がっている。
その中央に地面に半分以上 突き刺さった大剣を持つ 青年が一人。
その奥に 左腕を切り落とされ 大量の黒い血が吹き出しているナイトメアがいた。
瞬間 全員から歓喜の声があがる。
「やったぞ!結界を破った!」
「あの青年はたしか 白銀の翼の剣士だったな。さすがだ!」
「あれで まだルーキーらしいぞ。幻のギルドと呼ばれる訳だ…」
ロイに注目が集まる。
この事がきっかけでロイの名は ガレン大陸中に広がることになる。
戦士達が浮かれている中 ロイ ゼクス キルバイン フラッグ パルシオン レオナルドの6人は 硬い表情のまま同じ方向を 見つめていた。
その状況に一人の騎士が気付く。
「おい 見ろ!不気味だ…」
視線の先には 左腕を失って 大量の出血をしているにも関わらず 平然と立つ ナイトメアがいた。
ロイはすかさず 攻撃に移る。
黒いオーラは既に消えているが 凄まじいスピードでナイトメアへと迫る。
結界は完全に消失しているようだ。
あっという間に懐に入ったロイは 間髪入れずに ナイトメアの胴体目掛けて 大剣を振り下ろす。
「なにっ!?」
振り下ろされた大剣は 何の手応えもないまま 地面を激しく打ち付ける。
剣がナイトメアの体をすり抜けたのだ。
刹那 ナイトメアの瞳が光る。
「ぐわぁっ!!!」
ナイトメアの目から放たれた光線が ロイの右肩を撃ち抜く。
光線の衝撃によって バランスを失ったロイはよろめき 地面に転がる。
「ロイ!!!」
ゼクスが叫ぶ。
ナイトメアの瞳が再び光り 無防備なロイに光線が放たれた。
「させん!!!」
光線を大きな盾が遮る。
帝都親衛騎士団 団長 レオナルドがナイトメアとロイの間に 割って入ったのだ。
光線が直撃した大きな盾は 粉々に砕かれる。
「急いで退避しろ!」
「お おぅ!サンキュー!」
レオナルドとロイは素早く 後方へと下がる。
「ぜあぁぁぁぁっ!!!」
それと同時に パルシオンが飛び出し ナイトメアに連続で突きを繰り出す。
しかし 先程と同じ様に 槍はナイトメアの体を全て すり抜けていく。
微動だにしないナイトメアの瞳が 先程とは異なる 赤い光りを放つ。
「!!!!!」
突如 パルシオンの動きがピタリと止まった。
しばらく動かなかったパルシオンが ゆっくりと一団の方に振り返る。
「…………後ろにも 魔物がいたか。」
パルシオンの憎悪の籠った視線は 明らかに一団に向けられている。
そのままパルシオンは長い槍を 味方であるはずの一団へと構えた。
パルシオンの目はどんよりと濁っている。
先程のナイトメアが放った赤い光りは 洗脳の効果があったようだ。今 パルシオンの目には仲間が魔物に見えているのだ。
「パルシオンさん どうしたんです?」
残り4人の風神雷神のメンバーがパルシオンを心配し 近寄っていく。
「バカ!近づくんじゃねぇっ!!」
ゼクスの叫びも虚しく パルシオンが槍を回転させながら振り回すと 風神雷神の4人は 呆気なく バラバラの肉塊となり 地面に散らばった。
これにより パルシオンを残し 傭兵ギルド 風神雷神のメンバーは全滅となってしまった。
洗脳されているとはいえ 奇しくも 風神雷神を全滅させたのは同じ風神雷神のパルシオンとなったのだ。
「何やってんだよ おっさん!今アンタが殺したのは アンタの仲間だぞ!!」
ロイは悔しそうに パルシオンに叫ぶ。
しかしパルシオンの表情が変わることはなかった。
「…仲間?魔物を仲間にした覚えはない。」
「馬鹿野郎がぁ…!!!」
ロイの体から黒いオーラが勢いよく噴き出す。
パルシオンに向かい走り出そうとした その時 キルバインがロイを手で制す。
「その力は ナイトメアに使え。
フラッグ!!」
キルバインがそう叫ぶと 後方からフラッグが飛び出し パルシオンに掴みかかる。
「了解だ 先輩!コイツは俺がやる!!」
そのままフラッグは洞窟の裂け目に パルシオンを投げ飛ばし 自身も裂け目に飛び込み 外へと出ていく。
「魔物め…なんの真似だ?この俺が成敗してくれる!」
「あぁ?訳わかんねぇ事言ってんじゃねぇぞ!その前に 俺がお前をブチ殺す!!」
パルシオンとフラッグは構え 激しく睨み合う。
先に動いたのはフラッグ。
大地を強く蹴り ワンステップでパルシオンの懐へと入り込む。
パルシオンは素早く一歩下がると 槍の柄の部分を振り上げる。
それを左にかわし フラッグは強烈な左フックをパルシオンのテンプル目掛け 放つ。
しかし 体を捻って上手くかわされ フラッグの拳は空を切った。
「ちぃっ!! 」
フラッグは舌打ちし 飛び退くが パルシオンの長い槍の射程範囲は恐ろしく広い。
体を捻った反動を利用し そのまま柄の部分で フラッグを殴り飛ばす。
勢いよく 飛ばされたフラッグは なんとか受け身を取り 態勢を整える。
「結構やるじゃねぇか。」
フラッグは ニヤリと笑いながら 足を少し屈め 低い姿勢をとる。
そのまま拳を振り上げると 激しく地面へと叩きつけた。
「オラァッ!!」
拳を打ちつけた地面から 地割れが起こり 凄まじいスピードで パルシオンへと伸びる。
それをパルシオンは冷静に 高く跳躍して避ける。
しかし 地割れに意識を集中させていた パルシオンのすぐ目の前に フラッグの姿があった。
「隙だらけだよっ!」
鈍い音が響く。
腹部を殴られたパルシオンは 激しく地面へと打ち付けられる。
そして すぐに急降下してきたフラッグの追い討ちを まともに食らった。
上空から 全体重を乗せたストンピング。それをまともに食らった パルシオンは 内蔵をやられたのか 吐血する。
「ゲホッ!
お 俺は一体…」
「なんだ?元に戻ったのかよ?つまんねぇな。」
攻撃の衝撃で 我に返ったパルシオンを見て フラッグは不服そうに パルシオンから離れていった。
―☆―
一方 洞窟内ではロイとナイトメアの睨み合いが 続いていた。
結界 攻撃のすり抜け 光線 洗脳。厄介な戦闘スタイルに迂闊に手を出すことが出来ないでいたのだ。
ロイが躊躇していた その時…
ナイトメアが初めて自ら動き出す。
ゆっくりと一歩ずつ ロイへと向かう。
「くそったれ!!」
段々と距離を縮められ たまらずロイが飛び出す。
右肩の傷は重傷で 利き腕である右腕をダラリと下げ 左腕一本で大剣を構え 走り出した。
ナイトメアを射程に捕らえると ロイは渾身の力で 横薙ぎの一閃を繰り出す。
しかし やはり大剣は虚しく ナイトメアの胴体をすり抜けていく。
「くそっ!!」
焦るロイに向け ナイトメアの瞳が激しく光る。
攻撃後の大きな隙に 至近距離からの光線攻撃。
ロイには回避の仕様がない。
しかし 光線が放たれるより前に 銃声が3回 鳴り響く。
ゼクスの拳銃から放たれた弾丸は真っ直ぐナイトメアの頭部へと向かう。
ナイトメアは寸前の所で上体を反らし それを回避した。
「!!?」
今まで攻撃に対して 微動だにしなかったナイトメアの初めての回避行動に ゼクスは眉根を寄せた。
「目だ!奴の弱点は恐らくその目だ!!」
ゼクスの言葉の後 帝都親衛騎士団の弓部隊が一斉に ナイトメアの瞳目掛けて矢を射った。
ナイトメアはそれを 全てかわす。
やはり ナイトメアは瞳に向けられる攻撃に対しては 回避行動をとるようだ。
「おい 小僧。あの黒いオーラの一撃は まだ放てるか?」
全員がナイトメアの目を狙って 攻撃を続ける中 キルバインがロイに近づく。
「デカイのを後 一撃は出せると思うけど?」
「よし。じゃあ貴様は それで奴の胴体を狙え。」
キルバインの言葉に ロイは怪訝な表情をする。
「なんで胴体なんだよ?アイツの弱点は目だろ?」
「いいから やれ!」
キルバインの気迫に圧され ロイは渋々 了承する。
「いいか?貴様は剣を振り始めたら 何があっても そのまま振り抜け。」
キルバインの言葉に頷き 直ぐ様ナイトメアへ疾走する。
黒いオーラを放出させ 先程の様に 剣と腕にオーラを集中させる。
圧倒的なまでのスピード。ロイは黒い閃光となって 瞬き一つの間にナイトメアの懐へと入った。
そのまま ナイトメアの胴体目掛けて大剣を振るうと同時に 背後から白い煙が舞い込み ロイとナイトメアの間に対流する。
キルバインが夢幻刀を発動させていたのだ。
ナイトメアの視界には夢幻刀の幻覚効果により ロイが頭部目掛けて 剣を振るってくる光景が見えていた。
その幻覚に惑わされ ナイトメアは身を屈めて 幻の攻撃を避ける。
しかし 屈んだ先には本物のロイが煙から飛び出してきていた。
「もらったぁー!!!」
黒いオーラが爆発的に放出され 白い煙は一瞬で掻き消されていく。
ロイの放った 渾身の一撃は見事にナイトメアの目を 真っ二つにした。
「キェェェェ!!!」
断末魔の叫びと共に ナイトメアの体は 空間に溶け込む様に消えていく。
「勝った…勝ったぞ~!!」
ロイは歓喜の雄叫びをあげながら 後ろへ豪快に倒れこんだ。
黒いオーラによる 疲労のためである。
なんにせよ 戦士達は この戦いに勝利したのだ。
歓喜の声は いつまでも鳴り止むことはなかった。




